企画! | ナノ
|||友人のモデルになった人
「こんにちは」
「ああ、こんにちは」
「士郎の、友達ね。同じ制服だもの。士郎に用事?」
「え、ええ」
衛宮の家の門をくぐると、そこには同世代の女性。いや、女子と言った方がいいのだろう。
彼女は竹箒を持って玄関を掃除して、静かに挨拶をした。
「たぶん土蔵に居るのと思うんだけど。この場合あがってもらった方がいいの?ごめんなさい、私こういう時どうしたらいいのか分からないの。どうしら、いい?」
「用事はすぐ済むので、ここで待たせてもらいます。申し訳ないですが、衛宮をお願いします」
わかった。
そう頷いた彼女は竹箒を持って、庭へと姿を消していった。
この衛宮邸には多くの人がいる。元は衛宮士郎、彼の一人住まいだった屋敷。今ではそこには人が多く居る。
いつ頃からだろうか、こんなにも友人の家が騒がしくなったのは。
「一成、どうした」
「ああ、衛宮…」
友人の衛宮の後ろから、先ほどの女子が顔を覗かせて、何かを確認するように頷く。
正直、彼女が何者なのか聞きたい気持ちがあったが、それは今聞いてはいけないのだろう。彼女本人が目の前にいるのだ。
そんな柳洞一成の気持ちを知ってか知らずか、名前はまた竹箒で玄関の掃除を始める。
名前にとって、彼ではないNPCの柳洞一成は友人だった。いや、友人というポジション、役目を負った存在だった。同じ顔で、違う。本物、なのだろう。
「そうだ、名前。俺の友達の柳洞一成。一成、名字名前。じいさんの知り合いの娘さんで、家庭の事情ってやつで」
「ああ、そういう関係か。柳洞一成です」
「名字、名前です」
「しかし衛宮の家はにぎやかだな。セイバーさんといい、あの忌々しいアイツまで…」
「忌々しい?誰?私?」
「いや、貴女ではなくて…」
「一成は遠坂が苦手なんだよ。天敵だな」
軽く笑う士郎。それをなんともいえない嫌な表情で見る一成。そしてそれを不思議そうに頭をかしげながら見ている名前。
楽しそうに話す。これは名前にとっては、ここに来て目するようになった光景のひとつ。
あそこでは自分と自分のサーヴァント以外は敵だった。それかNPC、ただのプログラムでしかなかった。それに、何かしらの反応があったとしても、それはムーンセルの意向にほかならない。
NPC以外のプレーヤーは確かに居て、話もした。しかし、結局最後には自分と友人の二人。最後には自分自身が消えてしまった。ここにいる理由も、原因も分からない。でも、友人やサーヴァントがいたなら「それでいい。原因や理由なんて、いらない」といってくれるだろう。
「名前ちゃん!!あーそーぼ!!」
「今日はサッカーしよう!他の皆はもう広場に行ってるんだ!」
「…名字さんの、知り合いか?」
「うん、友達。この前一緒に遊んだの」
「意外と子供に人気があるんだよな、名前」
「もうすぐ掃除が終わるから、そうしたら行くね。先に行ってて」
分かった!!と元気良く走り出す子供たちに手を振り、中断していた掃除を始める。
士郎と一成の話の最中に掃除をするのは申し訳ないとは思うが、約束をしてしまった以上はやらねばならない。
掃除もこの家で生活する上での必要事項だ。ライダーの様に働きに出るのもいいのだろうが、なにせ上手くコミュニケーションが取れない以上は働きにでるのも巧い手ではない。
「いいよ、掃除は俺がしておくから。名前は早く行ってくるといい」
「駄目。これは私の役目だから。士郎にしてもらっては駄目。もうすぐ終わるから大丈夫。二人が話しているところで掃除してゴメン」
「いや、こちらも申し訳ない。仕事の最中に、すぐ立ち去ると言いながら邪魔をしてしまった」
「ううん、いいの。一成に会えたから。それに本当にもう終わるから」
固まる一成と士郎には関心をよせずに、纏めたゴミを所定の場所まで運ぶ名前。
相手が子供とはいえ、適当にしてはよくないと手早く役目を終わらせる。そして運動がしやすい格好に着替えて再び玄関に行くと、まだあの時のままで二人が突っ立っている。
まだ用事は済まないらしい。
「やっぱり、あがってもらえば良かった?」
「あ、いや、そんなことは…」
「そう?じゃあ士郎、私ちょっと行って来るね。ついでに何か用事があれば済ませてくるけど、何かある?」
「いや、ない。楽しんでこいよ。夕飯の時に寝ながら食べなきゃいいから」
「わかった。あんまり熱中しないように気をつける。いってきます、またね一成」
長い髪を束ねて、手を振る名前。
それを士郎はいつものように見送り、一成はなんともいえない表情で見送った。
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