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|||バグパクハグ

「おお、戻ったか奏者よ!」

「ほう、これかね」


言峰神父が面白いものを見つけたと言わんばかりに、その目を細める。

名前がやっとの思いで言峰神父を見つけ、事情の説明をする。その間に名前の格好についての問いはなかった。それはNPCだからか、それか神父のモデルになった人間の性質かはわからないが。
そして、「実物を見せてみろ」といわれたので、また名前はマイルームに戻り、例のサーヴァントを見せたのだ。


「む、誰だ。余は奏者に用がある。そこの大男、下がれ」

「私はNPC統括の言峰だ。簡単に言えばここのルールみたいなもの。それで君は何者かね」

「余か?余は奏者のサーヴァント、クラスも言った方が良いのか?して、コトミネとやら、そなたは奏者の敵か」

「敵ではないが、味方でもない。NPCはマスターに皆平等。ただ、円滑に物事を進める為にある。クラスは…そう、教えてもらおうか」

「…なんだか回りくどい気がするが、まあよかろう。余は最優たるサーヴァント、セイバーだ」


ふふん。と小柄のわりに豊満な胸が揺れる。
剣を構えていたという話から言峰神父も予想はしていたが、本当にセイバーだった。
しかし、何故そのセイバーが名前というマスターのマイルームに居たのか。
そして奏者とは、いったいどのような意味があるのが。


「ではセイバー。君のマスターは誰だね」

「そこに居るではないか。その金色の気に食わぬ男の横に」


大柄な男がゆっくりと名前を見る。大柄なだけでも、少し近寄りがたいのに、その動きがまた、なんともいえない威圧感をだす。

そして当の名前は「は?」と声を上げた。
金色の男は、アーチャー。その横には名前だけ。ちなみに言峰神父は横ではなく、前にいる。


「ほう、セイバーと言ったな小娘。これがお前のような雑種のマスターだと?」

「小娘…だと?余を小娘と申すか!そこの!!余は余に優しい者には寛大だが、そうでない者には寛大ではない!ええい、奏者から離れ、余の剣のサビにしてくれよう!!」

「戦闘行為はマスターにペナルティが課せられる。今はこの部屋の主になるが…まあ、この発端は私も目撃している。ペナルティはそのサーヴァント二体に課そう」

「れ…冷静だ…言峰神父、流石」

「ああ、そうだ。今朝から実はバグ報告が多くてな。君のサーヴァントの件もバグだろう。特例として二体のサーヴァントのマスターと言ったところだろうか」

「え…そ、そんなあっさり…」

「とりあえずバグ報告として扱うのでな。あまりこの二体に問題を起こさせないように」


いがみ合うサーヴァントと、頭が追いついてこない名前をよそに、言峰神父は事務的な言葉だけを残してスタスタと戻ってしまった。
そこに残された名前と、そのサーヴァント、そして名前のサーヴァントだと思われるセイバー。
名前はひとつ、大きな溜息をついた。


「アーチャー、セイバー。いい加減にして、また魔力供給絞られたい?」

「しかし奏者よ、この男、非礼が過ぎるぞ!」

「雑種が我と同等になれると思うな。同じマスターだと?冗談では済まさんぞ」

「セイバー、まだ確定は出来ていないけど貴女はバグの可能性がある。で、私のサーヴァントはアーチャー。この関係はわかってもらえる?」

「…っ、そ、そんなこと、余は知らん!余は、余の奏者だ!!そんな男、余の奏者のサーヴァントではない!!」

「あーうん、私も換えられるなら換えたいけどね…」

「おい、どういう了見だ名前」


物の言いたげにアーチャーを見、また溜息をつく名前。その行動にイラッとしたのか、睨み返してきた。しかし名前はそれに怯む事もなく、無言で通した。
それを何か勘違いしたセイバーが、「むむむ」とうなり声を上げる。
見れば可愛らしい外見で、不満そうに二人を睨んでいるではないか。


「何故だ!!余は、余はこんなにも奏者が好きなのに!!愛しているのに!!何故奏者はそのような男がいいというのだ!!」

「…は?」

「男だからか!?男であればいいのか!?」

「え、ちょ…」

「ならば、余が切り落としてくれようぞ…余から奏者を奪うとは、万死に値する…」

「面白いことを言う。我に勝とうというのか、雑種。いいだろう、その気概気に入った、精々楽しませろ…」


よく意味が解らないが、早くも喧嘩が始まろうとしているのは確実。
仕方が無い。そう思った名前は無言で魔力の供給を絞る。ここで絞るぞ!と忠告したところで聞かないのは明白だ、なら無駄な行為は省いたほうがいいだろう。
それに、元からのサーヴァントのアーチャーはこれに慣れているし、セイバーは何故か解らないが盲目的に好意を寄せているのだ。


「はいはーい、喧嘩やめー。私着替えたいの、喧嘩はやめてねー」

「奏者ぁ…」

「名前…貴様…我の行動に規制をかけるか…」

「では、お二人。このままそこで潰れているか、部屋に入って大人しく私の着替えが終わるのを待つか。どちらがいい?」


これこそマスター最大の権限、とまではいかないが、それなりに有効な手段だ。魔力供給はサーヴァントにとってみたらエネルギーそのもの。それがなければ現界は難しい。
言うことを聞かないのであれば、それを絞めてしまえいいのだ。しかし、それも全くの有効でもないもの事実。サーヴァントが消えてしまえば、マスターもまた存在していくのも難しい。その兼ね合いの微妙な力加減があるのだ。

セイバーは「地べたは好かぬ。余は奏者の傍がいい」と素直に返事をする。
アーチャーは今までの行動からいつもの通りでいいだろう。これでも長いこと一緒に居るのだ、行動パターンくらいはお互いわかっているつもりだ。

供給を通常通りに戻し、大人しくするようにと何度も何度も言い聞かせ、ついでに「私の部屋に勝手にはいるな。ここから先は私のプライベート空間であり、サーヴァントの侵入は禁止。破った場合、二人の供給は強制的に絞るから。足の引っ張り合いはやめておくのが賢明」と脅した。このくらいの脅しなら、別に文句もないだろうと思ってのことだ。

それから着替えの為に戻り、後ろから突き刺さるような目線と、殺伐した空気を感じながらも無視をした。

「あー…朝から疲れた。…あれ?」


ふと見た自身の腹。腹の上部、そう、臍よりも上、胃の辺りに何かがある。模様だ、それも、三画で構成された模様。右手の甲にある、それに似ている。
  特例で二体のサーヴァントのマスターと言ったところか。
言峰神父の言葉が頭に浮上する。サーヴァント一体につき三画でワンセットの令呪。いままではアーチャーのみのワンセット。それがもうワンセット、しかも腹にあるではないか。

これは…まずい。まずいような気がする。


「奏者よ、まだか?余はこんな男と二人では死んでしまう」

「ならば早々に逝け。もとよりあれは我のだ」

「ふん、奏者が望まぬゆえに剣を収めているが…気に食わん!奏者!!」

「うるさい!こっちは今それどころじゃないの!」

「ど、どうかしたのか?奏者よ…」


どうかもそうかも何も!といいかけたが、寸前のところで飲み込んだ。これで変に騒ぐと面倒なことに本当になってしまう。
あの性格のアーチャー、そしてこの短時間で感じ取ったセイバーの性格。それから考えて今騒ぐのは得策ではない。これには自信がある。
しかし、隠すようなことでもないのも事実。出たのは令呪なのだ。

うーん。と名前は少し唸ってから覚悟を決めた。そんな大層なことではないが、この位の表現でも間違いはない。


「おお、奏者よ。よい出で立ちだ」

「はいはい。で、まあ…報告というか、あれだ。うん」

「うむ。」

「まどろこっしい、いったいなんだというのだ」

「もうワンセット令呪が出た。それだけ」

「な…我以外のが、ということか!?」

「まあ、そんなところ。セイバーのだと思う。これがまた厄介なところになー」

「厄介、とは?」


ここに出た。と服の上から指さす。

そして数秒の沈黙。


「おい、手にあるのが我の令呪でいいのだな」

「うん。ずっとここにあるからね」

「で、その腹にあるのが、小娘のか」

「…、今は黙っておいてやろう、アーチャーよ。して奏者、余の令呪は奏者の腹か?腹なのだな!?」


あからさまにイラついた様子のアーチャー、それに対して嬉々とした様子のセイバー。
いったい何だと言うのだろうか。見せろといわれたら抵抗するが、そこにあるという事実だけを言っただけだ。


「小娘…いい度胸だ、我を差し置いて…」

「ふん、これも余の方が奏者を思う気持ちが大きいから成せる技。どうだ、アーチャー」


その大きなエメラルドの瞳が、ルビーの瞳に勝ち誇ったように笑う。

ああ、またうるさくなってしまう。




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