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|||英霊使いは仕事をする

夜桜四重奏IN EXTRASH
ちょいちょい設定いじってます。



「ところでさ、英霊使いってなんなの?」

持ってきた菓子類を名前が口に入れようと構えた瞬間だった。ヒメがもっしゃもしゃと菓子を頬張りながら聞いてくる。
名前はその開いた口をどうするか一瞬だけ考え、手に持った菓子を一口だけ食べて飲み込んだ。

「んー、なんだろう」
「えー、自分の事でしょ?」
「あんまり考えた事なくて。魔術師と表裏一体?」
「まじゅちゅし…」

言い難いのはわかるが、なんだかあざとい感じがする。いや、また菓子を沢山口に入れたせいなのかもしれない。少し離れたところから「ヒメちゃん食べながら喋っちゃお行儀悪い!」とアオが注意している。ちなみにアオは今電話中で、それがまた長いのだ。名前が来る前からの電話で、今保留になっているらしい。名前がジェスチャーで「お菓子持っていこう?」と聞くと「ううん、電話終わったら行く!」と全力のジェスチャーで返された。

「ご存知の通り、私の英霊…サーヴァントって呼ばれる使い魔はギルガメッシュなのは知ってるよね」
「うん」
「私とギルは契約してある意味主従関係なわけで」
「そんな感じがまるでないけどな」

名前の後ろから声が聞こえて名前は「うほう!」と全く可愛げのない声を上げて手に持っていた菓子を放り投げてしまった。しかしその菓子は綺麗な弧を描いてヒメの手の中に納まり、「はい」とまた名前の手に戻ってきた。

「び、びっくりした…心臓がうっかりとまるかと」
「わ、悪い…まさかそんなに驚かれるとは思ってもみなくて」
「名前ちゃんの驚いた顔可愛かったよ!」
「嬉しくない」

並んだ菓子を見て秋名が「美味そうだな」と開いている席に腰を下してひとつ手に取る。ヒメが「名前ちゃんの差し入れだよ」と言えば「いただきます」と名前にむかって手をあわせ、気に入った菓子を食べ始めた。

「…で、なんだっけ」
「まじゅじゅし」
「言えてないし…」
「まあ、魔術師を簡単に言ってみると研究者かな」
「名前も研究してるのか?」
「私は研究というより、なんだ、うん。今は稼いでるって感じかな。まあギルがいれば稼ぐってことあんまり考えなくてもいいんだけどね」
「はぶりいいもんねー」

そういえば魔術師ってなんだろうと、名前は少し悩む。
確かに名前はまごうことなく魔術師だ。それも英霊を召喚できる。英霊の召喚は魔術師であれば誰でもできるがそれを使役できるだけの技量はそうそうあるものではない。
それが出来るのは基本的に能力が高い者でなければ不可能なのだ。

「私の一族…ていうの?俗に英霊使いって呼ばれる人は英霊と契約を結んで一人前なわけ。私はギル1人だけど、多い人はもっと多くて」
「多いといい事あるの?」
「それだけの魔力…技量っていうのかな、それがあるってことで箔が付くの。それにそれだけの制御もできるし、多いと用途によって活用の幅が広がるし」
「それで?っておい、ヒメ!お茶が出てないじゃないか!」
「えええ!?それ今言うの!?」

名前がその言葉を待っていたといわんばかりに「私緑茶ね、緑茶」と猛アピールをするのでヒメは余計秋名に睨まれる。それに言い訳をしようとするが全て図星を秋名に言われてしまい沈没。
その悔しさをぬぐうようにまた菓子に手が伸びては口に投げ入れている。

「…ヒメ、これ全部ヒメのじゃないんだよ?大丈夫?」
「ん…んえ、あ、そうだね…」
「それで、名前はどうして桜新町に来たんだ?」
「依頼があってねー。ここに聖遺物があるって情報があって」
「なにそれ」

お茶をもらって一口。菓子を止められたヒメが名前に「せいいぶつ?異物なの」と聞いてくる。確かにあまり聞くことのない言葉だと思う。
名前は簡単に聖遺物の漢字を教え、それが英霊使いにとってどんな物なのかを説明する。

「じゃあ、名前もギルと契約する時に使ったの?」
「ううん。基本的に最初のサーヴァントは使わないで召喚するの。最初のサーヴァントは相性が重要でね」
「じゃあ名前とギルは相性いいんだな。それも意外だけどな」
「まあ、悪くはないんだと思うよ。何年も一緒だし。まあ言う事聞いてくれないけどね!」

あの性格だから気に入らなかったら頭がここにないかもねー。なんて冗談で言ってみたものの、それがありえるから本当のところでは笑えない。
名前が助かっているのは最初が子供だったからだろうと名前自身思っている。ギルは子供には寛大で、基本的に凄い凄いと煽てていれば機嫌はよかった。嘘はすぐにばれてしまうが、子供なりの必死さが気に入れられたらしい。それからずっと一緒だ。

「こんにちは」

玄関のドアがガチャリと開いて、子供の可愛らしい声がする。
来客だと秋名が向かうが、その子供は気にせず事務所に入ってきて名前の傍に立って笑う。

「ちょ、ちょっと君…?」
「迎えにきましたよ」
「見つかったの?」
「ええ、意外なところに。まさかあそこだなんて思ってもみませんでしたけど。目線を変えるのも案外いいかも」
「それで見つけたの?子供目線じゃない、本当に」
「子供だから甘くて」

ふーん?と何か少しだけ言いたげにした名前は貰った茶を飲み干して「ご馳走様」と両手を合わせた。そして素早く立ち上がりその子供は名前の後ろについて出入口へと向かう。

「ちょっと、名前ちゃん!?その子…」
「あ、そっか。こっちの姿は初めましてでしたね。ギルガメッシュですよ!これからはこっちの僕もよろしくお願いしますね、ヒメさん。秋名さん。アオさん」
「あ、そうだアオ。お菓子ちゃんと食べてね!あと岸兄妹にも」
「どこ行くんだよ、おい」
「お仕事の準備。今回の仕事はちょっと大掛かりでさ」

僕がいればちょちょいのちょい!なんですけどね!と少年が笑うと名前がペシンと後頭部を叩く。
んじゃ!!と元気よく出て行く名前とその後についていく少年の姿を三人はぽかんと眺めるしか出来なかった。

「…あの子、ギルさんなの?」
「あ、電話終わったの?」
「うん…ええええ…二重人格にも程があるよ……」

名前が居たならその意見に頷きながらも二重人格じゃないよと言ってくれるのだろうが、生憎その場にはギルガメッシュという存在を説明できる者は誰も居なかった。




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