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「#エロ」のBL小説を読む
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|||私と白騎士

足元から何かがうごめいて、その何かは飲み込みように襲ってきた。
それの姿はどうもノイズがかかって思い出せず、ただ黒く動いて捕食を始めていた。


「…あ、れ?」

作り物の空らしきもの、そして何かのテーマパークの様な造りの建物。ファンシーな世界に一見するが、そこに闊歩しているのは見紛う事ないエネミー。そのエネミーの存在でここがアリーナだという事はわかるが、しかし今までそこで行動していたアリーナとは全く持って様子が違うではないか。誰だったが言っていた海のモチーフではない、もっと明るく、開放的な。

「…で、ここは、どこ」

極普通の問いが口から出るが、その疑問に答える者は居ない。いや、本当ならばいなければならないのだ。
そしてやっと名前はその重要性に気がつき、ここでエネミーに姿を晒してはいけないのだと物影を探す。
名前の見える範囲での物陰、あまり小さくても自分の姿が見える。ならば大きければ良いかといえばそれだけでは駄目だ。ありとあらゆる自分の中の知識を駆使して一番良い隠れ場所を探すが、さすがアリーナを言ったところだろうか。そんな簡単に身を潜められる場所がない。むしろあってはセラフにとっては困るだろう。セラフが欲しいのは小細工で勝つマスターではないからだ。
それにしてもこの物陰のなさは酷いのではないか。と愚痴を言いそうになったその瞬間。
首筋から背中にかけて何かが駆け巡った。良いものではなく、何処となく不安に駆られるような。そう、多分これは決戦の、

「良かった、マスター。はぐれてしまって心配していたんだ」

一瞬呼吸をとめ、何が起こるのかと身構え、動かない脚にこれ程絶望したのはいつ振りだろうか。
名前がゆっくりとその声の主と思われる背後に立つ存在に恐る恐る目を向けると、そこには温和そうに笑う青年が1人。その格好からしてセイバーのサーヴァントだろうか、その端整な顔立ちに良く似合った鎧を身にまとっている。その青年は名前の前に回りこむ様に立ち、そして膝をついて、騎士の様に名前と目線を合わせた。

「…誰」
「もしかして、怒っている…よね」
「あ、いや…あの、だから、誰?」
「謝るよマスター。ごめん、もっと早く見つけたかったんだけど…思いの外エネミーが」
「………」
「…マスター?」

青年は名前をまるでマスターのように、いや、正しくマスターとして扱っている。しかし名前には彼が誰だかわからず、まして名前のサーヴァントは彼ではない。名前のサーヴァントは

「…あ、れ?」
「マスター?」
「あ、いや…私、」
「マスター、ここは危険だからとりあえず移動しよう。立てるかい?」

優しく手を差し伸べる青年。しかし名前にはその手をとって良いのかさえわからない。まず彼がわからない。解るのは彼が名前のサーヴァントではいないということ。でもならば誰が自分のサーヴァントだったのかを思い出すことさえ出来ず、ただ困惑するしかない。
彼に関して言えば、恐らく危害を加えようとは思っていないという核心もない上辺だけの事。そして本心か下心があってかは知らないが、名前をマスターとして扱っている事。ただそれが名前には理解ができない。

「…、ごめんマスター。移動は少し待って、お客様が」
「お客、様…」

ガチャリと鎧がすれる音を立てて青年は見据える先を睨み、陽炎のような剣を持って構える。ああ、やはりセイバーか。とまるで緊迫する空気を無視するかのように感想が名前の頭をかける。その考えを感じ取ったのか、青年は小さな声で「マスター、集中して」と窘められてしまった。そして徐々に姿勢を低くして臨戦態勢に入り、敵の攻撃に備える。勿論青年はマスターを呼んだ名前に細心の注意を払いながら。

「ほう、貴様。まさか犬を隠し持っていたとはな」
「…名字、名前なのか?」
「岸波…白野?」
「マスターの知り合いかな?」
「誰が口を開いていいと許した雑種」

やたらと派手な甲冑の青年と、学ランを着た青年。
青年の方は名前には見覚えがある。いつからか話すようになった敵マスターだ。どんな経緯があって話すようになったか覚えていないが、不快な記憶が思い当たらないのでそれほど悪い関係ではないのだろうか。

「良かった、無事だったんだな」
「え、ああ…うん。ねえ、ここって」
『ここは通称サクラメイキュウ、とでも言いましょうか』
「この声…、ハーウェイ?」
『お久しぶり、とでも申しましょうか。ミス・名字』

スピーカーを通した声が響き、学ランの青年はほっとした表情を浮かべ、その反対に甲冑の青年に睨まれている。色んな疑問がある、まずはその疑問をぶつけて状況把握が最重要事項だろう。意味も解らず無意味な戦闘は避けなければ。ましてここは誰が味方で誰が敵かがわからないのだ。

『おっと、ミス・名字。色々聞きたいといった表情ですね。その気持ちわかります、わかりますとも』
「……」
『まあそこでお話するにはちょっと場所が悪いので、こちらに来ていただけませんか?』
「…何処に」
『マップの方は白野さんから頂いてください。では旧校舎の方でお待ちしています』
「…その微妙な顔で見ないでくれ」
「いや、全く話が読めなくて…」
「マスター、彼らは信用できるのか?」
「ほう、雑種風情が言うではないか」

サーヴァント同士が睨み合いを始めたなか、マスター同士である二人は携帯端末を取り出して情報を与える。
岸波白野の様子を見るに、恐らくは敵ではないのだろう。今の時点という文言が頭に付くが。聖杯戦争において、誰かを信用するというのは御法度だ。利用するつもりでいたのが利用されていたのでは笑いものに違いない。だからと言って今彼らの援助を断って事が解決するとも思えない。まず何が問題なのかさえわかっていないのだ。

「大丈夫か?立てないのか、もしかして」
「ああ、ちょっと脚の部分にデータ破損があるみたいで。歩行が出来ないみたい」
「え、それって…」
「それこそ自己修復機能で回復を待つか、データを弄ってみるから多分大丈夫。それより…」
「?」

私、色々記憶が欠けていて自分のサーヴァントがわからない。と言い掛けたところに聞きなれた女の子の声が遮るように通った。

「あらー、名前じゃない。よかった心配していたのよ」
「…凛」
「だって、名前にも私に奉仕してもらわないとね?」
「………頭でも打ったの?それか変なもの食べちゃった、とか?」

あまりにぶっ飛んだ再会に名前は頭を思わず傾げて問うた。まず名前の知っている彼女であるならそんな事は言うような人物ではない。わけもわからずに頭に「?」が並んだ名前に対して岸波白野は明確に立ちはだかっている。それはまるで敵のように。

「頭打ってないし変なものも食べてないわよ!失礼しちゃうわ。まあ名前だし許してあげるわ。だって友達だもの、勿論私の為に尽くしてくれるわよね?私もちゃんと管理してあげるわ」
「…えーっと?」
「凛、名前が混乱しているからもう止めてやれよ…。なあ凛、変だぞ?管理とか、あのランサーも、凛のサーヴァントはランサーだったけど、」
「うるさいわよ岸波くん。さっさと名前を渡してちょうだい。というか、岸波くんと一緒だなんて…なんかモヤモヤするのよ!」

と、とりあえず説明お願いできませんか!!という名前の声がアリーナに響いた。




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