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「#エロ」のBL小説を読む
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|||野生の心2

「…で?」
「…………うん」
「うん。じゃねえよ、うん。じゃ」

俺は忠告したよな?と言わんばかりのキャスターのクーフーリンに名前はただただ「すみませんでした」と謝るほかない。
ただそれを首のないアヴェンジャーが宥めるように手でジェスチャーをする。

「アンタはいい、まだこうして言葉が通じるんだ。問題はあっち、言えば本体の方だ」
「それ凄く失礼じゃ…」
「あ?」
「ごめんなさい…」

本体と呼ばれたアヴェンジャーはくだらないと言わんばかりに唸りもしなければ吠えもしていない。ただ金色に輝く瞳を上下左右と動かし何かを探るようにしている。
警戒しているのだろうともとれるが、ただただ人間がいて不愉快なのかもしれない。
前に忠告された「人間を恨んでいる」という言葉が名前の頭の片隅で再生される。

「ぎゃー!なんて悲鳴を聞かされたこっちの身にもなってみろ」
「…はい」
「でもまあ噛みつかれてないみたいで安心した。ここにバーサーカーやらハサンが居てみろ、本格的に戦闘になっていたぞ」
「……反省しています」
「にしても、よく無事だったな」
「デュラハ…ンじゃなくて、上の人が止めてくれて」
「……そうか、世話になったな。こんなんでも一応は俺達のマスターでな」
「こんなんでも…」
「あ?」
「なんでもありません、すみませんでした」

ほら行くぞ。とせっつかれ、名前はキャスターの後ろを付いて行く。
振り返ると首の無い彼は大きな大きな狼に跨り、名前に向かい手を振っている。それにつられて名前も彼らに向かい手を振る。
すると大きな獣は知ってか知らずかフンと大きな鼻息を吐き付け、大きな体を揺らしながら姿を消した。



翌日、馬鹿ではないので名前も名前で学習はした。
大きな鎖を引きずる音がしてもそれを追ってはいけない。誰がか名前に用事がある場合は声を絶対にかけるはずだから己からは接触を極力しない。
バーサーカーであってもスタッフを傷つけることはない、ただあのアヴェンジャーが危険だというだけなのだと。

小部屋で一人雑務をしていると、昨日聞いた鎖の音が聞こえる。
ああ、あの大きなアヴェンジャーが近くに居るのね。と名前は思い、しばらくこの部屋からは出られないなとぼんやりと考えながらも作業を進める。
作業自体はまだまだ時間がかかる事で、終わるころにはもういないだろうとたかをくくっていたのだ。

「…っ、びっくりした……」

そんな鎖の音の事など忘れ、雑務を終えてスタッフの所に行こうとして扉を開ければその大きな体を休めるように狼のアヴェンジャーがそこに伏せている。その背にはあの首のないアヴェンジャーを乗せて。
なるべく刺激しないようにとそろりそろりをそのアヴェンジャーから距離を取ろうとすると、狼のアヴェンジャーは体を起こし、ジャラリジャラリと鎖を引きずり名前の前に移動する。

「……あ、あの…日本語、わからないかもしれないけど、私……あっちにね、行きたいんだ…けど……」

恐る恐る「あっち」と指を指す。
しかし狼のアヴェンジャーは我関せずと言わんばかりに名前の言葉には耳を貸す様子はなく、フンフンと名前の匂いを嗅ぐ。その生温かな空気と獣独特の匂いに名前は息を止めるが、それは長く持つはずもなく名前はまた小さく、ゆっくりと呼吸を再開させる。

「えっと…、く、首なしさん…?」

出来れば助けてください。という意味で声を掛けてみたものの、表情が無いので何を考えているのかわからない上に、日本人とは体格が違うので国が恐らく違うのでジェスチャーでも言いたいこともわからない。
ただ漠然と思うのは「自分には彼をどうすることも出来ないけど、多分噛んだりしないよ」という雰囲気だけ。

「え…えっ、ちょ…な、えええ!?あ、アヴェンジャー!?ちょちょちょ…」

大きな口が開き、頭が名前の後ろに回ったと思えば襟の部分を引っ張られる感覚。そしてゆっくりと体が引っ張られ、床から足が離れそうになるではないか。
これでは最悪首が締まって窒息してしまう。

「ダメダメダメ、首締まっちゃう!」

その言葉を理解したのか、動きを止めてその気配が離れる。
どうやら襟を咥えてどこかに運びたかったらしいが、それは名前には理解できない。
ただ狼のアヴェンジャーは悪びれた様子もないので、もしかしたら遊び相手を探していたところに名前が居たのだろうか。
狼とはいえ、一応は英霊であるのだからサーヴァント対人間となれば人間は死を覚悟する他ないことを理解していないはずがないのだが。

「…私ね、これをスタッフさんの所に持って行かないといけないの。お仕事なのよ」
「首なしさん、狼のアヴェンジャーに伝えてください」
「それにね、何か用事があるなら人間の私じゃなくてサーヴァントの誰かが良いと思うの」

キャスターから言われているが、それでも一応は言葉が通じなくても躾として言わなければならない。英霊に対して躾もなにもないが、駄目な事は伝えなければ。幸いにも首の無いアヴェンジャーも居るのだから何かしらの抑止力にはなる。

「じゃあね、アヴェンジャー」

と、名前がまた歩き出そうとすると同じように襟を引っ張られる。
「こら!」と思わず声をあげようとした瞬間、狼のアヴェンジャーは名前を持ち上げようとはせずに引っ張る。いや、引きずり始めたのだ。

「ちょ!?」

首を絞め無いようになのか、やわやわ、ゆっくりと。
しかし襟を咥えているので首は苦しいし、これでは制服が駄目になってしまう。
名前が「駄目だってば!」「アヴェンジャー降ろして!」「ちょっとー!」と抗議の声をあげるが構ってはもらえない。



「名字のマスター、なにしてんだ?」
「……自分でもわかりません。狼のアヴェンジャーが……首なしさんも助けてくれないし」
「……ああ、そういうことか」
「?」
「コイツ曰く、名字のマスターが可哀想だからってかまってやっているつもりらしい」
「可哀想?私が、ですか?」
「ああ、群れからはぐれた子供だと思っているらしい」

その意味は名前には時代から切り離された存在だからと思ったが、狼のアヴェンジャーの言葉を聞いたと思われる坂田金時にはまた違った捕え方をしたのかもしれない。

「今回は一人で不憫に思ったんだと。悪気はない、むしろ善意だ」
「………そう、ですか」

とりあえず放してほしいのですが。と金時に言ってみれば、「それは出来ないってよ。理由は言ってくれないからわからないけどよ、とりあえす名字のマスターが心配らしい」とよく分からない説明をされた。
これはバーサーカーだからわからないのか、アヴェンジャーが狼だからわからないのか。どちらなのだろうと名前は真剣に考えた。


※八雲様
新宿のアヴェンジャーと絆を深める。




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