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|||婆裟羅:郷愁の滲む顔/ 家康(るり子様)



「名前、お前里はどこだ?」

「…里、ですか?」

「ああ、雑賀でないといっていだろ?ならばどこかと思ってな。忍ならば伊賀か甲賀。銃ならば雑賀とだいたいはそんなところだ」


興味本位なのだろう。
名前の目の前にいる男は興味津々といった様子で名前の言葉を待っている。
名前の出身を聞きたいのならば此処にはない所だ。いや、時間軸からして此処ではない。
時間軸では約400年未来。
土地でいえば…正直な所、名前は地理が苦手で、ここからどの方向が出身地になるのか知らないし、地名を言ったところで顔をしかめられるのがオチだ。


「それは、申し上げねばなりませんか?」

「ん?いや、強制はしない。ただ名前はあまり自分の事を話さないからな…ワシがいつも自分の事だけ話すからまたには名前の話が聞きたいと…名前?」

「…いえ、すみません」


困ったように俯いた名前に家康は内心焦った。
いつも同じ表情で、愛想笑いをする名前が困っている。
名前は命じればだいたいの仕事を上手くこなしてくる。
家康の話し相手にも、多少嫌な顔をするが付き合ってくれる。
前に嫌な顔をするなよ。と冗談めいて言ったら「度々傭兵に話しかけるなど徳川様の評判を落とすだけでございます」と少なからず心配してくれる。


「私に里らしい里はございません」

「…そ、それはすまないことを聞いた。悪い、名前」

「いえ、里は無くても何も不十分いたしませんから」

「誰も待っている人間がいないのに…か?寂しいではないか…」


家康にしてみたら、名前に同情したにすぎない。名前の言葉数が少ないのはその里が目の前で滅んだか、そのせいで寂しい思いをしたのだと思ったからだ。
しかし名前は愛用の銃を撫でて頭を振った。
寂しくない。そう態度で示した。


「里はなくとも帰る場所はあります。待っていてくれる人が居ます」

「…親か?」

「いえ」

「…仲間、か?」

「……はい。私に一人前になれと見送った人達が」


私の大切な人達が。
そう銃を撫でる名前は何かを懐かしんでいる。
本当に大切な思い出と人々がいるらしい。

名前は自分のことを話さない。
親も、家族も、仲間も、ふるさとも。

だから家康は名前に聞いたのだ。表情をあまり出さない、笑わない。
それは家康の知る限りの人物に対して全員だ。
わざと一線を引いている。
元より人と仲良くするのが苦手なのかもしれない、三成もそうだった。なにより三成のかわし方が慣れた感じがあった。
それは自分がそういう事が苦手ということを自覚しているから出来た行動だと家康は思った。

しかし実際は人と関わるのが苦手な名前がなるべく関わらない様にするための行動に過ぎないのだが。


「その仲間が好きなんだな」

「…そう、ですね。約束を果たして、役に立てるように。それが私の出来る恩返しですから」


その恩返しとは何かを聞きそびれてしまった。何故なら名前があまりに悲しそうに、そして懐かしむような顔をしたから。


郷愁の滲む顔




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