企画! | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




|||私の白騎士

「凛が月の女王、ねえ…」

レオは頷き、桜は何処となく居心地が悪そうに下を向いた。レオの横ではユリウスが黙り、その反対にはガウェインが何か言いたげに名前の後ろを見ている。

「状況を簡単に説明させていただきました。迷宮の探索は白野さんにお任せしています。つきましてはミス・名字にもその探索に加わっていただきたいと考えていまして。ああ、勿論そのデータ修復が終わってからですよ?そんなに僕も鬼ではないので」
「…言いたい事はあるけど、一応はその提案に乗ろうと思う」
「ありがとうございます。こちらとしてもミス・名字の様な有能な味方ができて心強い」

名前の脚は桜に見てもらったが、修復に時間がかかるほどの欠損らしい。痛みを感じないのだけが救いだ。ちなみに迷宮から旧校舎までは白騎士のような青年に抱えられての移動となった。それまでの攻防は言うまでもないが、言いたくもないというのが名前の本音だろう。それがこの生徒会室に聞こえていたとしても、だ。

「…で、ちょっと聞きたいんだけど」
「はい、こちらも全てを把握しているわけではないので答えられる範囲ですが」
「私の後ろにいるサーヴァントって、誰のサーヴァントなの?」

名前が後ろに立つ彼を見ながら言えば、彼は衝撃が走ったように一瞬からだが振るえてかたまり、それ以外にいた部屋の面々は驚きの表情だ。
そしてその名前の告白からいち早く回復したのは桜で、焦ったような困ったような顔で必死に笑顔を作り、名前に向かう。

「あ、ああ…そ、そうでしたね。名字さん、まだカウンセリングしていませんでしたね。えーと、これは皆さんにしていまして。もうここの説明は先にしてしましたので、簡単にしますね」
「カウンセリング?何故?」
「この月の裏側に来た障害といいますか、皆さん記憶が一部欠損していまして。名字さん、月の聖杯戦争についてどのくらい覚えていますか?」

椅子に座っている名前の横に立ち、後ろにいるサーヴァントはオロオロと心配そうにただ名前を見ている。名前にしてみたらそのサーヴァントの心配そうな顔も、桜のカウンセリングもまるで意味がわからない。
月の聖杯戦争。予選を突破して手にしたサーヴァント、サーヴァント、さー、ヴァント?

「あ、れ?」
「マスター?」
「聖杯戦争、セラフ、演算、決戦、猶予の7日間……覚えている?違う、覚えて…違、思い出せない…な、どうし…」
「落ち着いてください、皆さん同じです。では、名字さんのサーヴァントの事を思い出してください」

名前は後ろに立つ青年を見る。その青年も心配した様子で名前の顔をじっと見つめるが、当の名前に彼の顔に見覚えはない。かすりもしない。名前が思い出そうとすると、何故かサーヴァントにノイズがかかるのだ、顔は黒く塗りつぶされ、姿さえも。声には雑音がかかり、どんな声をしていたかさえ思い出せない。ただ、その妨害を受けても薄っすらと思い出せるのはクラスがアーチャーだったという事だけ。

「アー、チャー…」
「…え?」
「確か、私のサーヴァント、アーチャーだったと、思う」
「王はアーチャーではありません!!」

急に声を荒げたのは今まで沈黙していたガウェイン。その必死の表情はレオだけでなくユリウスまでも驚いている。恐らくは名前の後ろに立つサーヴァントの真名に付いておおよその予測を立てていたからこその反応なのだろう。

「我が王のクラスがセイバー以外にあると思っておいでか!」
「ガウェイン、それはミス・名字と彼の問題です。僕らが入っていい領域ではありません」
「サーヴァントのクラスはマスターの適正によって変化する事もある。私のサーヴァントの様にな」
「…王?ガウェインの、主…、」

アーサー王?と小さな声で頭を傾げて問えば遠慮がちに頷かれてしまった。
何がショックかといえば自分のサーヴァントと思われる彼が今まで名前と凛が地上で「サーヴァントにするならセイバーがいい」と言っていたセイバーらしく、しかもあのアーサー王とくれば鬼に金棒もいいところだ。
ただ、それが本当に名前のサーヴァントならばという一言が付くのだが。

「……」
「…マスター?まさか覚えてないとは思ってもみなかったけど。改めて、クラスはセイバー。真名は…もういいよね」
「…えー…」
「レディ・名前!その物言いはなんですか!我が主をサーヴァントにして何の不満があるというのです!」
「ガウェイン…少し黙りましょうか」
「レオ、顔が笑っているぞ」
「おっと失礼」

そんな外野がニヤニヤとしている事など我関せず、いや、構っていられないのが名前だ。
サーヴァント、確かにサーヴァントはいた。しかし本当に彼だったのか?いや、違う気がする。まずサーヴァントはアーチャーだ。これは間違いない、セイバーよりも言いなじみがある。でも、なら何故ここにそのアーチャーが居ないのか。セイバーが自分をマスターと呼ぶのか。どうして自分にはそのサーヴァントが欠けているのか。

「…でも、名字さんだけ他の方と違って、岸波さんと同じ感じがするんですよね」
「どういう、事?桜…」
「サーヴァントの事を覚えてないという事が。多分、こちらに来た時の衝撃での混乱しているのだとは思うんですが…」

確かに先ほどのユリウスの言いようでは、ユリウス自身に今サーヴァントの存在は感じられないがサーヴァントの事は覚えている。レオをガウェインは言うまでもない。ここに来る間にあった間桐慎二はこちらを見て「なにサーヴァントに抱っこされてんだよ、ダサいなあ」と笑われて彼のサーヴァントの事など考える事もなかった。

「…じゃあ、もしかして、私が混乱しているだけって事もありえるって事?」
「そう…ですね。セイバーさんが名字さんのサーヴァントで、アーチャーというのが混乱による弊害とも考えられます」
「…ああ、なんだ。迎えに行かなかったから本当に怒っているのかと思ったけど記憶障害か…少し寂しいけれど、それが記憶障害ならしかたない。記憶障害なら」

いやに記憶障害を前面に押してくるセイバーに名前はなんともいえない気持ちになる。優しい顔をして毒を吐かれたのだから、それも仕方ないのかもしれないが。それにしても彼がもし自分のサーヴァントだったなら、こんな会話を何回もしているはずなのだが…やはり名前には思い当たる節はない。いや、何かしら口論らしい事はしたとは思う。しかしこんなやりとりだっただろうか。

「思い出せない…」
「無理はいけませんよ、ミス・名字。アーサー王、では貴方のマスターを頼みます。僕らは白野さんのサポートに尽力しますので、あなた方は回復に努めてください」
「人のサーヴァントの真名軽がるしく言わないで」
「おや、ミス・名字だってガウェインと呼んでいるではありませんか」
「それとこれとは話が別よ。ああ…もしかして私のサーヴァントってレオがガウェイン引いた時点でハズレなんじゃ…」
「な!王を侮辱するおつもりですか!!」
「ガウェイン。マスターの口の悪さは謝るが、ガウェインは落ち着こう」
「え、私が悪いの?」

子供じゃないんだからそんな事を言う物ではないよ、マスター?とまるで保護者の様に叱られ、本当に腑に落ちない。
その一言にレオは吹き出し、ガウェインは何故か満足げ。ユリウスはもう関わりたくないのか溜息をついて明後日の方向を向き、桜は苦笑い。
ただ、名前には本当にこれが懐かしいとは思えない。懐かしいというほど離れていたわけでもなく、いつものようだといえるほどの安心感もない。

本当に彼は私のサーヴァントなのだろうか。

そのひとつの疑問だけが名前の頭に消えることなく浮かんでいる。




[*prev] [next#]