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|||傭兵さんと自由な主

「やあ名前、元気にしているかな?」
「昨日と変わらずいつもの調子です、元就殿」
「大殿でもいいんだよ?元はうちに居たんだし」
「今は政宗が主なので」

雑賀の雇い主である伊達政宗。その政宗にあてがわれた部屋に名前はいつもの如く銃を解体して手入れをしている。
最初こそ不得手だと思っていた作業も数をこなし、命を預けている相棒だと思えばそれは苦ではなくなった。むしろ道具と会話する、道具との絆を深めると思えてきた。
そこに前の雇い主の毛利元就がまるで孫か友達かというほどの親しさで名前の部屋を覗き、そしてどしりと座り込んだのだ。

「そのような所にお座りにならないでください、今座布団を用意いたします」
「うん、ありがとう」
「本音を言えばそう軽々と政宗の陣地に入らない方がよろしかと思いますが」
「いいじゃないか、対オロチで皆味方なんだから。名前は少し物事を難しく考えすぎだと思うよ、私は」
「元就殿が簡単に考えすぎなのだと思います。味方とはいえ元は敵国の将、後ろから討たれない保証はないかと。座布団です」

汚れていた手を拭いて、少しだけヘタレた座布団をだす。本来ならば立派な座布団とそれなりの部屋に通すべきなのだが自称お忍びの来ているのでそれがならない。
むしろ門番には「やあ」と気軽に声をかけてまるで伊達家との親交があるようだ。実際は伊達に雇われている傭兵に会いに来ているのだが。

「お茶のご用意は」
「いや、いらないよ」
「左様ですか。では、どのようなご用件で」
「じじいの話に付き合ってもらおうかな」
「日当はどのくらい」
「…名前、すぐそうやってお金の話にするのは止めなさい」
「そう躾けられていますので」
「君の師匠の孫市には一回その件で話さないとかな」
「呼びましょうか」
「いや、今回は止めておくよ。どうせ追い出されそうだし」

でしょね。という名前の言葉は口からでる事はなく飲みこまれた。
元就と孫市の仲が悪いというわけではないが、何かと名前と構う元就を良く思っていないのも事実。
雑賀として稼ぎ頭になりうる名前を引き抜こうしているのだから面白くなくて当然だろう。
そもそも名前には元就にそれほど気に入られる原因に心当たりがない。物覚えが良いとは言われたが、名前自身覚えが良いとは思えない。むしろ無愛想で必要以上に関わらない方が身のためだとさえ思う。

「名前、おるか!また元就公が…来ておったか」
「やあ」
「やあ、ではないわ馬鹿め。貴様よくもまあこうしょっちゅう人が雇っておる人間にちょっかいを出しに来よる」
「しつこいかな」
「呆れる程な」
「いやー照れるな」
「褒めてなんぞおらん。名前、茶を持て」
「じゃあ私も」
「承知いたしました」

呆れた様子の政宗。
それもそうだろう。こうも飽きることなく名前にちょっかいを出しに来たのだ、むしろ孫市でない分いいのかもしれない。
半分あきらめている政宗は名前に茶を命じ、己はそこらへんにあった座布団を引っ張る。そもそもここは身分が上の人間が来るような場所ではないので立派なものはないに等しい。そこで座談会か何かを始めて様というのだから仕方がない。

「お持ちいたしました」
「おう。しかし名前、お前はそんな口調では寒気がする。いつもの口調に戻せ」
「一応元就殿が居たからしていたけど、いいの?」
「儂が許す、ここは儂の陣地で名前は儂の雇っている雑賀じゃなからな」
「そうそう」
「貴様が言うな、この狸爺めが」
「え、私が狸?」
「狐のほうがよかったか?」
「私そんなに悪い事していないんだけどな」
「何を言うておるか貴様」
「腹で何を考えているかわからないではないですか」
「名前…結構、手厳しいね」
「おっと、申し訳ありません」
「思っていないだろ」
「はい、かたちだけです」

その返しに政宗は豪快に笑う。
名前は一応は目上に対する教育や躾はされている。孫市だけではなく、小十郎にまでも。それは政宗とごく普通に話していると何かと指導が入り、「雑賀の者は大変教育がおおらかなのですね」と睨まれて気を付けてはいるが、その小十郎が居らず政宗が止めろというなら名前はそこまで気を付けはしない。
むしろこうして横暴な口を利くのはある意味親しみを込めている。無自覚ではあるが、二人にはそれがわかっているのでそれを窘めると言う事はしていない。

「して、元就公は名前に何用じゃ。貴様の事だ、ただ会いに来たというのではあるまい」
「ははは、バレでしまったかな」
「嘘をつきましたね、元就殿」
「でも名前と話したかったって言うのも本当なんだけどね」
「茶番はいい、話してみよ。事と次第では名前を貸してやらんでもないが」
「本当かい?いやー、雑賀の頭領より話がわかるね政宗公」
「馬鹿にするな。儂とて名前をタダで貸してやるとは言うておらん」

事と次第、と言うたじゃろ。と何かを企む政宗に名前はまた面倒な事になったら嫌だな。と他人事のように思い、そして一応孫市にも報告しておかないと不味いのか?と考えていた。


※大殿に面倒臭く好かれつつ政宗様に面倒見てもらってる傭兵さん




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