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|||楽しい牽制

「ねえ、名前はこの水着なんてどう?似合うわよ、きっと」

「凛、こちらも良いかと」

「私はこっちが良いと思います。ライダーはどう思う?」

「私も桜に賛成です」


何がどうしてこうなったか。
まず魚の一件から始まったのは言うまでもない。勿論、衛宮士郎という心配性の塊に問いただされたのだ。ランサーという無駄口だたきによって。
そして案外あっさりと受け入れられてしまったのだ。名前というイレギュラーな存在が。
一応は月での聖杯戦争で敗退して死ぬだけの存在が何故かこの冬木の土地にやってきてしまった。と言う事は言ってある。そしてNPCという存在や敵だった存在、仲間がいたことも。
今名前の目の前で水着を選ぶ遠坂凛と同じ顔をした凛が仲間で、その隣の髪がセミロングの間桐桜はNPC。聞いて驚いたが桜の義兄は慎二だというではないか。そこまで月の聖杯は設定を密にしていたらしい。このままでは慎二もそっくりなのではないかと疑うほどだ。そして藤村先生というNPCのモデルになった存在が近くにいることにも驚いた。好奇心半分に言峰神父は知っているかと問えば、実に嫌な顔をされた。どうやら言峰神父もここに存在していたらしい。そして参加者にとっては良い印象はないのも同じである。


「買い物って、水着なの?」

「ええ、そっか、名前は知らないのね。冬木に室内プールが出来たのよ。それで皆で行こうって話しになっていて。それなら名前もって」

「イレギュラーとはいえマスターですが…どうせなら一緒に楽しんだ方がいいでしょう。一緒にご飯を食べた仲です」

「あ、ありがとう…」

「しかし、あのギルガメッシュが二人となると厄介ですが、貴女がしっかり手綱を持っているのは心強い」


背の高いライダーが心底頷く。なんとなくは解っていたが、ギルガメッシュの評判は悪い。名前自身、強くて良いサーヴァントだとは思うが扱いづらいのも事実。若返りの薬が無ければ初戦敗退もありえたと思っている。


「名前はどうやってあのギルガメッシュを手なずけたのか教えてほしいわ」

「え、簡単よ。魔力供給絞っただけ。力が使えなければただのデータだし、まずここのシステムと違うから出来た事だけど。サーヴァント自体の魔力の貯蔵が少ないのよ」

「…じゃあ、アーチャークラスの単独行動スキルが生かされないの?」

「簡単に言えば。まずそんなスキルを使う事もないから無駄なスキルといえば無駄。基本的にマスターとサーヴァントは常に一緒だし、校内での戦闘は原則禁止。アリーナでの戦いも基本的に禁止だけど、それを守るマスターは少ない。アリーナでの別行動はまずしないから、あってもね…。あ、これセイバーにいいんじゃない?セイバー」


話の途中にシンプルながらも可愛い水着。それを手にして少しはなれていたセイバーにこれはどうかと差し出す名前。しかしセイバーには「私の水着はもっています、ありがとう。今日は名前の水着を選びにきたのですから、名前は自分の水着を探してください」と丁寧に断られてしまった。
これはどういうことかと凛を見ると「そういうこと。まあ、親睦会もかねているのよ」と言われた。守銭奴だった名前の知る凛とは違うのかと思ったが、結局の所金を使うのは名前だということに気づいた。やはり凛と同じなのかもしれない。


「名前さん、これ。どうですか?ホルダーネック。可愛いですよ」

「シンプルですが、さりげないフリルが良いかと」

「本当だ、可愛い。でも…」

「試着してみてはどうでしょう。どうせ資金はあの名前の金ぴかから貰ってきていますから」

「私、あれはどうかと思う」


衛宮邸での事情説明会の為に強制召喚させられた名前と契約しているギルガメッシュ。もう一方のギルガメッシュは「なんだか面倒そうなので、今日は遠慮する事にしました」と言って消えたそうだ。ちゃっかりというか、逃げ足だけは速い。
そのギルガメッシュが姿を不満ながら青年体の格好で現すと、衛宮邸の面々は益々緊張感を高まらせて空気は嫌な方向に。これも全部ランサーのせいだと名前は今でも思っている。
それから名前は自分なりにギルガメッシュとの関係を説明し、月からのデータ体であるとしてこの冬木のギルガメッシュとは同じだけど違うのだと。逃げたギルガメッシュが一緒ならば話が早いのだろうが、逃げた者を追いかけるのも面倒だし、何よりギルガメッシュがそれに協力してくれるとは到底思えない。
一応の話が終わり、名前の命令を聞いている様子なので別物だという結論に到ったらしく、どうせなら飯食っていけよ。といわれ、あれよあれよと水着を買いに行く事になったのだ。
そして何を思ったのか凛が「貴方のマスターよ、それくらいの資金ぽんと出しなさいよ甲斐性なし」とギルガメッシュをあおり、それを受けたギルガメッシュが「ふん、言われずとも出してやろうではないか。ただし、我が満足するものを調達できなくば…覚悟しろ」と、なにやら凛とギルガメッシュが結託していた。


「着てみたけど、どう?」

「あら、いいじゃない。思ったよりもフリルが目立たなくて。ワンポイントって感じでいいわ」

「水着だけでみるとフリルの存在感は大きいですが、着てみるとそうではありませんね。こっちのフリフリはどうでしょうか。愛らしいですよ」

「いや、こっちにしておきます」

「色違いもありますよ」

「派手じゃないのが良いんじゃない?サーヴァントが派手だし」

「え、そこサーヴァント関係あるの?」

「あるわよ。多分だけど」


なんとも説得力のない凛の回答である。実際名前のサーヴァントは派手なのが好きそうだが、この水着は誰でもない名前が着るのだ。そこは名前の好みで良いはずだと思い、少し配色の違いにもちょっと悩んでから決める。
今の名前のたくわえでは少々きつい部分はあるが、そこはサーヴァントのスキルにあやかってしまうが勝ちだろう。あのサーヴァントが提供してくれた資金をありがたく使わせてもらい、残りは貯蓄に回せばいい。


「名前さんの水着も調達できましたし、今度はプールの予定ですね」

「チケットがあればいいけど、あそこ何気に高いのよね」

「あそこなら回数券で少しは割引が聞いたと思うのですが…」

「…ねえ、ちょっといい?」

「どうしました?」

「……私としては、プールに行くっていうのも楽しそうで良いと思うんだ。でも、さ…見えない牽制を感じるのは何で?」


その名前の一言に衝撃は走るかのようにその場が凍りついた。そして名前は思った「ああ、やっぱり私をダシにお互いを牽制してる。何かを牽制している」と。
恐らくは衛宮士郎という存在なのだろうとも察しが付いた。あの広い衛宮邸に女性があつまる理由、それは簡単に考えるとその家主。ただ広いからと言って貸し出すはずがない。しかも同性ならまだしも異性だ。もし名前が誘われたならまずは拒否するだろう、家賃が要らないというなら話は別だが。


「そ、そんなことないわ…ねえ、桜」

「そ、そうですよ。変なことを言わないで下さい。ね、ライダー?」

「へ?あ、ええ。まったく。そう思いませんか、セイバー」

「わ、私は…はい」


やはり。あの家は衛宮士郎という存在を中心に回っている。家主だからではない、衛宮士郎だからだ。これはあまり衛宮士郎という男と関わらぬが吉だと名前は感じ取る。そこに参戦するとなれば身が持たない。でも昨日食べたご飯は美味しかったので出来れば食事だけ参加したい。名前のサーヴァントも一応大人しく食べていた。
そして名前の放った一言により、そこが静かなる戦場になっている。名前以外が冷戦状態、逆に言えば名前以外の動きがない代わりに名前だけが自由に動けるのだ。物理的にも。
そんな名前がふと下の階が見えるホールを見下ろすと、見知った金髪の少年の姿が。しかしあの少年は名前と契約している少年ではなく、もう一方の少年。その隣には女性と女の子の中間くらいの人。そういえばお気に入りの子がいるのだといつだったか聞いていた。恐らくその子がそうなのだろう。イタズラ心にポケットから携帯端末を取り出してその二人にピントを合わせて1枚。


「え、な、なによそれ」

「携帯端末。ここでいう携帯電話みたいなもの。あ、盗撮とか言わないでね」

「ちょっと、名前魔術師のなのに…まあ、今の時代持ってないほうがおかしいのよね…。で、それどこの?」

「初めて見る機種ですね」

「これは月の聖杯戦争で支給されたのだから…どこのでもないよ。あ、そうだ。確か…」


画面を触って動くそれを眺める凛達。セイバーやライダーはその動く画面に興味を示し、凛は困った顔をしている。桜にいたってはその動きについていくのがやっとなのか、必死に画面を見つめている。


「はい、これ。私の仲間の方の凛。そっくりでしょう?」

「…!」

「姉さんそのもの…ですね」


名前の見せた画面には凛とそっくりな女性が名前と一緒に写っている。その写真はお互いに予選を突破した記念に撮ったもの。これから敵になる仲間同士、これがお互いに最後の姿なのだと。正にそうなってしまったのだが、サーヴァントを失った彼女がどうなってしまったかは今の名前ではどうやっても知る事の出来ないこと。


「名前さん、姉さんのサーヴァントはアーチャーさんなんですか?」

「凛のサーヴァントはランサーだったけど。ほら、私の事ばらした、あの」

「え、私のサーヴァントランサーなの?」

「ランサーじゃないの?」

「ええ、凛のサーヴァントはランサーではなくアーチャーですよ」


どうやらそこまでは一緒ではないらしい。
その凛のサーヴァントがどんなサーヴァントか少し気になるところだが、あえて聞くこともないだろう。この繰り返す4日間はまだ続くだろうし、そのうちに機会があれば顔を合わせる事もあるだろう。

ふとまた下のホールに視線を移すと、先ほどまで話の中心にいた衛宮士郎の姿が目に入った。
友人たちと一緒なのだろう、近くに似た背格好の男が見える。
ただ、それが物凄く名前にとって見覚えのある二人なのは出来れば間違いであってほしいと願う名前だった。




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