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「#エロ」のBL小説を読む
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|||-10の齟齬

「アレはいったい何なのです?」

マスターにニトクリスはコソコソと聞く。
その先には見慣れない少女…というには少しばかり大人に近いようにも見える。その顔は名前に実によく似ているし、その後ろをついて歩くサーヴァントは名前が従えているバーサーカーのクーフーリンだ。
あのバーサーカーが気にかけるのは名前以外にはいないし、あるとするならば戦う事だけだ。このカルデアで戦うということはなく、たしかあのバーサーカーはもっぱら名前を気にしていたはず。

「ああ、ニトクリスは初めてだっけ」
「…はい?」
「あの子、名前さん。前もね、一度ああなった事があるんだけど、原因は不明。ドクターの話じゃ特異点Fが関係しているんじゃないかって言われていたけど…」
「前はいつの間にか元に戻られていましたし、今回も同様ではないかとダ・ヴィンチちゃんから連絡が来ていますよ先輩」
「あの子供が、名前様?確かによく似ておられますが…精神的な退行ではなく肉体的な退行など…ありえ…なくもなさそうですね」

ありえない。と一刀両断したいところだが、サーヴァントではあるがその例がいる。
人間とサーヴァントを同様に考えるべきではないのはわかるが、だからと言って簡単にその可能性を否定もできないだろう。ここはカルデア、過去の英雄たちが集まっている場所なのだ。
マスターに「気になるなら話してみたら?名前さんきっと喜ぶよ」と言われ、そのマスターはマシュと共に報告があると言ってしまった。


「お、おほん」
「……こんにちは」
「こ、こんちには。見ない顔ですね」
「……名字、名前です」
「そ、そうですか。私はニトクリス、ファラオです」
「…ファラオ、さん」
「いいえ、ニトクリスです」
「ニトクリス、さん」
「ええ、そうです!名前様、オジマンディアス様にはお会いになられましたか」

少し困った顔をした名前はクーフーリンを見上げ、クーフーリンはただ名前を見返すばかり。名前はニトクリスを見て頭を振る。
知らないのか、会った事が無いという意味なのかは分からないが、とりあえずまだ知らないらしい。
そうとなれば会わせなくてはならない。
なんといってもオジマンディアスが養女として迎え入れた人間である。それが縮んだとなれば大事だ、報告もしなければならない。

「では名前様、ファラオ・オジマンディアスに会いに参りましょう」
「……あの、どう、してですか?」
「名前がソイツに会う理由はない」
「ま、まあ!いいえ、いいえ名前様。お会いする理由はありますとも!」
「行くぞ名前。耳を貸す必要はない」
「なんという言い草!ファラオたる私に対する侮辱とみなしますよ!」
「それがどうした」
「な、な…不敬!不敬です!!名前様、この様な不敬なサーヴァントとは即刻契約解除を!」
「あの…どうして、私を名前様って、呼ぶんですか?アサシンと同じで前に契約した事があるんですか?」
「な…あ、いえ…その、そう…では…ないのですが…」

もっともな名前の質問に今度はニトクリスが言葉に詰まる。
確かに急にオジマンディアスに会いに行け。と言うのは道理がないし、それにニトクリス自身が名前を「様」と付ける理由が今の名前にはないはずだ。
オジマンディアスを知らない名前にしてみれば、急に出てきたニトクリス自体が不思議でしかないのだ。

「名前様は、ファラオ・オジマンディアス様の御息女ですから!?」
「…………私、いつの間にファラオさんの子供になったの?」
「なっていないし、なることはない。勝手にアレが言っているだけだ、名前が気にする必要はない」
「ア、アレ!?」
「行くぞ名前、お前がアレに関わる義理はない」

困っている名前をバーサーカーは無視して腕を引く。
名前がニトクリスに「ま、また…あとで」と小さく挨拶をして、そのままバーサーカーに連れて行かれた。
ニトクリスはいったい何から怒っていいのか、どうしたらいいのかを混乱する頭で考え、これはまずオジマンディアスに報告をするのが先決なのではと気づき急いだ。

「オジマンディアス様!大変でございます、名前様が」
「マスターから報告は来ている!で、その名前は何処にいる」
「実はバーサーカーのクーフーリンに」
「なに!?食われただと!」
「く、食われてはおりません…」
「ではなんだ」
「…連れて、行かれまして」
「何かおかしい事があるのか」
「え?」
「アレは名前の従者である」
「は、はあ…しかし、」
「従者である限りは主を守るのが役目」
「そ、そうではありますが…まず、オジマンディアス様にご挨拶をするのが道理ではと思いまして」
「確かにそうである!!しかし雛ではあるが子供ではない、そこまで庇護することもないだろう。何より従者がいる」
「………」

徐々に耳の様な髪の房が垂れ下がるニトクリス。
ニトクリスからしてみれば名前はオジマンディアスが迎えた養女、その養女の名前に一大事が起きたのだ。それをスマートに誘導し、オジマンディアスに会わせて事の次第を報告し、名前の身の安全を確保する。それがニトクリスが感じ取った使命だった。

「しかし、だ」
「はい…」
「いくら庇護を従者に一任しているとはいえ、挨拶がないのは躾が必要である!!」
「!」
「行くぞニトクリス!我が養女に挨拶のひとつでも父として教えてやろうではないか!!」
「はい!!」

しばらくして、爆音が響いたのは言うまでもないだろう。
名前が戻った後には案の定呆れられ、ただただ大きな溜息だけが名前から漏れていた。

※八雲様
 短編のちぢこまりの続編




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