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「#エロ」のBL小説を読む
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|||なかよくしてね

「…あれ?」


視界が違う。今見えるのは天井、しかも、見慣れたマイルームの天井ではない。
真っ白な清潔感あふれる天井、そして目隠しのカーテンレールが見える。そのカーテンレールには、また同じように清潔感のある白いカーテンがかかり、そこのベッドだけを隔離している。

いったい、何がどうしたのか。
たぶん、起き掛けの頭で考えてみるが、思い出せない。アーチャーを追いかけたセイバーの後姿は鮮明に覚えている。でも、その後が天井。しかも保健室と思われる。
身体を起こしてみようにも、どうも身体が言うこときいてくれない。


「あ、名前。気がついた?」

「…はく、の」

「気分はどう?名前、倒れたんだよ。凛とラニが、魔力不足じゃないかって」

「…そう」

「今、名前のアーチャーとセイバーを私のアーチャーと凛のランサーが探しているからね」


マスターが倒れたのを感知しないで、そこらへんをうろちょろしているのかと思ったが、今はそんな事を言う気持ちにはなれなかった。
簡単に言ってしまえば具合が悪い。魔力不足なのだ。
急にサーヴァントが二体になるというバグで体調が悪くなったのだろう。確かに朝から違和感はあった。起きたことを嘆こうとは思わないが、情けない気持ちになってしまう。

暫くボンヤリとしていると、白野が「私も探してみるね」とベッドの傍を離れた。


「やっと出て行った」

「大体マスターが倒れた事位わかっていますよ、パス繋がってるんですから」

「あの小娘はどうかわかりませんけど。………辛いですか?」


どうやら、彼は彼なりに心配してくれているようだ。
白野が席を外してすぐ。金髪の少年が顔を出して、今まで居た白野が邪魔だったのだと腹を立てている。一通りの嫌みを言って気が済んだのか、今度はベッドに沈む名前を心配そうな顔で伺う。


「魔力不足だなんて、とんだお笑い種ですよ名前。今のところ、ボクやあの小娘には影響ないみたいですが。それもオカシナ話なんですよね。ほら、ボク等は名前の魔力で活動しているわけですから。その名前が倒れてボク等が元気っていうのも…これもバグでしょうか」

「…さあ、どう…だろう」

「これからどうします?名前の魔力が尽きればボク等も同じ運命だと思いますし…あの小娘を後ろからといわず、正面切って消しちゃいましょう!それがいい。そうすれば魔力はボク一人で、名前も回復。全てが元通り!」

「せんとうこうい、だめ。ペナルティ、くらっちゃう」

「だって、辛いのは名前ですよ?ボクの為に辛いならいいんです。でも、これ明らかにあの小娘が原因ですよ」


気に食わない。その一言に尽きるのだろう。アーチャーはベッドの横の椅子に座ると、不満をどんどんとぶつけてくる。しかし、彼なりに名前を思っているのだろう。あまり大きな声を出さず、か細い名前の声の聞こえる範囲内で愚痴ている。
確かに、バグで現れたあの赤いセイバーで魔力の消費は激しく、名前の通常の活動に影響が出た。しかし名前自身、あのセイバーを憎もうとは思えない。最初から好意的だったことも関係あるのかもしれないが、素直だ。
アーチャーも嫌いではないが、どうも青年体には手を焼く。それでも一緒にいた時間は長い。それだけ気にとめてくれるのは嬉しい。


「しんぱい、しているの?」

「それなりに。言ったでしょう?ボクなりに名前の事気に入っていますから。それに彼も名前の事、気に入っています。だから小娘が気に食わないんです。なんで令呪が腹なんですか!ずるい」

「…なにが、ずるいの?」

「令呪を触る時、手と腹では違いますから」

「さわったこと、あった?」

「ありません。今から触りましょうか?」


ニコニコとする少年に対して、名前は沈黙を貫く。自衛だ。
ここで強硬手段に持ち込んだなら、それこそ供給をきってしまえ。セイバーなど関係は無い。マスターの身が守れるなら、セイバーも本望だろうとかって解釈して。

相手をするのも面倒だ。

そう思った名前は目を瞑り、身体を丸める。
その動きに、最初は頭を傾げたアーチャーだったが、少しだけ出た頭を撫で始める。ああ、そういえば前にこんな風にアーチャーを撫でたことがあった。そう思うと、なんだかそのアーチャーの行動が可愛く感じる。素直だとはあまり言えた性格ではないが、こういう可愛らしいところもあるのだ。


「…我のものを簒奪しようとする行為が許せん」

「…はい、はい」

「名前も大人しく魔力を奪われていて満足か?本来ならばその魔力は我に献上されるはずの魔力だ。それをどこぞの雑種に流れているのは許せん」

「そ。…あ、」

「なんだ」

「せいばー、くるよ」


青年体になって、頭にあった手がどけられた。そしてまだ続くかと思うほどのセイバーに対する愚痴。それだけ腹立たしいのかもしれないが、いつまでも愚痴をいうのはどうなのだろうか。これでも古代の王だった英霊が、細かい。
そんな愚痴を聞かされていると、気配がした。パスが繋がっているせいか、大体の位置が把握できる。アーチャーも本来であればできるのであろうが、アーチャー独自のスキルでそれが思うようになった事は無かったので新鮮だ。


「奏者…!!とアーチャー、居たのか…」

「雑種風情が我に物言いたげだな」

「そこをどけ!!そこは余が居るべき場所である!ああ、奏者よ。こんな姿になって…さぞ辛いだろう。安心せよ、余が一緒にいるでな」

「簒奪者がよくものうのうと言ったものだ雑種。我に献上されるべき魔力を横取りして、この始末。どうしてれる」


ああ、これは。と名前は魔力の供給を絞る。そうだ、消費が激しいのなら絞ればいいのだ。そうすればサーヴァント二体は黙るし魔力の回復は早いとまではいかずとも、無駄はなくなる。
省エネとは言った物だ。それに、良い具合に二体目の前に居るのだから、どこぞで野垂れているのではと心配せずにすむ。

いがみ合っていた二体の視界が歪み、膝を折る。そして恨めしそうに睨んでくるが、これもマスターの為だと思えばいい。サーヴァントは結局のところ使い魔でしかないのだから。


「奏者ぁ…何故だぁ…何故そんな男を庇うのだ…」

「おい、名前…貴様…っ」

「かいふくするまで、いいこにしていてね。いいこいいこ」


うんうん。と小さく頷いて潜る。
するとセイバーはその行動がなにやらツボに入ったのか魔力不足ながらに悶え、アーチャーはギリギリと歯軋りが聞こえそうなほどに食いしばっている。

そういえば、保健室といえば間桐桜がいたはずだが、迷惑をかけてしまっているのだろうか。
申し訳ないが、彼女のNPCだ。許容範囲内だろう。
動けるようになったら、お礼と謝罪をしなければ。




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