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|||住居がバレると

「いつからここはサーヴァントの溜り場になったのだろうか」

「おう、邪魔してるぜ」

「はい、とても邪魔です。帰ってください」

「帰るべきですよね、名前」


名前が帰宅すると、青い髪の男がひょっこりと顔を覗かせ、そのすぐ傍から少年特有の高い声が二つ、男を否定する声がした。
その否定の声に男は「お前が言うなよな」と大人とは到底思えない口ぶりで少年を睨むが、少年には何処吹く風。力関係的にいえば対等に近いからそうなるのも頷ける。


「ほれ、今日は良く釣れたから分けてやるよ」

「魚?」

「おうよ、それで飯でも作ってくれ」

「……私が?」

「人のマスターを良いように使わないでください、狗」

「仕方ありませんよ、彼女以外頼る人がいない寂しい人ですし?」

「うるせぇぞ、餓鬼共」

「ごめん、ランサー。私魚さばけない。ランサーさばいて」


持っていたバケツを覗くと魚が数匹。魚特有の生臭さが名前の鼻を突く。月の聖杯戦争で殺し合いをしてきたが、あそこでは血のニオイとは無縁だったのだと思い出す。あそこでの死は電脳死。要は血を見ることが無かったのだと。
名前にとってランサーの厚意はありがたいが、その魚がさばけないのは痛手だ。なにしろ魚屋で魚を買うときは店主にどうやって食べると美味しいかを聞き、それが出来るようにとさばいてもらっていたのだ。前に挑戦してサーヴァントから酷い評価を受けたのが原因で、悔しい思いをしたが名前自身も実にそれが的確だったので諦めた。


「はあ?お前魚さばけないのかよ」

「さばけない事はない、しかし評価は最低。証人はアーチャー」

「名前の魚のさばけなさは尋常じゃありません。ある意味魚惨殺事件です、魚が可哀相ですよ…それ以外は問題ないんですが」

「そういうこと。でも、こんなに立派な魚もったいないね。私をアーチャーだけじゃ食べきれない」

「そこは俺を誘うべきだろ、どう考えても」

「あら図々しい。そんな図々しいサーヴァントはアーチャーで間に合っているからいらないわ」


しれっとした態度でランサーに物申す名前。その言葉に嫌な顔をされるが、この位の嫌味をいえないとこの餓鬼のマスターはやってられねぇよな。と言われたので、名前は「ええ、その通りよ」とこれまた言ってやった。
そんな嫌味ばかりでは折角くれるという魚が逃げてしまう。それはもったいないので名前はこの魚をどうすべきか考える。魚屋の店主に頼むか?いや、買ったものなら頼めるが、さすがにそうでないものを頼むのは忍びない。ではランサーに頼むか。何かといろんなバイトをしているから恐らくできるのだろう。しかし貰った物をまた本人に頼むのも申し訳ない。


「うーん、衛宮に頼んでみようか」

「…なんだ、名前、坊主と知り合いか?」

「え?」

「衛宮士郎だろ、お前が言うの」

「え、ああ…うん。衛宮、知っているの?」

「おう、一応あの坊主もマスターだぜ」

「なんとなくそう思っていたけど、そうなんだ。衛宮結構料理するみたいだから、持って行って、おかずの交換をと思って」

「俺の魚を交換のアテにするのか?」

「ここに持ってきた時点でその魚は名前と僕のなんですよ」

「お前にくれてやる魚はねえよ」


そうと決まればと携帯端末を取り出して衛宮の携帯に電話をかける。携帯端末が使える不思議はあるが、今はその不思議をそのまま利用した方がいいと名前も考えたのでそのままだ。下手にして使えなくなると困るのは名前自身、そのために携帯電話を買うのも癪なのだ。
数回のコールを経て衛宮の声が聞こえる。名前は簡単に事の経緯を話し、「それで魚と衛宮邸のおかずの交換をしてもらえると助かるんだけど…」と持ちかける。その間サーヴァント二体は事の成り行きを見守るように黙って真剣に見ている。こういう時だけは結託するのだからサーヴァント、いや男はわからない。少し考えたような声が携帯端末から漏れ、「いいぞ」と衛宮の了承の声。
そうとなれば話は早い。早くこの魚を衛宮邸はで運んでおかずとの物々交換を行ってしまおう。魚も鮮度が命だ、早いに越した事はないはずだ。


「よし、じゃあ行ってくる。ランサーも行く?」

「まあ、いいけどよ…コイツらは」

「行かないのは解りきっているからいいの。それに衛宮と知り合いなんでしょ?二人でおかずそこで分けられるし」

「最初から俺はここで食べるっていう選択肢はないのか?」

「アーチャー達が一緒でいいの?相性悪そうだけど」

「まずコイツと相性がいい奴なんかいないぞ、名前以外」

「心外ね、私これでも手を焼いているのに。相性がいいなんて…まあ、セラフが選んだサーヴァントなんだけど」


ランサーには名前と言う存在、そして1と契約しているギルガメッシュを簡単に話してある。それは信頼云々ではなく、聞かれたからだ。

案の定「僕は留守番していますね。マスターの帰りを心待ちしてまーす」と猫なで声で見送るギルガメッシュ。同じ顔をした少年も隣でニコニコしている。その猫なで声に辟易としたランサーは名前にむかい「お前本当に凄いな」と言われた。
ギルガメッシュという英霊と相性が良いと選ばれたマスターだからか、もしくはマスターとサーヴァントの関係がよく保たれているなということなのか。
そのままランサーがバケツをもち、名前は一緒に歩いて衛宮邸を目指す。前に一度配達の手伝いでだいたいの道を本人から聞いていたのが功を奏した。まあ、隣のランサーが衛宮邸を知っていたのでそれほど役に立っては居ないが。
衛宮と書かれた表札がある門。見れば立派な屋敷だ。屋敷だけ見れば金持ちのお坊ちゃんかと思えるが、バイトをしているあたりそうではないのか。人には色々事情というものが存在しているので深くは突っ込まない方がいいのだろう。
呼び鈴を押して、家主が出てくるのを待つ。ここまで広いと人が出てくるまで時間がかかりそうだ。


「…悪いなって、ランサー?」

「よう坊主。おかずと引き換えに来たぜ」

「あとついでにさばいてもらえると有難いなーなんて」

「…もしかして、名字の彼氏って、ランサーか?」

「は?」

「違うよ衛宮。ついでにネコさんが言っている彼氏も彼氏ではないから。言うなら…そうだな、保護者?」

「おい、名前?お前、もしかしてあれと付き合っているのか?っていうか、あれに付き合えるのか」

「だから違うってば。衛宮、交換しよう交換」

「知ってるか坊主。名前、マスターなんだぜ、金ぴかの」


何を意図したのかは知らないが、全く迷惑な話だと名前はつくづく思った。誰が他マスターに自分がマスターだと言って良いと言ったか。これはもう衛宮士郎の長ったらしい話が終わらない気がしてならない名前。この様子からして衛宮の方は予想してはいなかったようだ。この心配性なバイトの先輩は実に面倒なのだ。


「…は?」

「ランサー、あとが面倒だからやめてよ。衛宮すごく煩いんだから」

「なんだ、知らなかったのか?」

「知ってるのはランサーだけ。今まではね。衛宮、交換してよ。私の部屋にはお腹を空かせた同居人が」

「ちょっと、まて…名字、マスターって、どういう…」

「ほらー。ランサーの無駄口」


とりあえず上がってくれ、話はまずそれからだ。何とも低い声で衛宮の声が耳につく。
ああ、このままだと夕食は遅くなりそうだな。ごめんアーチャーズ、全部ランサーが悪い。
名前はそう心の中でつぶやいた。




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