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「#エロ」のBL小説を読む
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|||気分転換、気分転換?

「お嬢さん、どうだね最近」

そう言って呼び止められた購買の前。低い声で集客するには少しばかり無理があるように思えるが、ここを利用するのは白野か名前。いわばマスターしかいないので集客することもないと思うが、この神父には神父なりのルーチンがあって、それに乗っ取り行動しているのだろう。
特に深くも考えず、「それなりに」と答えれば怪しく笑い手招きをする。
怪しいが彼は表では仕切っていたNPCだ、ましてマスターに手出しをするようなことはないと思いたい。

「さて、お嬢さん」
「…な、にか?」
「なに、そんなに警戒する事はない。私は良い話をしようと思ってだな」
「…アイテムの安売りとかセールとか?」
「まさか。売上があまりないこの購買でセールをして何の得があるというのだね?」
「私達に得が」
「私にはないだろう?」
「それでは失礼します」
「待て、まだ話は終わっていない」

大きな手がぬっと伸びて名前の肩に置かれる。その手には軽く力が入り、いかにも鴨は逃がさないという雰囲気が見て取れる。一応はNPCだ、危害はきっと加えない…たぶん。

「そんなお嬢さんに朗報だ」
「…は、はあ」
「サーヴァントの服装を入荷してみました」

それが良い話?と名前が頭を傾げると神父はまた胡散臭い笑顔で勿論と頷く。



「と言うことで、半ば強引に購入させられました…」
「………だから1人で出歩かないようにって」
「いや、ほら。セイバーガウェインと話していたし、校舎内だし、平気かなって」
「ギルガメッシュに絡まれても?」
「慣れっこだし、私も元マスターだから扱いくらいは大丈夫…だよ」

マイルームに送られてきたデータを見たセイバーが何かと聞いてきたのでその疑問に答えた。ある意味悪徳商法ではあるが、まあ気分転換にはちょうど良いのかもと思ったのも事実。白い鎧で、しかも顔までガウェインに似ているセイバーなので、ちょっとした気分転換というか、見分けだ。
一応はマスターの名前なので間違える事はないが、たまに詰まる事があることも秘密ながら認める。
名前の乾いた笑いの後、そして沈黙が続く。
恐らくは先日の記憶の件なのだろう。名前が元ギルガメッシュのマスターで、アーチャーがサーヴァントだったという名前の最初の言葉が現実だったという事が。それは紛れもない事実であって、セイバーも記憶が戻った以上それが事実なのだと納得せざるを得ない。彼はやっと名前の記憶が戻って喜ぶはずが、彼自身が出所の不明なサーヴァントだったのだから。

「で、これ着てみない?」
「…これを?」
「うん、セイバー格好良いから似合うよ。折角買ったんだし、着てサクラ迷宮行こうよ」
「折角って…これは名前が半ば強引に買わされたんだろう?」
「ま、…そ、う…なんだけど」
「………」

データと言うのは、まあサーヴァントの衣装、というのだろうか。現代風の服装になるデータであり、防御等の値には全く関わらない、全くの趣味の領域のデータである。
神父いわく「あの金のなる木にも売りつけておいた。君も元マスターならきっと気に入るはずだ」とニヤニヤしていたが、名前の思い当たる現代の服はあの黒のライダースーツくらいだ。一体何が気に入るというのか、まるで名前にはわからないが、今はそれよりセイバーだろう。

「だ、だめ…?」
「いや、折角だし着てみるよ」
「本当?よかった」
「どうせなら名前の分もあればいいのにね」
「…あるの、表の制服くらいだしね。あと靴下類と靴類があるくらいか」
「じゃあ着替えてくるから。それから白野くんと合流して迷宮に行こうか」

そうだね。と頷く。


「……っ」
「賛美せよ、賛美せよ!」

ドヤ顔と言うのだろうか。ギルガメッシュの隣の白野はげっそりと意気消沈。それに対して名前は吹き出しそうな顔を頑張って堪え、その後ろのセイバーは正に怪訝な顔をしている。

「…な、にそれ」
「どうだ、夜の帝王とやらだ。貴様の犬よりも見栄えがするだろう?」
「………いやいやいや…うん、」

豹柄スーツに面食らわない存在が居るなら是非見てみたい。それが素直な名前の気持ちというか感想だ。神父の言っていた意味がやっとわかった、まさかこのことだったとは思わなかった本当に。
さっと目線を逸らしてセイバーを見れば、名前と同じ心境なのだろう苦笑いで笑顔が引き攣っている。名前の視線に気づいたのか、やはり困った顔で頷く。

「…なんか、ごめんな名前とセイバー」
「気にしなくて良い。私も気分転換と思って換えてきたから」
「貧相な服装だな、お似合いだ」
「…そうか、ありがとう」
「セイバー、いちいち答えなくていいからね」

奇しくも同じタイミングで購入させられ、同じタイミングでの試着だったらしい。試着というよりお披露目だろうか。
ド派手というか、もうこれはギルガメッシュにしか似合わない豹柄スーツに対してセイバーは比較的シンプルながら良く似合っている。ド派手さはないが洗練された服装で、ギルガメッシュとはまた違った意味合いで一目を引く。どちらと一緒に歩きたいかを問われれば、誰もがセイバーだろう。

「…なんか、本当ごめんねセイバー。タイミングが悪すぎた…」
「いや?気分転換にはちょうど良いさ。名前にも制服以外があれば良いのに本当に思うよ」
『その意見には賛成です。折角お二人には新しい服装が追加されたというのに』
『でも、服装の追加に何かメリットがあるんですか?ただのメモリの無駄使いだと思うのですが…』
『わかっていませんね、サクラ。セイバーも言っていたではありませんか、気分転換だと。人間にはそういう息抜きも必要と言うことです』
『気分転換…ですか。確かに人間はそう言ったものを取り入れると仕事がはかどりますから。ちょっと検討してみましょうか』
「本当かい?それは嬉しいな、いつまでも制服姿で前を走っているマスターを見ているとなんだかいけない事をしている気分になって」
「セイバー、それ冗談でも恐いよ」
「冗談じゃないけど…?」

さらっと変態的なことを言ってくれたセイバー。これは多分白野も一緒に引いている。もし仮にだが、それを本当に思っているとしても、それをここで言ってほしくなかった。マイルームに居る時もだが、それは黙っているのが紳士なのではないだろうか。

「ほう、犬の分際だがなかなか分かっているではないか」
「…ギルガメッシュ?」
「我も常々思っていた。何の面白味もない格好の輩が我の目の前をうろちょろと…王たる我の目の前に居るという光栄極まりない…」
「話が長い。もっと簡潔に」
「名前…」

腕を組んでセイバーに賛同するギルガメッシュの長い話に名前がスパンと切り捨てた。
それに白野はただただ乾いた笑いで見るだけで、元マスターなだけはあるなと感心する。もし仮に自分が名前と同じことをしたら首と胴がサヨウナラをしてしまう未来しかみえない。

「名前、そんな話を遮ったら悪いだろう?それが彼の唯一の楽しみなんだから」
「おい犬、どういう意味だ」
「いやいや、セイバーも大概だと思うよ。ねえ白野」
「えええ…こっちにふるなよ」

思わぬ矛先が白野に向く。
あの二体のサーヴァント相手に名前の様な事はできない。名前はギルガメッシュの元マスターで、セイバーの現マスター。白野は現ギルガメッシュのマスターだが、名前の様にはいかない。それは名前とギルガメッシュには表側の時間があるからで、記憶が戻ってすぐにギルガメッシュは元の形に戻るべきだと言ったくらいだ。それだけギルガメッシュは名前が気に入っているらしい。当の名前はその申し出を断り、「私の今のサーヴァントはセイバーなんだから」と正面切って言ったのだ。

『まず画面に花がないですよね』
『レディお一人でも花では?』
『男四人よりいいと思うけど?』
『花が無いのならば、ミス・名字か花を持って行ってもらっては?』
『ラニ、そういう意味じゃないわよ…』
「名前に花…いいね、今度送るよ」
「いや要らない。あっても邪魔だし」
「えー」
「貢なら我だろうが犬、尾を振らぬか」
「なんでセイバーがギルガメッシュに尻尾振らないとなんだよ」
「なんだ雑種、言うではないか」
「もっと言っちゃえ白野!反撃されそうになったら魔力供給絞っちゃえ」

少し前のセイバーが言った事など今は知らないといった様子で名前はさっとセイバーの背後にまわって安全を確保し、ギルガメッシュに野次を飛ばす。まず身の安全を確保するあたり、元マスターといえる。それだけギルガメッシュは強力だということなのだろう。

「…ほう?で、貴様は我にその様な行為を行うのか?雑種」
「………え」

まさか。と白野が言えばギルガメッシュは目を細めて含むように鼻で笑った。




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