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|||巨人は私を否定する

進撃世界に来たEXTRASH主従。
ちょっと特殊


私という存在は希薄らしい。らしいというのは確証がないから。いや、多分私自身が認めたくないから。
長身でちょっと暗そうなミケという男性が私に言ったのだ。
「お前からは匂いがしない」
そうだとも。今私は本体から離れた存在で、あの勝負で負けて脳が焼ききれているはずなのだ。
簡単にいえば死んでいるのだ、恐らく。でも私の手の甲には令呪が綺麗に刻まれて、何故かアーチャーも一緒だ。
腹は減らないし眠いと思うことも無い。物に触れられるが物によって傷つくこともない。熱を感じ感じられるが生気がない。私は本当に死んでいるらしい。
でも不思議な事にアーチャーは相変わらず私をマスター扱いする。死んでいると思われる私は魔力を供給できているのかも怪しいのに。

「やあ、おはよう名前」
「おはようハンジさん。眼鏡汚れていますよ」
「おっと失礼。昨日も遅くまで仕事していてね。朝日を見てからの就寝さ」
「それ、徹夜ってやつですよ。私みたいに死んじゃいますよ」
「名前みたいに死んでも動けるならそっちの方がいいや。だって眠らなくていいんだろう?」
「死者は生者には勝てないんですよ。化け物は英雄に殺される運命ですから」

私はまだかろうじて化け物ではないらしい。
ケタケタと笑ってご飯を食べてくるね。とハンジさんが私に向かって手を振って行ってしまった。
最初に言ったとおり私は腹が減らない、眠くない。
勝敗が決したその後、もう死ぬんだと思ったその後だ。日光のような温かさに疑問を持って目を開けると地平線と森。そしてモンスター。ああ、私はこうやってセラフに消去されるのかと思ったくらいだ。しかしそのモンスター、巨人は私を見てもただそこにある物体としてしか認識していないらしく、調査兵団の面々に保護されるまで巨人はそういう存在なのだと思っていたくらいだ。

「私は誰に殺されるんだろうね」
「まあ巨人じゃないのは明白だな」
「…おはようございます」

ああ、おはよう。と低い声で挨拶を返すリヴァイ兵長。巨人でなればこの人が私を殺すのかもしれない。私よりも背は低いが強い。それこそ英雄といっていいのではないだろうか。アーチャーはあまり好きじゃないようだが、私はそれほど嫌いではない。ちょっと潔癖すぎるのが欠点かもしれないが。

「お前、また壁の上にいただろ」
「あ、ばれましたか」
「靴がここにいるだけの汚さじゃねえ」
「巨人は夜何しているのか見たくなって」
「まさか出てないだろうな」
「出ても相手にされませんから。それにちゃんと上から見ていただけです」

アーチャーはたぶん、こうやって私を心配してくれる人があまり好きではないのだ。この中ではこの人が私を気にかけてくれる。
私が保護された時もそうだ。憲兵団とかいういけ好かない集団に連行される時も無理矢理付いてきて、裁判みたいな時に助けてくれた。といっても、兵長さんだけが助けてくれたわけではない。団長さんもハンジさんもミケさんも助けてくれた。多分、実験動物的な目的でだろうけど。巨人に捕食されない存在が何かのきっかけになるかもという希望を込めた、そんなものだ。
そして私は不確かな事をその人達に言ったのだ「私は死んでいるのにどうして生きているの」と。まあ頭がおかしくなったと思われたに違いない。

「おい、どうした」
「いいえ、なんでも」
「エルヴィンが用事があるそうだ。朝飯の時間が終わったら行っておけ」

そして私が食事も睡眠も取らないという事実が発覚してまわりは私の言葉が狂言ではないのではと思い始めた。そして私という存在は異常という結論がでるまで時間はそうかからず、同じようにアーチャーの存在も異端という事になった。隠していたわけではないが、幼年体として実体化したアーチャーは実に上手くこの中に入り込んだのだ。
私が「はい」と返事をするとハンジさんと同じように朝食の為に行ってしまった。
これから、というより食事と睡眠の時間は基本的に暇なのだ。周りには通常の人と同じくしているので食事は諸事情により部屋でという建前をもっている。睡眠も同じく部屋にこもって寝ているフリだ。ただ時たまばれたように壁に上ってははるかな星空や巨人をみる。壁の上で駐屯兵団の誰かに見つかっても眠れないといえば大抵許してくれる。最近知ったのだが私は「奇跡の子」なんて呼ばれているらしい。壁の外で保護されて無傷という、正に奇跡ということで。

それから食事のフリをして部屋にもどって、持ってきたパンを袋にいれて団長さんの部屋に向かう。この壁の中では食料が不足しているので不要な私がわざわざ食べてしまうという事はしたくないからだ。スープも出されるが毎回毎回パンしか持たない私には持たせよういう人はいなくなった。

軽くノックをすると、そこからは部屋の主である団長さんの声ではなく、何故かアーチャーの声がする。しかも幼年体。

「やっときましたね、マスター」
「どうしてアーチャーがいるの。団長は?」
「ご飯です。もうすぐ戻るんじゃありませんか?」
「で、どうしているのか答えてもらおうか」
「簡単な話ですよ、今度の作戦の提案があるとかで呼ばれました」
「個人的に?」
「まあマスターがフラフラしていましたからね。個別になっても仕方ないかと」

そういわれてしまえば私は黙るしかない。部屋に呼びにきたなら居たアーチャーが先に呼ばれても何もおかしくない。むしろ私がいなかったことのほうが不自然なのだ。
私は「そう」と短く答えてソファに座る。一応は断りを入れるべきなのだろうが主は不在。持っていたパンをテーブルに置いて部屋の主を待つ。
思うと食事や睡眠時間というのは生きている中で大きな時間を占めているのだと最近思うようになった。こうして今は不要となってしまった時間をただ待つのは退屈だ。

「最後に何食べたっけ」
「月での話ですか?」
「ううん、地球。ああ、凛と一緒にバーガー食べたんだ。最後の晩餐がバーガーか」
「また味も素っ気も無い」
「そこで何食べろっていうのよ」
「そうですね、僕なら何を食べるかな…」
「レジスタンスにいればそんなに良い物食べられないのよ。でも、凛と食べたバーガーは美味しかった。懐かしいな…」
「そうか、では今度作るといい。待たせたね」

いつのまに戻っていたのだろうか。気が付けば団長は笑って私を見ているではないか。だらしなくソファにもたれていたが恥ずかしい。飛ぶように座りなおすとそれを叱咤することなく団長は資料を持ち出して話を始めようとする。

「おや、またパンを持ってきたのかい?」
「あ、はい。私には不要なので、有益に使ってもらえるならと思って」
「マスターが食べるのもある意味有益ですよ」
「私はいいの。食べる意味がないんだから」
「死んでしまうよ」
「もう死んでいるので」
「………」

何かを含んだ溜息が聞こえたが、私はそれを無視する。
悩んだり考えたり、笑ったり怒ったりするのは生者の特権だから。
私にはただ暗闇に落ちる時を待つだけなんだ。




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