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「#エロ」のBL小説を読む
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|||それとこれは話が別

「だからお前は可愛いげがないんだよ」

パシッと名前の頭を叩く孫市の姿を遠目で見ていた夏候覇。
夏候覇にとって孫市は父親の恩人に当たるし、名前は父の元に短期間だが所属して可愛がっていた人間で、勝手に妹みたいなものだと思っている。


「うーん」
「どうした息子、らしくもない悩んだ顔して」
「いや、今日孫市さんと名前を見たんだけど、孫市さんが名前に向かって可愛いげがないって言っててさ」
「あー、まあ、無いと言えば無いな。でもあれはあれで可愛いぞ、不器用で」

褒めてやると最初固まってたからかな!と父親の夏候淵は豪快に笑う。
夏候淵は名前を可愛がっているのは息子である夏候覇から見てもよくわかる。孫市と一緒に行動している名前を見かけると声をかけているし、部下も名前を見かける度に構っているらしかった。

「いやー、俺もそう思うんだよ。ぶっきらぼうというか、でもたまーに女の子らしいっていうか」
「お前も大人になったな…」
「なんだよ父さん…。たださ、名前がちょっと可哀想だなーって。孫市さんは近くにいすぎて名前の良いとこ見えないんじゃないかって」

まあ確かに、名前には可愛いげがないのは同感なんだけど。と続ける夏候覇。
その姿を目にした夏候淵はブフッと吹き出して笑う。色恋沙汰ではないが、息子は息子なりに妹分と思っている名前が可愛いらしく、その兄分の言いぐさが気にくわないのだ。これほど面白い事があるだろうか。

「よし、じゃあ息子よ。俺からの助言だ」



「よー、名前。ちょっと良いか?」
「今日は休業日なので、仕事の話でなければ」
「…そのワリに武器の手入れか」
「昨日の仕事で少し。それでなんのご用でしょうか」

名前が与えられている場所に行くと、名前は胡座をかいて床に座り、相棒を解体している最中。煤に汚れた布に、何やら長い棒、見慣れないものが多く散乱している。それを名前はしたに引いていた布でサッと横へやり、手をパンパンと叩く。どうやら夏候覇の話を聞いてくれるらしい。

「茶の準備いたします」
「あー、いいよ。近くまで来たから顔を出しただけだし」
「それにしては、こんな雑賀の隅っこまで。孫市の所とは方角が逆ですが」
「……本当可愛くないな」
「駆け引きは苦手なもので」
「だから孫市さんに可愛いげがないって言われんだよ」
「本当の事ですので。それがなにか?」

本人は全くと言って良いほど気にしていないらしい。いや、気にしていない。むしろ、それの何が悪いと言いたい位にしている。

「…あー、まあ、お前はそういう奴だよな」
「はあ…」
「なあ名前、孫市さんを吃驚させてやらないか?」
「…なんの為に、ですか」
「……え?」
「なんの為にそんなことをなさるのかと」
「…………な、なんの為、だろうな」

さあ?と名前は意味がわからないと言った風に頭を傾げる。
むしろ夏候覇がそう言ってしまっては名前もどうしてみようもない。名前は夏候覇ではないし、なにより名前には夏候覇の言いたいことを理解しようとしていないのだ。

「孫市さんを…見返してやりたい、とか?」
「いえ、別に」
「ギャフンと言わせたいとかっ」
「ぎゃふん…?」
「だあああ!!もう、いいか!?孫市さんを驚かせてやろうって話を持ちかけてんだよ」
「…あの、だからなんの為に?」
「可愛くないって言われて腹立たないの?」
「事実ですので」
「女の子!女の子だろ!」
「…ですが、生きていく上では関係ないと」
「あるの!」
「はあ…?」

よくわからない素振りの名前。夏候覇は名前の腕を引き、耳打ちをする。
うんうん、う…ん?と見る見る間に名前の表情はひきつり、話が終わった後に満足そうに笑っている夏候覇に名前は引いている。

「お、お断りします…」
「はあ!?なんで、なんでだよ!」
「それ私には利益がないです」
「ぐぬぬ…」
「じゃ、じゃあ俺に付き合って…」
「えー…」
「なーんちゃって!ってすぐネタばらしするから、な?な?」
「嫌です」
「……」

キッパリと断る名前に今度は夏候覇がギリギリと歯軋りをする。全くもってその件に関して名前が得することはないし、目的もなければ協力してやる理由もない。
にらみ合いではないが、不穏な空気を漂わせていること数分、その話題の中心の人物が顔を覗かせる。

「おーい、名前いるかー…って、何してんだお前ら」
「…別に。夏候覇殿がお暇だからと遊びにこられただけ」
「なっ!違うだろ」
「仲が良いこって」
「孫市さん!!」

ゲッと名前は嫌な顔してひきつるが夏候覇は関係ないと名前の肩を抱いて孫市に自慢気に言ったのだ。

「俺、名前を嫁にもらうから!!」

驚いて口をアングリと開け、名前と夏候覇を交互に見る孫市。名前が何かを言おうとすると夏候覇はただ「まあまあまあまあ」とその言葉を遮る。

「それはめでたいね!祝言はいつするの?そうだ、名前の嫁入り衣装は私が用意するよ孫市、なんたって名前は私の娘みたいな子だからね」
「な、お…おねね様!?違うんです、これは!!」
「まだ皆に秘密にしておくよ。あ、でも元就公には言っておいた方がいいのかねぇ…」
「…誰?」
「夏候覇殿、今のは嘘だっていってください!!」
「照れなくて良いんだよ名前。そう夏候覇ね、名前と仲良くするんだよ。ほら、孫市も」
「あ、いや…なあ?」
「おねね様ー、いかないでくださいー!!嘘、嘘なんですってばああああああ」

孫市の後ろにいたらしいねねは夏候覇の嘘に騙され、その姿を消した。
これには誰よりも名前が焦っている。孫市はポカンとしている。
バッと夏候覇からはなれ、名前は孫市の肩を力一杯殴り付けた。

「いい加減起きて!おねね様追うから馬借りるからね!夏候覇殿、この件に関しては後お話があります」
「お、おお…」

走って馬屋に向かうのであろう名前の後ろ姿を見送り、孫市と二人きりになった夏候覇。

「よう…この事態どう収拾つけるんだ、お前」
「え?」
「ねねは面倒だぞ…ありゃ食材やらなんやら確実に集めに回ってるな。あと元就公から目の敵にされるぞ、多分。あのジジイえげつないから覚悟しとけ」

俺は知らんぞ。と脅しの言葉だけを残して孫市は出ていく。

「……も、もしかして、やばい?」

たぶん恐らく確実に。と名前が遠くで言った気がした。




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