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|||私の彼と彼女

ゆっくりと、確実に意識がハッキリしてきた。
深いところから、水面に浮上するように。


「…ん」


ぼやける視界。
ああ、朝か。
この電脳の世界での朝というのも最初こそ違和感があったが、今となっては慣れてしまった。
マイルームには私のほかにサーヴァントが一体。
そのサーヴァントとは寝る所は別にしてある。なので今は私一人のはず。同じ空間にサーヴァントはいるが、今は個人の時間なのだ。


「…?」


おかしい。そう思ったのはぼやける視界がハッキリと輪郭を戻してきた頃。手の届くところに金色の頭らしき物が見える。
金色の頭といえば、私のサーヴァントだ。あの傲慢知己の唯我独尊。大きさから言って、子供の姿だ。青年体ならば、私よりもはるかにデカイ。

そういえば前に回路を繋ぎ直してから、やたらとくっ付きたがって迷惑していた。
これもまた、その延長なのだろう。
私はまだ気だるい体を起こして、金色の頭が潜っている毛布に手を掛ける。
マスターの居場所、しかも寝床に侵入してくるとはいい度胸だ。その度胸だけは買ってやってもいいが、許しはしない。


「アーチャー、勝手に人の寝床に…」

「…むう」

「え…は?」

勢い良く剥ぎ取って、強制的に覚醒させてやろうと思ったのだ。人の寝床に侵入とはいい度胸だ。この位の覚悟は出来ているはずだと。
しかし、そこに居たのは少年でも青年でもない。同じ様な金色の髪をした小柄な少女だった。
その少女はゆっくりと、その大きな目を開け、エメラルドのような綺麗な瞳を晒し、満足そうに微笑むではないか。
そして、体を艶っぽく揺らしながら起こし、四つん這いになって迫ってくる。


「余より早い起床とは」

「は…?」

「折角の奏者の寝顔を見ること叶わなかったのは残念だが、朝一番にそなたの顔を見れたことで良しとしよう」

「…ちょっと、あなた、誰?ここは私のマイルームでしょう?この部屋に入れるのは私と私のサーヴァントだけ。あなたを招いた記憶はないのだけど」

「ほう、余の顔を忘れたか?昨日は実に甘美であったではないか、それさえも忘れたと申すのか?ならば再度快楽の波に溺れるがいい、余はそなたの愛らしい声が聞けるならば、その無礼も流そう」


悪戯を楽しむような目で、甘えるような声をだし、擦り寄るように手を伸ばす少女。

彼女はマスターではない。こんなに目立ったマスターならば、校舎エリア内で一回見れば記憶に残る。
ではサーヴァントか。そう見てまず間違いはない。しかし、なぜこの部屋にいるのか。
ここはセラフが用意したマスター個人の部屋。マスターが招いた者以外は侵入出来ないはず。では私のサーヴァントが入れたか。それは無い、あれに限ってそんなことを許すはずがない。

金髪の少女が伸ばした手は、名前が寝るときに来ていたシャツの前ボタンにかかり、一つずつ外されようとしている。


「おい、名前。我より遅いとはいい度胸…」

「アー…チャー…」

「む、無礼ぞ、そこの男。余の寝所である、わきまえよ。余はこれから奏者を可愛がるでな。朝餉はその後にする」

「おのれ貴様…名前に何をしておるか。それは我のだ、どこぞの雑種にくれてたった記憶は無い!」

「ほう、男。余の奏者がお前のだと申すか」

「いい加減にしろよ雑種風情が…おい名前、貴様どういうつもりだ。我というサーヴァントが居ながらどこぞの雑種と戯れるなど、いい度胸をしているではないか」

「ちが…だいたい、なんでアーチャー、貴方、どうして侵入に気づかないの!?それに、私が今どう状況かわかってる!?襲われてんだ馬鹿!!」


助けろ!!と叫べば、アーチャーはニヤリと笑ってラフな姿から甲冑姿へと変わる。これが臨戦態勢だ。

聖杯戦争は岸波白野が制してから、戻る身体が無い私たちとってはここが生活の場であり、ここが現実なのだ。
そしてマスターのサーヴァントの関係は保ちつつも、戦闘が行われることは無いに等しい。
時たま喧嘩程度に騒ぎがあるが、監督役の言峰神父がペナルティを課す。ペナルティといっても、舞台が学校なのでそれにちなんだものだ。軽いものであれば掃除、奉仕活動。最悪言峰神父に色々なことに付き合わされる程度だ。


「アーチャー、戦闘は禁止されているから駄目!ペナルティ喰らうのは困る!」

「その雑種さえ消えれば問題ないはずだ!覚悟しろ雑種、簒奪行為、無礼にも程がある!!」

「奏者よ、この部屋が壊れるのが困るのだな。よろしい、ならばここは余が奏者の為に壊れる前に無礼な男を倒してやろうではないか!!」

「武器構えるの、やめー!!」


互いに武器を持つサーヴァント二体。少女の方は剣を持つ、恐らくはセイバーだろうか。
戦闘が始まる前にどうにか臨戦態勢を解除させねばと、サーヴァントの魔力供給を絞る。アーチャーが体勢を崩したのを見てセイバーが切り込むか、警戒してとまるか。もし切り込んだ場合、一気にアーチャーの供給を増やして、こちらが何かしらのアクションで不意を突けばアーチャーもそれに応じて攻撃してくれる。
そう思って、魔力の供給をギリギリまで絞った。
その瞬間だった。


「…っ!」

「む…っ!?」

「…え?」

「名前…魔力を絞るとは…貴様」

「あの男を…助けるつもりか、奏者、よ」

「え、な…なんで」


絞ったのは、アーチャーだけのはず。いや、繋がっているのはアーチャーだけなのに。何故、何故セイバーと思われるサーヴァントまで膝をつくのか。
いや、今はそんなことはいいのだ。今はこのセイバーと思われるサーヴァントの傍をはなれ、自分のサーヴァントのところに行かないと。それがまず先決なのだから。

起き掛けの衝撃と、混乱する頭で、足がもつれながらもアーチャーの横へと滑り込む。

ここまでくれば、あるいは。


「んな…!何故だ奏者、余から離れてそちらに付くのだ!」

「理由なんて簡単。私のサーヴァントは残念なことに、彼なので」

「残念とはどういう意味だ。まあ、いい。今はこの雑種よ。暇つぶしくらいにはなれよ」

「アーチャー、一旦外に出る!言峰神父に報告して対処してもらおう!」


魔力供給を通常に戻してマイルームの出入口に走る。思うように足が進まないが、今はそんな事を気にしている暇は無い。
お世辞にも広い部屋とは言えないが、何度も転びそうになってドアに手をつく。後ろにはちゃんとサーヴァント、一緒に出てマイルームのドアを閉じてしまえばこちらのものだ。
マイルームには私と私が招いた者しか入れないかわりに、出ることも出来ないのだ。


「…奏者よ!!なぜ、」


少女の叫びが聞こえたが、それを無視してドアを閉じる。

ああ、疲れた。
そうだ、そもそも朝に強いわけではないが、弱いでもない。それに起き掛けの奇襲だ。身体と頭がついてこないのは仕方の無い事だ。
足がよろけて、床に座るのも仕方が無い。
ただ、それを面白そうに見下ろすサーヴァントは不愉快だけど。


「……なに」

「ふん、自分の部屋に他サーヴァントを入れるとはいい度胸をしていると思ってな」

「私がそんなこと、すると思うわけ?」

「我の関心を引きたいのであれば。しかしそれは有効な手段ではないがな」

「なんで貴方の関心を引かないとなの」


溜息をつきながら、立ち上がり、私よりも大きいアーチャーに向かって言う。
だいたい、朝っぱらからこんなド派手な黄金の鎧なんて見たくは無い。目が痛いのだ。
それに、こんな傲慢で我が儘なサーヴァントの関心など、今になってみれば何の意味のない。聖杯戦争中ならば、言うことを聞かせるために試行錯誤しただろうが。
今になってしまえば、このアーチャーは自由に過ごしている。
確か3回戦目に岸波白野と戦った“ありす”とかいう幼女を構ったり、凛のサーヴァントで遊んだりしている。しかしハーウェイのアサシンはどうも気に食わないのか、見れば喧嘩をふっかけているらしい。らしい、というのは私が見たわけではない。そのアサシンが直々に迷惑だと私に言ってきたのだ。ハーウェイは大嫌いだが、あのアサシンは話していて悪くない。まあ、アーチャーがくっ付くようなきっかけを作ったアイツにはいつか制裁を加えたいとは思っているけど。


「ほう、その格好で関心を引くな、と言うのか」

「は?」

「自らの格好を見てみるがいい」


意味ありげに笑うアーチャー。
そして私がその意味に気づいて再び魔力供給を絞ったのは言うまでもないと思う。
どうしてこういう時に限って子供の姿じゃないのか。まだ子供の方が扱いやすいとはどういうことだとも思うが、これはもう仕方が無い。
謎のサーヴァントだけではなく、どうして自分のサーヴァントでも疲れなきゃいけないのか。そう思うと溜息しかでてこない




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