企画! | ナノ
|||お泊り会
「ねえ、どうして名前はギルガメッシュと契約したの?」
衛宮邸に泊まるつもりはなかったのだが、どうせなら泊まっていきなさいよ。と家主ではない遠坂凛が薦めてきたのだ。名前自身そんな泊まるとは思っていなかったし、何より迷惑だ。しかし当の家主は「おう、泊まっていけよ」と言ってくる。
それならばお言葉に甘えようと言う事で、急遽泊まることになった。
着替えは勿論ない。さてどうするかと悩むと衛宮に浴衣ならあるぞ。と出された時にギルガメッシュに着替えを投げつけられた。何故持っているのかを聞きたいが、聞いたら聞いたでまた腹立たしい事になりそうなのでそれは後日、帰ってから問いただす事にした。
そしてご飯の後片付けや、その他色々な事を終えて団欒していた時に言われたのだ。
「セラフにあてがわれたから?」
「何故疑問系」
「それは名前さんが、召喚したからじゃないんですか?聖遺物とかで」
「それが違うのよ。月での聖杯戦争では聖遺物というものは必要じゃない。とりあえず予選があって、その最後にサーヴァントとの契約。それが私の場合彼だったってだけ」
「予選…。サーヴァントは7体ではないのですか?」
「クラスが7つだけど…最初は128体居たからね。まずこっちの聖杯とは違うし」
男の衛宮は自宅なのに居づらいのか、姿は見えない。居るのはこの家に居る女性陣と名前、そしてギルガメッシュがテレビを占領している。ランサーは食事が終わるとさっさと何処かに行ってしまった。ランサーは本当に食事目当てだったらしい。
「どう聖杯が違うのですか?願いは叶わないのですか?」
「月の聖杯は演算機で、あらゆる可能性を計算してくれる。願いが叶うというより、願いを叶える為に何が必要かを教えてくれる物ね。それが手に入る、厳密に言えば可能性の取得かな」
「じゃあ、名前はそれが欲しくて参加したの?」
「んー、欲しいというか…それを手に入れようとしていたハーウェイって奴らに持っていかれたくなくて参加してた」
「おい、その位にしておけ。自分の首を絞めるとは悪趣味がすぎるぞ」
テレビを見たまま、ギルガメッシュが名前にそれ以上の事は言う事はないと口を挟む。
名前との付き合いがここの誰よりも、ほんの少しだけ長く、繋がりもある彼からしたらその蒸し返しは面白くないらしい。彼自身名前を気に入っていたし、聖杯自体には興味はないが名前が欲しいというならとってやっても良いとも思ったこともある。それが叶わなかったことも、名前の本当の目的もやるせなく、だからそれ以上の言葉は止めてきた。
「もしかして…名前さんに悪い事、聞いてしまいましたか?」
「ううん、いいの。確かに自分の首絞めているかなとも思うし。ま、後悔できるのは今のうちだけって事かもね」
「後悔…?」
「私死んでるのよね、負けて。岸波白野って奴にやられて。しかもそのサーヴァントがこっちの凛のサーヴァントで驚いた」
“死んでいる”その一言にギルガメッシュと名前を除いた誰もが固まった。英霊というサーヴァントが現にいるが、それとは違う存在が“死んでいる”とはっきり言ってきたのだ。まず名前がそんな事を言うような人間には見えないし、ふざけているようにも見えない。
「マスター、いい加減にしてくださいよ」
「え」
「…どこから」
「だって本当の事でしょ。私もう電脳死しているわけだし」
「負けたのはマスターの責任です」
「そうでーす。私が手を抜きました、アーチャーは強いです、激強です」
子供の姿になったギルガメッシュが腰に手を当てて怒った様子で名前のすぐ傍で立っている。
その子供の姿に見覚えがないのか、周りは何処の子供だと驚いていたが名前の「アーチャー」という言葉にギルガメッシュだと気づいた。名前は自身が契約しているサーヴァントをクラスで呼んでいたのを知っているからだ。
「その軽い感じも気に食いません!」
「死んだ者はどうにもなりません」
「後悔したらどうですか!あの時とどめをさせていたらとかっ」
「もう、何も恐くない」
「フィナーレですけど、ですけど!!」
「あ、そうだ凛。凛のサーヴァントの真名教えて」
「…え?」
「私ね、どうしても彼の真名がわからなくてさ。最後までわからないままで」
「マスター、そんな贋作者の真名なんてどうでも良いでしょう?終わった事です、はいお終いお終い!!」
ぱんぱんと手を叩いてどうにか死という話題から遠ざけたい子供。
名前と契約しているギルガメッシュは端から見ても彼女を気に入っているのは解る。まず、あの暴君とは性格が違い、名前に対しては柔和な態度。傲慢だが保護者の様なところがある。こうやって付いてきたのもその現われだろう、こちらのギルガメッシュならば付いてこないし、セイバーにチョッカイを出すだろう。それがないのだ。名前の事では関わらず、無関心を決め込んでいる。
「せめて最後の謎が知りたかった…な」
「別に教えてもいいけど…どうしてそんなに知りたいの?」
「だって殺された相手だし。それだけの話だよ、凛。真名を突き止められなった私の最後の執念。ハーウェイに届かなかった私の最後」
「………、エミヤ。私のアーチャーの真名はね、エミヤシロウよ」
「私はアルトリア・ペンドラゴン。アーサー王と言った方がわかるでしょうか」
「え…?」
「ライダーはメデューサなんです」
「そういえば名前は私達の真名さえ知りませんでしたね。私達だけが貴方のサーヴァントの真名を知っているのも考えればオカシナ事」
「他にランサーはクーフーリン、キャスターはメディアって言うのが寺にいるわ」
これには名前が驚いた。まさかあっさり真名が一気に知る事になるとは。そしてハーウェイのセイバーが仕えた本人がまさか目の前、しかも女性だったとは。名前はまずどれに驚けば良いのかさえわからない。メデューサって、あのメデューサなのか?という疑問も浮かぶし、エミヤシロウって、衛宮と同じ名前だし!とも脳内に駆け巡る。
「あ、頭が混乱する…」
「あら、意外と容量少ないのね」
「許容範囲外なんですよ…マスター、しっかりー」
騒いでいると家主が顔を出し、「風呂良いぞ」と声を掛けてくれた。子供のギルガメッシュに多少驚いたところはあるが、子供の姿を前にそれとは知らず見ているので反応は薄い。
混乱している名前を見てどうかしたのかと聞いてきたが、誰も答えず、逆に先に風呂入りなさい。と言われてしまった。
気分転換しないとどうも頭が爆発しそうだと思い、その言葉に甘えることにした名前。そうとなればさっさと入って頭をすっきりさせたい。風呂の場所を聞いてそこに向かった。
「あんた、意外と名前の事気に入っているのね」
「まあ、結構可愛いところもありますから。どこぞの人とは違います」
「服の用意までして用意周到ですね」
「備えあれば憂いなしといいますし」
「セイバーさんを追いかけていた人とは思えません」
「同じですが、そこまで一緒にしないで下さい。僕の青年体もセイバーには興味はさほどありませんから」
「傲慢さは変わりありませんね」
「怒らせようとしても無駄ですよ。そのために子供の姿になったので」
名前が風呂に消えた途端に冷戦が開戦。衛宮はそれが開始される前に逃げている。
ここの誰もがギルガメッシュが誰かに柔和だと信じられない。だからと言って戦いたいわけではない。怒って暴れ出したらそれこそ手がつけられないだろう、それはセイバーが誰よりも知っている。前に本当の殺し合いをしたのだから。
それから名前が風呂から戻るまでの時間、どちらともなく黙り、その居間ではゆっくりとした長い時間が流れる。
「…どうしたの」
「あら、遅かったわね」
「そう?いいな、衛宮の家お風呂広くて。次は誰はいるの?衛宮に声掛けた方がいいの?」
「いいのよ、いつも最後だから。じゃあ私入っちゃおうかしら。桜、いい?」
「はい、どうぞ。名前さん、お茶飲みますか?」
「あ、ありがとう…」
「広いお風呂がいいなら引っ越しましょうよ。そのくらいの資金ありますよ」
「そこまでしなくていいよ。掃除大変だもの」
名前の風呂から戻ってきた事を切っ掛けに時間がもどる。子供といえど中身はあの英雄王だったらしい。もしかしたらあの態度がない分厄介かもしれないと衛宮邸に身を寄せる女性陣は思う。それゆえ名前という存在はその彼にとって重要なウェイトを持っているのも解った。まだ名前と契約しているほうならいいが、あの金ぴか英雄王では手綱を持つ存在が不明だ。頼る相手がいないのならば、目の前の彼より達が悪い。
それから入れ替わり立ち代わり風呂に入り、全員が風呂に入ったところでやっと衛宮の順番がまわってきていた。家主なのに最後とは、なんだか可哀相である。
しかしここの女性陣に強く出るのも難しいのかもしれない。
「名前は何処で寝るの?」
「ああ、そういえば。客間っていうの?そこを貸してもらえれば。あともう一室」
「一緒でも良いじゃありませんかマスター」
「それか誰かの部屋でも。アーチャーに客間使わせるから」
その瞬間にピタリと動きを止める女性陣。それに名前は頭を傾げ、その相棒は「あーあ」と言った表情。何か悪い事を言ってしまったのだろうかと名前は不安になるが、別段おかしなことを言ったつもりはない。
「そ、そんなお客様なんだから客間使いなさいよ。ええ、士郎に話をつけるわ」
「そうですよ、部屋はまだ空いていますし…ね」
「奥の部屋なんてどうです?セイバーの部屋の近くの」
「な、それならライダーの近くも空いていますが」
「……私帰って方がいい?なんか迷惑みたいだけど…」
「そ、そんな事ないわよ、ねえ皆。ほら、誰かが泊まりに来る今まであんまり…ね。イリヤが来るともっと大変だけど」
「シロウと寝るといって譲りませんからね…」
唐突に出てきたイリヤという人物は名前は知らないが、どうやらこの妙な雰囲気は衛宮にあるらしい。そういえばプールの時はハーレム状態。それから察するに、ああ。と納得した。
衛宮の部屋に近ければ衛宮狙いかと思うし、変に遠ざければ誰かが邪な考えを起こすかもという無駄な杞憂がでたのだろう。
勿論名前にはそんな気持ちはまるで無い。だから何処でも良いといえば何処でも良いのだ。
「よし、じゃあ皆で寝ようよ。雑魚寝ってやつしない?」
「…あら、面白そう」
「僕反対。うるさくて寝むれません」
「おや、英雄王は睡眠が必要なのですか?」
「貴女方とは違うんですよ、出所が違うので。睡眠が必要ではありませんが、あれば多少の補助にはなりますので」
「アーチャーは別室で。元から君は別室の予定だったし」
「えー、そんな…名前だって寝ないと魔力の関係が…」
「だから寝るってば。私は君に慣れているけど、ここの人は慣れてないの」
一体何に慣れているのか。という野暮な事は聞かない。一応はマスターだ、扱いについての事だとは察しがつく。
「よし、大人しく別室で寝るか、魔力供給をギリギリまで絞って強制的に霊体化。どっちがいい?」
「大人しく寝ます」
よろしい。と名前が満足そうに笑う。
あのギルガメッシュをそういう扱いができる事に内心恐怖しながらも、繰り返す4日間がまた開始されていく。
それはまだ終わらない、もう少し続く4日間。
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