企画! | ナノ
|||遊びにきたのに疎外感
「…なんていうか、勿体無い…」
「なんとなく、言いたい事は察しがつきますが…ここでそういう言う事を言うのは…ちょっと」
遠くで衛宮を中心に女の子が群がるようにしている。はたかれ見れば良いハーレム状態。結局の所、名前をダシに全員でプールに来たということだ。
それはいい。名前自身プールという物に興味はあった。勿論初めてというわけではない。ここの人々がどういう事をしているのかという興味もあってということだ。
ちなみに何が勿体無いかというと、水が、である。
「アーチャーはあっちに行かないの?」
「どうして僕があそこに加わらないといけないんですか…」
「女の子たくさんいるし」
「中心は僕じゃないですよ…男に群がる趣味はありません」
「ああ、群がるといえば。こっちのアーチャーが凛くらいの女の子と一緒にいるのを見た。アーチャーもああいうのが好みなの?」
「……ああ、由紀香の事でしょうか。まあ言えば好みですよ、守ってあげたいというのありますから」
「へえ、意外とまとも」
「僕を彼と一緒にしないでくださいよ…僕自身信じられないですから」
プールを眺めてからその群れを見て。先日の事をなんとなく振ってみるが、あまり面白い反応がない。どうやらこっちの方はその女子にあまり興味がないのか。あればもっとからかうネタがあっていいのだが、と名前はなんともマスターとは思えない感想をもっている。
しかしプールに来たはいいが、仲間は全て衛宮の所。だからと言ってそこに参加するのは気が引ける。それは保身でもあり、参戦はしたくないという事だ。
「お嬢さん、一人…って、名前か」
「僕が目に入らないとは、狗のクセに嗅覚まで衰えたんですか?」
「ランサーこそ一人?こんな所で男一人って寂しい…」
「うるせぇ。というか、お前らこそ二人なのか?餓鬼と二人…」
「いや、ほら…あそこ」
名前が指さす方向を見てランサーは納得した。端から見ればなんとも羨ましいハーレム状態だが、その参加者を知る者からしたらそれは察しが付くというものだ。
それを感じ取ったランサーはなんとも残念そうな顔で「まあ、そうだ。気にすんなよ」と慰められてしまった。むしろ名前にとってそこは慰められる事なのかという疑問さえ浮かぶ。
「逆に言うけど、アーチャーが青年体の方が大変だからこのままでいい」
「まあ、それは…まあな。で、その水着どうしたんだよ」
「買いました。資金提供はアーチャーで」
「このくらいのサービスはしますよ、そりゃあ」
ほー。と驚きの声なのか、声を上げてニヤリと笑うランサー。何かを吟味するように見られて良い気持ちはしないが、それに加えてニヤニヤされるのはもっと気持ちが悪い。
「おい変態」
「誰が変態だ」
「何処から見ても貴方でしょう…人のマスター見て変な想像していたの丸解りですよ」
「…あ、」
ランサーを変態と呼んだ声にいやに聞き覚えがある。忘れるはずも無い、自分の命を奪ったサーヴァントの声だ。いや、奪ったというには少々語弊があるが、それでも最後討ったのはその声に他ならない。
「子供の英雄王…そうか、君がイレギュラーマスターの」
「ただの一般人かもしれないのに良くそこまで言えるな」
「まずこんなサーヴァントと関わっている時点で一般人とは言えんだろう」
「まあ、そうだけどよ…おい名前、コイツには注意しとけよ。皮肉野郎だからな」
「忠告は必要ないですよ。だって僕らは彼によって殺されたんですから」
「…まさかここで会うとはな……よくよく考えれば当然か。ランサーがいるんだもん。白野のアーチャーがいてもおかしくないよね…」
大きな溜息で大げさに嫌な顔をして現れた浅黒い男を見上げる。
岸波白野、学友とは言いがたい存在のサーヴァントだったアーチャー。どんなに探しても彼の真名を探し当てる事ができなかった。それに近い名前はあったが、どれも決定するには根拠が弱い。
「誰だ、ハクノって」
「私を殺したマスターの名前」
「あれは名前が最後手を抜いたから負けたんですよ。もっと気を張っていたら負けませんでした!贋作者なんかに。僕が名前に聖杯を取らせてあげられたのに」
「ごめんてば。あれは私が悪かったです。反省しています。アーチャーが強いのは重々承知してます、あれは私が完全に悪かったです。でも最後は言う事聞いてくれてありがとうございました」
「…話が見えんのだが?」
「贋作者に教える事は何一つありません。だって僕も名前も貴方が大嫌いですから」
あからさまに対抗心をむき出しにするアーチャー。それとは対照的に実に落ち着いている名前。
アーチャーが言うのももっともなのだ。まず殺された相手に好意はまずもてない。それがデータであっても。それをあからさまにしているかいないかの違いだろう。名前が言わないから代わりに言っている。そんな気持ちなのだ。
「…もしかして、凛のサーヴァント?」
「ああ、今は契約破棄されているがね」
「…ふーん、そう、なんだ。じゃあ、ランサーのマスターは?」
名前の些細な疑問だ。その質問をするとさっと顔色が変わるランサー。その反応に心当たりがあるのか、子供のアーチャーはニヤリと笑う。そして見せ付けるかのように名前の腕をとって抱きつく。
「まあ、ここでのランサーさんのマスターは恐いシスターですよねー?」
「シスター?」
「おいやめろ」
「こっちの聖杯戦争のシステム管理とかの教会関係?」
「それに近いですね。ほら、言峰神父ってNPCがいたでしょ?そんな感じで、今はそのランサーさんのマスターでーす」
「言峰を知っているのか?」
「え、ええ。NPC統括していて、厄介な試練持ってきてマスター達にブーイングもらっていたけど。言峰神父は5次聖杯戦争の時にいた人なのね」
「…おいランサー。そこで蹲るのを止めないか。大の大人、しかも男がそんな事をやっていると目立って仕方がないぞ」
なにやらダメージを受けている様子のランサー。その様子をみて不信がる名前と凛のアーチャー。名前のアーチャーにいたってはなにやら優越感に浸ってべたべたと名前にくっ付いている。
「御愁傷様ですー。僕は今とてもいいマスターなので、恐い思いをする事なくいい日々を送ってますから。ねー、マスター」
「ねえ、ランサー。そのシスター紹介して。サーヴァントの躾け方教わりたい」
「は!?ちょ、どういうことですか!?今の僕従順で素直で可愛いじゃないですか!」
「自分からそんなこと言うサーヴァントはちょっと…」
「へっ!どうやら一方通行のようなだな金ぴか。やーいやーい」
「ぐぬぬ…ふ、ふーんだ!!いいですよ、いいですよーだ。そんな事言うと家出しちゃいますよ!!」
「したければしたら?別に止めないよ」
ぐぬぬ。と涙目になってぱっと名前の腕から手をはなし、「名前のバカー!」とプールサイドを逃走していき金髪の少年。
どうやら名前の一言にカチンときたらしい。
「…いいのか?君のサーヴァントなのだろう?」
「ああ、そのあたりは平気。なんだかんだ言って戻ってくるし。それよりも重要なのは、アーチャーがいなくなってしまって私が本格的に一人ということなんだよね」
「………そこを重要としていいのか?」
いいのですよ。と何ともドライな答え。
この生活を楽しもうとする名前にとっては、今このプールをどうするかが大切なのだ。名前に楽しめといったサーヴァントは逃走。仲間は一人の男を巡って闘争が起きている。
このまま一人でるのは残念すぎる。子供と一緒というのもさみしいものはあるが。
「…おい、名前。なら一緒にいるか?どうせこっちも男二人だ」
「え、男二人で来てたの?い、いったいどういう関係なの…?」
「弁解の為に言っておくが、偶然だ。いや、貧乏性が原因とでも言っておこうか…」
「あ、ああ…なんとなく、わかった」
チケットがあるがもうすぐ期限が切れる。しかし二人一組。誰も誘う相手がいない。そういうことで、このどちらかが誘ってのったのだろう。
それにしても、相手を選べよ。と名前でなくとも思うはずだ。
下手をしたらそちらの方向の人だ。その無駄に良いガタイのせいもあるのかもしれないが。
「しかし、君はあの英雄王に好かれているな。まさか嫉妬して逃げるとは」
「大丈夫。ちゃんと帰ってくるから」
「信頼しているな」
「まあね。1カ月以上一緒に過ごした仲だし。それなりに私だって信頼しているつもりだけど」
「…しっかし、あれが懐いても、デカい方はどうなんだよ」
「ああ、青年体?性格は難有りだけど。まあまあ上手く…やれてたのかな…どうしよう、ランサーがそんなこと言うから不安になってきた…」
顎に手をあて、悩み始める名前に二人の男は驚く。まずあのギルガメッシュのマスターを務めているということ自体驚きなのだ。子供の方は上手く手なずけている感はある。あの子供が懐いているから、ある程度はあのギルガメッシュも名前には優しいのだろうが…それが実に想像しにくいのだ。
ついでにいえば、大の男が一人の女の子を囲うように立ち、その女の子はおびえてはいないが、はたから見ればおびえたように見える。
「ま、いいか。そんなこと今考えても意味ないか」
「!」
「切り替え早いな…」
「だって考えるのも無駄かなって。どうせもう…」
戻る身体もないことだしね。
名前の一言が不思議とは思ったが、サーヴァントである二人には何のことかわからないままだった。
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