企画! | ナノ
|||ばぐ報告
「おはようございます、名前さん」
「ああ…おはよう、ラニ」
「元気がないようですが、どうしたのです」
淡いスミレ色の髪が頭を傾げるのと連動して揺れる。
ラニ=[。遠坂凛の対戦者だったホムンクルス。今となっては過去であり、誰も触れない事実。
ここでは聖杯戦争の話をしない、それが暗黙のルールになっている。
だから、聖杯に関わる確執は呼んではいけない。
「バグが発生してね…うるさいのが増えた」
「ああ、バグが大量に発生しているとの事ですね。心中お察しします」
「…ラニには何も起こってないの?」
「ええ。私は。ああ、でも…少し体調が悪いのでしょうか、視界が悪いです。不思議な事に、眼鏡を外した方が視界が良いのです。これもバグでしょうか」
真面目な顔でラニは名前に問う。常々眼鏡を愛用しているラニだが、それが視力矯正の物だったらしい。しかし、名前はラニではないし、ラニを造った師でも、その友人でもない。この聖杯戦争の中で知り合った一個人でしかない。
名前は少し唸って悩み、「無い方が見やすいなら、外しておけば?眼鏡は大事に取っておいてさ」と極当たり前の事を提案すると、「ああ、それもそうですね。これも師からいただいた大事な品です。なくさないように厳重に保存しなくては」と感謝された。
「あら、ラニ=[と名前。おはよう」
「おはよう…凛!?」
「おはようございます、トオサカリン。イメージチェンジという概念ですか?」
そうじゃないわ。と少しうんざりした表情の凛。
いつもなら黒い髪だった彼女が、今は金色の髪になっている。名前はリアルでの凛を知っているが、このセラフではあえて黒い髪にしていた彼女の変化に驚く。
ラニは特に驚くでもないが、ただの変化としてその容姿の変化について問うたのだ。
「バグよ、バグ。貴女達は何もなかったの?」
「私は特に。視界が変化あったくらいです」
「私はうるさいのが増えたよ…」
「ああ、そういえば名前のところのアーチャーがランサーのところに来て『名前が浮気したんです!!』って喚いてたわね…」
「浮気…?名前さん、サーヴァントとそのような関係だったのですか?」
「違います。事実無根ですラニさん」
凛の口調からして、幼少期だ。
ふらっと居なくなったと思ったら、どうやら凛のところのランサーのところに行っていたらしい。
それについてどうこう言うつもりはないが、浮気とはいい表現をしてくれるではないか。勿論褒めている訳ではない。後で話し合わないといけない。
ついでに言えば、セイバーは校舎を自由に回らせている。戦闘行為、迷惑行為等をしなければ自由にしていいと許可したのだ。色んな物に興味があるのだろう、喜んで走りまわっているに違いない。
「で、浮気の真相は?」
「浮気してない。ただのバグよ、バグ。サーヴァントがもう一体増えたの」
「…二体使役、ですか?」
「そんな感じです。もうワンセット令呪がでましたよ…」
「二体使役なんて、名前、貴女魔力大丈夫なの?」
「え?」
「そうですね、一体の魔力でしたら賄う事も可能ですが、二体となるとそれなりの苦労がありますから」
事務的な切返しのラニ、凛はもっともなことを言っている。
確かに、アーチャー一体であれば今までなんら問題はなかった。名前というマスター、アーチャーというサーヴァント。極普通の関係だった。
それが今はバグの関係で魔力の出口が単純に倍になっている。その魔力はマスターからサーヴァントに流れ、その魔力はマスターが生み出している。元から魔力が多いのならば問題ないのかも知れないが、名前はいたって平凡。供給と需要のバランスが良かったところに、それ以上の負荷がついてしまったのだ。
「何か不具合はありますか?」
「…うーん、ああ。朝からダルイというか…身体が重い?っていうの?あと眠い」
「じゃあ、十分な不具合でてるじゃないの。それなのにサーヴァントが傍に居なくて大丈夫なの?」
「アーチャーは今まで通りに活動しているだけだし。それを規制しようとは思わないからいいし…新しいのも好きにさせている。そもそも、あれが私と一緒に居るとか…あんまりないからなぁ」
聖杯戦争中は別だが、今は常々一緒に居なければという危機感はあまりない。本来ならば持つべきなのだろうが、戦闘行為自体が禁止されている。今は戦闘行為をしようものなら、NPCが即座に現れペナルティ。戦闘行為はすなわち自殺行為にもなってしまうのだ。
それに名前だけではく、他のマスターもサーヴァントを比較的自由にしている。
ラニもその一人だ。彼女の場合の自由は、マイルームに置いているというだけだが。そもそも彼女が一緒に居ない理由が凄い、『邪魔なので』の一言。
凛も常々一緒にいるわけではない。凛のランサーは何故かハーウェイのアサシンと仲が良い。マスター同士は邪険だが、サーヴァント同士はよくつるんでいるを見かける。
名前もハーウェイにあまり良い感情がないので、それに関してはあまり良い想いはしないが、マスターのほうではないのであまり気にしにないようにしている。自分の心の平和の為だ。
一緒に居るのを見るのはハーウェイの王子と、岸波白野とかだろうか。他にも居るが、名前にとってはあまり馴染みがない。
「凛、ラニ、名前…お、おはよう」
「白…野!?」
「面妖な格好ですね、白野さん。おはようございます」
「ちょっと…それもバグなわけ?」
「う、うん…ねこの、みみ」
控えめな岸波白野の挨拶。そしてそこに居た三人が見たのは、岸波白野の頭にちょこんとある耳。それは人間の耳でなく、いわば猫耳というやつ。流石に尾はついていない様子だが、その耳は実にあざとい。周囲の音を集めるようにクルリクルリと動きまわり、その動きが実に可愛い。
しかし、その後ろには心底参ったといわんばかりの白野のサーヴァント、アーチャーが。
そのアーチャーも白野のバグには対処仕切れなかったようだ。
「白野…よくその格好で出歩こうと思ったね…」
「全く持って同感だ。私の忠告を聞かないからこういった反応がくるんだマスター」
「だって…耳以外は普通だし…バグ報告に言峰神父にも会わないとだし。あれ、凛の髪の色…どうしたの」
「バグよバグ。ラニ=[は視力バグ、名前はサーヴァントが二体になったらしいわ」
「ああ、だから君のところのサーヴァントが騒いでいたのか。やれマスターが浮気しただのとランサーで憂さ晴らしをしていたぞ」
「うん、なんか、名前の裏切り者ー!とか、ボクのどこに不満があるんですかー!って」
「よし、それ何処で見た?ちょっと絞めてくる」
いつもの通りに供給を絞れたらいいのだが、二体使役になってまだ数時間といったところ。まだその二体の流れに慣れていないのが本当のところだ。恐らく今絞ったら、アーチャーだけではなくセイバーもその影響を受けてしまう。名前は特に気にしないが、あのセイバーの人懐っこさを見たら、どうもそれをするのは可哀相だ。
白野が「あっちで」と指を指す方向を見ると、凛のランサーが見覚えのある少年の首根っこをひっ捕まえて来るではないか。
どうやら、彼の堪忍袋も限界に近いらしい。その表情は実に苛立っている。
「よう、嬢ちゃん達。大体バグってやがるな」
「それはセラフの不備であり、私たちの到るところではないと思います」
「俺んトコのは金髪、弓兵んトコは猫耳、ホムンクルスは…バグってないのか?っと、ほら、返すぜ」
「私もバグは発生しているようです。視力のバグが」
律儀に自分に起きたバグを教えてやるラニ。それに対してランサーも「おう、それは大変だな」と悪くなったと勝手に解釈して同情の言葉。
今ランサーにとって大切なことはラニとの会話ではなく、その持っているサーヴァントだ。
金色の髪をして、紅い瞳の少年。不機嫌を隠そうともせず、今にも噛み付いてきそうな雰囲気だ。
「おい、コイツどうにかしてくれよ。俺にお前が浮気しただのってうるせぇんだよ」
「迷惑かけてゴメンね。よし、アーチャー。言い訳があるなら聞こうか」
「言い訳を聞くのはボクの方ですよ!!なんでボク以外にサーヴァントが居るんですか!?令呪持っちゃってるんですか!?ボクじゃ不満ですか!?」
「名前さんのサーヴァントは余程名前さんに好意的なのですね」
「うるさいですよホムンクルス!!今はボクが名前と話しているんです!!」
「これは失礼しました。どうやら私は余計な事をしたようですね」
黙りましょう。と一人温度の違うラニ。
他のマスター達といえば、凛は面白そうにニヤニヤし、白野はどうしたものかと少し困った顔。白野のサーヴァントにいたっては、同情の目だ。
確か凛のランサーと白野のアーチャー、そしてこの子供の姿をしているサーヴァントは面識があった。今の聖杯戦争ではなく、地球での方だ。その関係もあってか、ランサーとアーチャーには同情されることが多いのは確かだ。
「浮気とか、人聞きの悪い事やめてくれる?」
「浮気は浮気ですよ!なんですか、あの小娘!ボクのどこが不満だって言うんです」
「不満を言えというなら、ごまんと出てくるけど」
「うー……だ、だって!強いって言ってくれて、えらいって…頭…」
「ひとつ、いい?これ、今君が子供だから可愛いけど、本来青年体だよね。それを思うと全然私の心は痛まないよ。同情を誘いたいのが見え見えだアーチャー」
「うぐぅ。この姿でも駄目ですか…結構手強いです名前…」
「…嬢ちゃん、アイツよりもしかして強いのか?」
「うるさいです駄犬!今はアレ…はいいんですよ!」
泣き落としで優しくしてもらおうとでも思っていたのだろう。
子供の姿でうるうると大きな目を潤ませるが、本来の姿が名前の視界でちらついて、どうも同情するつもりにはならない。むしろ、浮気とう人聞きの悪いワードのおかげで関係は悪化しかけている。
いや、むしろ通常運転なのかもしれない。
もとよりこの陣営はこんな感じだったのだ。それほど仲がいいわけでもなければ、邪険でもない。
サーヴァントが一方的にマスターに噛みついてくるが、当のマスターにいたっては平然としている。
そもそも名前にしてみたら、それほぼ大きな事柄ではないのだ。うるさいのが増えてしまった、面倒だ。程度。
「うー…マスターのばか」
「その馬鹿から魔力貰ってるのは何処の馬鹿だ」
はたから見れば子供を泣かしている学生だ。しかしここでそれをとがめる者はいない。サーヴァントの方がマスターよりはるかに年上なのだ。外見がどうであれ、だ。
そんなこんなで睨みあいが続いていると、どこからか少女の声が聞こえてきた。
「奏者よ!こんなところにいたのか!」
「セイバー、散策は楽しかった?」
「うむ!余は満足だ。して、これは一体…?」
「ああ、私の友人の…」
簡単にセイバーに関しての紹介、セイバーに周りの紹介を済ませる。
今までのにらみ合いには興味がないのか、「何をしていたのだ」等の質問はない。
そのセイバーのマイペースぶりにはラニ以外が戸惑っている。ラニは相変わらず黙ったまま。一応は口を挟まないというのを守っているのだろう。
「して、奏者よ!」
「はいはい」
「この美少年とはどういう関係だ!!余は、美少年が好きだ。美少女はもっと好きだ!!」
「美少年…」
「もしかして、コイツか?」
「うむ、青いの。そこな少年だ!」
「アーチャー。ほら、気に食わないって言ってた、アレ」
「アレじゃありません!!名前のばか!!青年体になったら、足腰立たないくらいに魔力貰ってやりますからね!!無理駄目って言っても止めてあげませんからね!!」
そう叫んで走り去るアーチャー。
そして獲物を見つけた猟犬の様にセイバーがそれを追いかけた。
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