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|||温かい紅茶とケーキと

「名前、甘い物は好き?」
「甘い物、ですか?」
「そう甘い物。ケーキとか、お饅頭とか、タルトとか、羊羹、月餅!」
「見事にまぜこぜですね。どれも好きです」
「本当!?良かった」
「?」

実はさ、いいお菓子が手に入ったんだよ。とヒソヒソ耳打ちをしてくるドクター。
そう言えば用事があってドクターのラボに行くと大抵何かを食べていて、それを見つけた名前が「また食べているんですね」と笑うのがほぼパターンになってきている。
違うとすれば持っている食べ物で、この前はゴマ団子だった。
何処から仕入れてくるのかは知らないが、とりあえずカルデアのキッチンではないと言う事だけは判明している。なぜなら名前もそこに出入りしているからだ。

「今回は二人分あるから招待するよ」
「いつも一人分だったんですね」
「…うん、まあ……本当なら他のスタッフの分とか手に入れたいんだけど」
「常々私に見つかってしまう、と言う事でしょうか」
「うん…そんな感じ、かな。名前は絶対僕が食べているのを見られるんだよね…なんでだろう」
「間が悪いんでしょうか。でも、この場合は良いのかしら?どうなんでしょうね」

と名前が笑えばドクターも一緒に笑う。
ヒソヒソと「じゃあ何時にしようか」と相談を始め、時間を決める。
飲み物はインスタントコーヒーでは味気ないからと名前が受け持つと話をすればドクターはいい笑顔で「楽しみだな」と答える。

「ドクター甘い物お好きなんですね」
「甘い物にはロマンがある。あ、僕のことじゃないよ」
「わかっています。なんだか女性みたいですね」
「え、そう?」
「私のイメージですが、男性より女性の方がそういうの好きって」
「同じ人間なんだから性別でとらえるのは良くないよ。僕甘い物好きだし」
「そうですね、認識を改めなくては、ですね」
「うんうん、名前は時たま恐い事言うけど素直でいいね」
「ちょっと聞き捨てなりませんね、それ」
「おっと失礼。じゃあまた」
「はい」

廊下でのそんな雑談というか密談、いや談笑を終えて仕事に戻る。
仕事と言えど名前は専門知識も、魔術師でもないので主な仕事は雑用でそれほど重要視もされていないので基本は邪魔にならないようにしながらのスタッフの手伝いである。
時折食堂のオバチャンになってみたり清掃のオバチャンになってみたりと色々な体験が出来ると本人は気に入っている。

「おい名前」
「プロト、お帰り」
「おう。行った先でリンゴとってきたからやる」
「ありがとう」
「手入れされるやつじゃねえから味の保証はないがな」
「………うん。あ、でも少し香りはあるみたい」
「食って不味くても文句いうなよ」
「わかった、ありがとう」

甘い物が洋か和、それ以外かもしれないけれどこれでアップルティーなんてどうかな、と名前は考える。餡子が使われているものには合わないかもしれないけれど、それでも単品で楽しめる。コーヒーと紅茶、それとも日本茶がいいかなと悩んでいたけれどプロトのリンゴで紅茶に決定した。
そうなるとアッサムが確か、と考えて紅茶の在庫とティーポットの確認。
あまり入念に見ているとエミヤあたりに尋ねられると誤魔化すのが大変なのでさらりと確認して、そして適当に理由を付けて借りる。
紅茶の練習をする、といえば誰もが「そう、頑張ってね」と言って快く貸してくれるのがここカルデアの良い所だろう。

「あら名前、紅茶のセットを持ってどこ行くの?」
「紅茶の練習をするのよマリー」
「まあ素敵。ご一緒してもいいかしら」
「まだ練習なの、もっと上達したらマリーにもご馳走するわ。それまで少し待ってね」
「そうなの?残念だけど…名前の上達を待っているわ、とても楽しみよ」

実際最近紅茶の淹れ方はエミヤに習っている。エミヤからはそんな事はしなくてもいいと言われるが、誰かに頼ってばかりはいられないのだ。
嘘を吐くのは悪い事だが、嘘ではないのでセーフだろう。名前の中ではお菓子を一緒に食べるので紅茶の練習も兼ねているのだ。エミヤに知られれば嫌な顔のひとつでもされるだろうが気にしないことにしておく。彼は何かと過保護なのだ、昔から。


「うわ、本格的だね」
「折角の招待です、私も頑張りますよ。エミヤには負けますけど」
「彼上手らしいね、紅茶とかそういうの」
「凝り性なんですよ、昔から」
「昔?」
「って、本人が」
「ああ本人が。確かに神経質っぽいね、エミヤ。もし僕が名前をこうして誘ったのを知ったら嫌味を言われそうだね…」
「そんな事言われたら私が叱ってあげます」
「英霊相手に?凄いね、さすがマスターってところかな」
「英霊と言えど、相手は元人間ですし。話を聞いてくれるからできる事ですよね」
「……」
「ドクター?」
「あ、いや。なんでもないよ」

何とも言えない、むしろ何を言おうとしたけど言えないような顔をするドクター。
名前が不思議に思って声を掛ければ、いつもの様に笑って返された。
準備をしているとドクターもどこかから隠しておいた箱を取りだし、子供の様に「じゃーん」と言ってその箱を開ける。そこにはみずみずしいフルーツが綺麗に並べられ、その台座にはタルト生地が見える。

「すごい!どうしたんですか、これ」
「そこは秘密だよ。不思議な事は不思議なままの方が面白いだろ?」
「手品の様な台詞ですね。そういう事にしておきますね」
「意外、名前聞かないんだ」
「だって秘密なんでしょう?そっちの方が楽しいじゃありませんか」
「とらえ方の違いか…」
「ちょっと極論になってしまいますけど、踏み込まれたくない部分は誰しもあるということです。強要するのはあまり良い事だと思っていない、というのでしょうか」
「消極的だなあ、僕としては『どうしたんですか?教えてください』くらいあっても」
「何の影響です?それ」
「日本のアニメ」
「アニメお好きなんですか?」
「日本のアニメ面白いよ?日本じゃ…あんまり人気じゃないんだっけ?」
「アニメは基本子供の見るものですから」
「え、そうなの?日本の子供凄いな…」

そんなおしゃべりをしつつも名前はお茶の準備を進め、そしてさりげなくドクターからタルトを受け取って綺麗に切り分ける。
冬木に居た時からそういった事は冬木の虎の別名を持つ友人がいたので慣れているのだ。彼女はこういった切り分けるのは得意ではなく、調達だけは上手かった。

「わーすごーい…って、あれ?」
「どうかしましたか?」
「いや、僕の予定では僕が用意したケーキを囲んでわーい、って」
「大体あっていると思いますけど」
「実際は名前が準備をほとんどしている」
「……そう、ですか?」
「お茶の準備、ケーキを切って取り分ける。しかもセンスのいいお皿にカップ」
「これは元々カルデア…じゃない、これエミヤが調達したモノで」
「違うんだ…違うんだよ名前…僕はね、こう、なんというか…アレだよ」
「は、はい…」
「……正直に話すとね、僕だって後輩の名前に先輩ずらをしたかったんだよ」
「はあ…」
「反応!薄くない!?」
「アニメの影響ですか?それともゲームの」

ウェイバーさんはそういうゲームしていなかったので知りませんけど、確か女の子と恋愛するゲームもありましたよね。と名前は明るく返す。
確かに名前以外のスタッフは部下にあたるのだろうし、唯一それから外れるとなると人間では名前だけだろう。
名前に自覚はないが男性スタッフから何かと声をかけられる事はそれなりにある事にはある。

「でも私もそういうことした事ないので、面白そうですね」
「え、名前したことないの?」
「はい、そういう事に縁がなくて。ウェイバーさんにはそのことで嫌味を言われますけど」
「意外」
「嫌味ですか。というか、マシュちゃんから聞きましたけど一度ご結婚されているのでは?今はフリーということなんですか?」
「あー…これ、そういう指輪じゃないんだよね」
「形見か、何かの大切な物、ですか?」
「そんな感じかな…」
「確かに大切な物は身に着けておくのが一番ですよね。私も持ってます」
「でも装飾品つけてないけど」
「見えないところにあるんです。でもエミヤにはバレました」
「エミヤすごいな…エミヤに関係あるもの?」
「まったくもって関係のないもです。なので嫌味を言われました、怒りましたけど。それはそうとお茶の準備も出来たので食べませんか?」

名前が促せば確かにそこにはお茶会スタイルが立派に出来上がっている。
アップルティーの良い香りがするし、持ってきたタルトも綺麗に鎮座して食べる準備は整っている。
ドクターは「ぐぬぬぬ」と悔しそうにしてから大きな溜息をついて何かを諦めたようにして「食べようか」と笑う。

「このリンゴ、プロトがくれたんです。味の保証はないと言う事なので香りだけでもと思って」
「名前はサーヴァントに好かれているよね」
「皆私を子供扱いしているだけですよ」
「あーいいなー僕もそんなことしてみたい」
「マスターになりたいんですか?」
「違う違う、誰かを甘やかすって事をさ。前はあんまり興味持てなかったけど、ちょっとだけ今してみたいなって」
「十分私はしてもらっていると思っていますよ」
「え…いや、でもさ、お茶の準備とか色々してもらっているからコレは違うし」

先輩らしく?いや男らしく?うーん、なんか違う。とぶつぶつ呟きながらタルトを一口食べるドクター。
名前もそれを見ながら曖昧な相槌をうちながら食べ始める。

「不器用なのかな、僕」
「不器用でも頑張っているのは皆知っています、大丈夫ですよ。無理に格好つけようとかしない様が良いと思いますけど」
「ままならないな…ああ、もう!リベンジ!!リベンジするからね名前」
「う、受けて立ちます!!」

ビシッと指さされ、それに反応するように名前も返す。
これでは決闘か何かだね、というドクターの言葉に二人とも一緒に笑い、タルトとお茶を楽しみ始めた。

※紗綾様
 FGOで、ロマニに甘やかされる話




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