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|||仲間だった“彼”ではないけれど

「…なんだ、その恰好」

「士郎にね、ランサーが釣りしてたって話したら、道具を持たせてくれて、名前もやっておいでって」


名前の手には初心者用と思われる竿、バケツ、そして日焼けをしないようにと帽子を被っている。長い髪はひとつに結われ、風になびいている。


「ランサー、私に釣り教えて」

「………餌、付けられるか?まずそれが出来ないと駄目だからな」

「えさ?」


おいでおいで。とランサーは名前を手招く。
名前もそれに従い、ランサーの隣に道具を下して次の言葉を待つ。
ランサーはランサーで名前をどうしようかと、自分の頬が掻いて餌の入っている小さい箱を片手に悩む。これは正直女受けが悪い、男の受けも良くないだろう。これで悲鳴を上げられては、悪者は自分だ。名前の性格からして自分を悪者にはしないだろうが、後味が悪い。


「…虫とか、平気か?」

「虫?たぶん、平気」

「………悲鳴上げるなよ」

「…うん?」


ほれ。と箱を開けて中身を見せる。
暫くの沈黙。


「これ、生きているの?動いているから、生きているね」

「…よし、肝が据わっていいぞ嬢ちゃん。最初はやってみせるから、次は自分でやってみろ」

「うん」


器用に竿の準備と餌の準備をするランサー。その手際をみて名前はうんうんを頷き、その過程を興味深げに見ている。

最初こそ面倒くさそうにしていたが、名前が真面目に聞いてる姿を見て、世話焼きの性がうずいてしまったらしく、ところどころで「ここをこうすると上手くいくからな」などとアドバイスのサービスまで。
それに名前は素直に「うん。やってみる」と何度も頷いてはじーっと見つめている。


「なんだ、今日は女連れか。いいご身分だな」

「うげ…」

「アーチャーだ」

「なんだ、君か。それの連れではなかったか、すまんな」

「今日はね、ランサーに釣りを教えてもらうの。アーチャーも釣りするの?」


まあな。と鼻で笑うアーチャー。
他人から見ればさぞ嫌味に見える。いや、これは嫌味だろう。
そんな奴に釣りを教わるのか?残念だな。と言わんばかりだ。
しかし、それに気づかないのか、名前はただ笑っている。

名前の事を知らない、この世界この時代の者から見れば、名前はただ純粋なのだろう。それはあながち間違ってはいない。
名前は知らないが故に純粋なのだ。そう、自分という存在さえも知らない。
それに関して友人や自分のサーヴァントにどれだけの心配や迷惑をかけただろうか。
しかし、それでも仲間は自分を信じてくれた。最後までサーヴァントは自分に付き合ってくれた、友人は信じて最後まで一緒に来てくれた。
アーチャー。
ここでは名前のサーヴァントではない彼。ここでは凛のサーヴァントだ。
最初は正直ショックだった。でも、あの時にもう会えないと、最後だと思って消えたはずだったから、ここで一方的な再会は嬉しくて寂しかった。
それにあそこはデータの海。地上の真似事、だったのだ。


「ランサーとアーチャーはどっちが上手なの?」

「…おいおい嬢ちゃん、先生に向かってなんつう事を聞くかねえ」

「先生?そんな人物がここに居るのかね?名前、そんな似非に教わっては君の教養に関わるから辞めたまえ」

「全部偽物の癖に…いいだろう、その喧嘩買ってやるよ」

「別に喧嘩をしかけたつもりはないが。そちらがその気ならば私も買ってやろう」

「かーん。ゴングって、こんな音だよね」


昨日士郎が観てた格闘番組で観たから知ってる。と自慢げに言う名前。
その行動に男二人は少々吹いてしまったが、名前があまりに得意げに言うので二人はその頼りないゴングで勝負を開始した。特にルールは設けてはいないが、先に釣ったもの勝ちでいいだろうと互いに同じことを思って。

そしてアーチャーが竿を振って数分の事だ。彼が「フィッシュ」と言ったのは。


「さかな?英語でフィッシュ」

「確かにそうだが、この場合のフィッシュはヒット。すなわち当たりだ」

「じゃあ、勝負はアーチャーの勝ち?それとも先に5匹くらい釣った方が勝ち?」

「………いいよ、弓兵の勝ちで。ったく」

「かんかーん!勝者、アーチャー。今のお気持ちは?」

「悪くない、とでも言っておこうか。これでわかっただろう、ソレに教わっても成果は出んぞ」


フンと鼻で笑ってランサーを見下すアーチャー。
既にランサーはそんな事には興味はなく、二人の存在を無視するようにタバコを吹かしている。

今までランサーの横に座って、ランサーの竿から垂れた糸を見て釣れるのを待っていた名前は立ち上がり、アーチャーを正面にとらえる。


「私ね、釣りとか、勝負は正直関心ないんだ。今、ここで何か世界を関わっていたい。私はあの人じゃないけど、私なりにここに居たいんだ。それは、私の気持ちなのかとか、よくわからない。でもね、私は今、たぶんそう思ってる。これにもっと早く気付けていればよかったんだけど、それがあそこじゃ出来なくて」

「…?」

「ランサー、アーチャー。他の人も、あそことここの人は同じで違う。でも私は同じ。あそこは勝者だけしか生きれなかった、でもここは違う。みんな、みんなが居る。だから、あそこでできなかったこと、ここでしてみたい。ここに居ない、彼もそういってくれそうな気がするから」

「嬢ちゃん、よくわらんが…まあ、頑張れよ。あと、釣りに興味がないなら帰れ」


ランサーは溜息をついた。





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