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「#エロ」のBL小説を読む
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|||海辺の知ってる他人

「これ、魚?」

「ん?おう、そうだぜ」

「生きている?」

「そうだな、これはまだ生きているな。なんだ、魚見るの初めてか?」

「生きているのを見るのは初めて。この前調理されたのは見たけど」

「…変な嬢ちゃんだな。こんな奴に声かけてくるなんて。ちったあ警戒した方がいいぜ」

「大丈夫、私の知る限りのランサーはそんなサーヴァントじゃないから」


ランサーの横に置いてあるバケツを覗きながら名前は極普通に答えた。
初めて見る生きた魚。魚の存在は知っている。あそこで優雅に泳ぐ姿は今でも鮮明に思い出せる。
しかしこの魚は鮮やかさが足りない。

真剣にバケツの魚を眺める、見知らぬ子供にランサーは一気に警戒のレベルを上げた。
何故自分がサーヴァントだということを知っているのか。何故ランサーというクラスを言い当てたのか。
そして気配が極力薄い。


「ねえ、ランサーのマスターは凛?」

「……」

「ランサー?」

「…お前、何者だ。なんで俺がサーヴァントだってわかった。魔術師か?」

「私?私は名字名前。でも私は偽者、その人の形をした別人で、私はその人に成れないし、代わりにもなれはしない。一部にも」


これでいい?と頭を傾げる名前。
ランサーが聞きたかった事はそういうことではない。名前が知りたいのではなく、何故サーヴァントを知り、クラスと言い当てたか。なのだ。
しかし、名前はそんなことを気にすることもなく、興味のあるバケツの中身を覗いてはバケツをカツンカツンとつついている。
それは、正に子供が興味のあるものを触る仕草。興味と恐怖の板ばさみで、何処から危険で、どこまでが安全かを確認しながら行っている。


「俺のマスターは、そんな名前じゃねえよ」

「そう…こっちの凛のサーヴァントはアーチャーだもんね。ランサーと凛、仲良さそうだったのに」

「やめろよ、弓兵のマスターって言えば、あの嬢ちゃんじゃねえか。……ん?こっち?」


ランサーが不思議そうに名前に問うと、名前はバケツから視線をランサーに変えて「こっちとあっちは違うのよ」と笑って見せた。
なんだか取っ付きにくそうな子供だとランサーは思いつつも、「横に来るか?」と誘ってみると、名前は少し嬉しそうに頷いた。
全身を見てみると、特に肉付きがいいわけでも、色気があるというわけでもない。極普通の女の子供だった。
名前はランサーに言われるままに、横に腰を下ろして蒼い海を眺め始める。


「ここにはどのくらいの魚がいるの?みんな、この魚みたいに地味なの?」

「どうだろうな。考えたことないからなあ…、それなりに居るんじゃないか?」

「魚は死んだら食べるの?」

「食うために殺すんだよ」

「そうなの?」

「そうなの」


ふうん。と竿から伸びる糸の先を見る名前。
そういえば。とランサーは思い出した。確か、公園で金ぴかと仲の良い子供に混じって遊んでいたを見たことがある。確か、この子供だった。周りの小さい子供に混じって、一人デカイ子供がいるなと思った記憶がある。
たぶん、それがこの隣に居る名前だ。


「ランサーはどうしてアロハなの?」

「似合わないか?」

「似合いすぎてビックリ。ここのサーヴァントって、現世を楽しんでいるね」

「そういう嬢ちゃんも楽しんでいるだろ。この前公園でガキに混じって遊んでいたのを見たぜ」

「ああ、うん。走り回って、体がだるくて、動きたくないなって思っていたら、あれが疲れなんだね。知らなかった」

「違う意味での疲れ知らずか。元気なこった」


軽く笑うと、名前もそれにつられるように控えめに笑う。

ランサーの咥えていたタバコの煙が風に乗って名前の方へむかい、名前に掛かると軽く咳き込んだ名前。それを見てランサーはタバコを消して「すまねえな、気がつかなくて」と謝ると、名前は「それ、なに?」と次の興味を示し始めた。
変な奴だと思いつつも、名前に「タバコも知らないのか?」と構う。


「ランサーはそんな煙が美味しいの?サーヴァントって変わっているのね。それともランサーが変わっているの?」

「人間が変わってんだよ。俺だから、サーヴァントだからじゃなくな。それに俺から見れば嬢ちゃんも十分変わってるぜ」

「私はデータでしかないから、しょうがないの。あそこになかった物は、みんな初めてだから」

「…ふーん?」


変な奴。そう思いながらも、ランサーは何も聞かなかった。これが恐らく彼女のスタイルなのだろうと思って。これで変に何か言うよりも、そうなのか。で終わらせておけばいい。

名前は黙ったランサーと同じに黙る。
だた揺れる水面、そこに浮く浮き、そこから伸びる糸、糸に繋がる竿。
それを眺める。


「あれ?名前ちゃんだ!どうしたの?名前ちゃんも釣りするの?」

「本当だ名前ちゃんだ。今日は出かけてるってお家の人が言ってのに」

「…知り合いか?」

「友達。私はしなよ、ランサーがしているのを見学しているの。皆は?」


ギルと釣り!と声をそろえる子供たち。
名前は「そう、楽しそうだね」と笑い、ランサーは嫌な顔をして溜息を漏らした。





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