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|||謎の東洋人女性

「何故ここに居る」
「凛ちゃんも士郎くんも授業なので、見学に」

ニコニコと座席にいる一人のアジア女性。
青筋を立てて声を低くして怒っているロード・エルメロイU世に、その女性は恐がる素振りも、悪そうにする素振りもない。

「そういう事を言っているのではない。何故、ここに、君が、居るのかをだな」
「そうですね…あえて言うなら観光」
「………馬鹿馬鹿しい」
「そう言わないでください。マッケンジー夫妻からの御届け物をあるんですから」
「………邪魔はするな」
「勿論です」

ただただその教室ではそのやり取りが異質だった。
あのロード・エルメロイU世に対して、あの女性は堂々たる、いや悪びれる様子もなくいる。普通であればこの教室で授業を受けたい人間は大勢いるし、飛び入りをしたところでつまみ出される。
しかしあの女性はどうだろう、それが無いのだ。
睨まれてもひるまない。何よりあのロード・エルメロイU世が出て行けとは言わないのだ。
生徒たちは多少ざわついたものの、ロード・エルメロイU世の咳払いにただ黙った。



「聞いていないが理由があるなら聞こう」
「ちゃんとメールで連絡しましたよ、私。どうせ見ないで消したか迷惑メールにでもしてみてないのでは?」
「…………」
「あとコレ、ご夫妻から。ウェイバーちゃんによろしくとのことです」
「ウェイバーちゃん言うな」

それは失礼しました。と名前は笑う。
授業が終わり、ロード・エルメロイU世の使う部屋に通されソファに腰掛ける。
名字名前。彼女とロード・エルメロイU世は言えば兄弟弟子の関係にあたるのだろう。同じケイネス・エルメロイ・アーチボルトを師としていたのだから。
ただ名前の場合は通常の魔術師とは違い、師と言っても叔父の知り合いだったアーチボルトが日本に来た際にほんの少しだけ魔術を教えたに過ぎない。そもそも名前は魔術師ではない、また特殊な立場なのだ。
そんな名前がロード・エルメロイU世と関わりがあるのは第4次聖杯戦争がきっかけだ。
同じ人間を仰ぎ、そして失墜させた。

「……元気か」
「ええ、ウェイバーさんにとても会いたがっていましたよ」
「そうか」
「はい。今度はいつ冬木に来るのかしらって」
「…………」
「それでですね」
「…なんだ」
「おばあ様から『ウェイバーちゃんの写真、お願いできないかしら』と頼まれたのですが」

名前ば持っていたバッグからカメラを出す。
その顔は実にいい笑顔だが、その反対にU世の顔は引きつっている。
機械が嫌いなわけではなく、ただその目的の為に教室に現れたのかという驚愕だ。
名前はそれだけが目的ではないだろう、教室で見つけた時に誰かと誰かに会いに来たついでに観光だと言ったのだ。あの教室で。

「写真、嫌いならいいんです。ただおばあ様が落胆されるだろうなって思いますけど。ウェイバーさん写真が嫌いだっていうなら、おばあ様もきっと」
「その厭味ったらしい言い方はどうにかならないのか」
「メールを無視したあげく、教室であんなふうに扱われたんです。これくらいしてもバチは当たりません」
「……」
「おばあ様とおじい様、心配なさっていましたよ。写真くらいいいのでは?」

魂抜かれるわけじゃないんですし。とどこの考えだと言いたくなるジョークを口にする名前。
恐らく名前に口で言っても名前は軽くあしらい、それどころかU世が嫌味を言っても理解しないだろう。

「……わかった、写真くらい良いだろう」
「本当に?その後に何か条件ださないでくださいね」
「出すか!……ただし時計塔を出てからだ」
「ああ、ここの人って色々面倒なんでしたっけ。ここで眉間にしわを寄せて不機嫌そうにしている姿よりご夫妻は喜びますね」
「………原因はお前だろうに、名前」
「まあ。せっかくウェイバーさんの好きなゲームの新作の載ったゲーム雑誌持ってきたのに」
「な!?」
「私がいるとそんなに不機嫌になるなら要りませんよね、すみません」
「…」
「確か予約特典の情報と、各店舗限定のグッズ、シリアルコードが何とかかんとか……」

ちらり。と名前がU世の顔色をわざとらしく伺う。
バッグとは別の紙袋から日本語で書かれたゲーム雑誌が顔を覗かせ、例のゲームのキャラクターが描かれているではないか。

「………、ビデオメッセージなどどうでしょう」
「…っく。わかった、その条件を飲もう」
「…ゲーム雑誌に負けるご夫妻はさぞ複雑でしょうね………」
「やめろ。」
「冗談です」
「………そんな性格だったか?」
「それを言うならウェイバーさんも同じですよ。聖杯戦争の時と今じゃ全然違うじゃありませんか」

面識というより、名前が一方的に知っていたというのが正しいだろう。
ウェイバーの師はケイネス。名前の師もケイネス。
日本に来てからの師となるので、時間的にはウェイバーの方が名前よりも長く、そして因縁に付いては名前がとてもよく聞かされていたわけだ。
ケイネスからのウェイバーの評価は良いものとは到底言えず、普通であれば他人の評価を名前のような子供にこぼす事もなかった。

「そんな事はいいんです、私も人の事言えた立場ではないので」
「…………」
「授業、まだありますか?」
「いや、さっきのが最後だ」
「凛ちゃんと士郎くんは夕方まであると言っていたので、それまで暇ですか?」
「暇に見えるか?」
「時間は作るものですよプロフェッサー?」
「…誰に聞いた」
「さあ、誰でしょう。たまに来た妹弟子を可愛がるもの兄弟子のお仕事です」

仕方なしに名前に付き合うために腰を上げる。名前はそれを見て満足そうにしてその後ろに続く。
名前は数日滞在したらしく、最終日にまたひょっこりと現れて「帰ります、お元気で」と日本人の得意なお辞儀を一つして姿を消した。
U世が知るのはそのまた数日後なのだが、名前と彼が一緒に歩いているのを数名の関係者や生徒が見ていた事もあり、「もしかして婚約者?」「いやまさか」「でも一緒に歩いていた」「時計塔一抱かれたい男に女が!?」と本人の知らないところでゴシップが流れていた。

※朝霧様
 fateのウェイバーくん、もしくはU世のお話





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