企画! | ナノ
|||また一緒に
「ということで、前回の聖杯戦争で私がお世話になったランサーです」
聖杯戦争に関わった人物ならばと現在衛宮邸にいる人たちだけに紹介する名前。その横でランサーは礼をとり、その様子を少し懐かしむ様にセイバーが見ている。
ランサーとセイバーの関わりは名前自身途中までしか知らない。まして、ランサーの終わりがセイバーのマスターであった衛宮切嗣の画策であったことなど露ほども知らない。
それを名前に教える必要はない。むしろ教えてはいけないと思っているサーヴァント二体。それは過去の事であり、前に進むべき生者が過去に消えた存在の消えようなど気にしてはいけないのだ。
「士郎くんとはもう会ってるよね。この屋敷の家主で、魔術師…ね。そのサーヴァントのセイバー、紹介しなくてもわかるよね。あと…お風呂場に居て、今居ないのがアーチャー、さん。前回同様遠坂家のサーヴァント、彼は前回と今回では違う英霊」
「…申し訳ありませんランサー、先ほどは取り乱して」
「いや、気にするなセイバー。主の事を思っての行動、感謝する。そしてセイバーのマスター、騒がせて申し訳ない。そして再び主と引き合わせてくれたこと、感謝してもしきれない」
武人、いや、騎士としての礼節の二人に士郎は面食らった。
セイバーのその礼節は常々見ていたし、それに慣れていた。しかし名前の横にいる男は自分よりもはるかに大柄で、見るだけで様になっている。それに加えて美人だ。男に美人と容姿を表現するのは嫌がられるかもしれないが、美人と表現した方が一番しっくりくる。美形といってもいいのたが、所作のひとつひとつが美しい。
「いや、勉強の為と無理言って名前姉さんに召喚の儀式してもらっただけで…むしろ、申し訳ない」
「その偶然に救われました」
「…まさか召喚できるとは思わなかったけどね。でもどうして成功したんだろうね。だってランサーはいるんだし」
「確かに。ランサーは現界しています…どうせ今日も港で釣りに勤しんでいるのでしょうけど」
釣りという言葉に目の前のランサーは少し頭を傾げる。
10年前は殺伐とした、正に戦争を行っていたランサーにしてみたら意外過ぎて嘘偽りを言っていると思われても可笑しくない。相手の居場所が分かるのならば即刻仕掛けて雌雄を決するのが定石。
それが暢気に釣りに勤しんでいると聞けば力が抜けるのも仕方ない。
「最初にお聞きすべきだったのですが…あの、聖杯、は…?」
「ない…かな。10年前のは私は誰が手に入れたのか知らないけど、今回は…あえて答えるなら士郎くんが勝者…かな」
「ええ、そうなります。シロウが聖杯を手にして私たちはこうして現界していられるのです」
「一応そんな感じ…かな」
あはは…となんとも誤魔化すように笑う士郎。そしてそれに合わせるように名前も少し困った様に笑って見せた。それとは対照的に胸をはるセイバー。彼女は士郎のサーヴァントというこで勝者に分類されるからなのだろう。
名前は今回の聖杯戦争に直接関わってはいないが、前回の関係者として複雑なのかもしれないが。
「では…聖杯戦争は終わっている…と?」
「そうです。私たちがまた武器をとり、殺し合う必要はないのですランサー」
セイバーの言葉に少しきょとんとしたランサーだったが、静かに「ああ、」と笑みをこぼした。
そうか、あの時と同じ様に武を競わなくてもいいのか。という残念な気持ちと、名前が怖い思いをしないで穏やかに過ごせるという喜び。なにより名前との再会の約束を果たせたというのが大きい。
「…再び召喚いただき感謝いたします主。このランサー、主の為ならば槍となり盾となりましょう」
「戦わなくていいのに…ランサーは真面目だな、釣りしてるのは大違いだ」
「正に騎士としての風格が備わった騎士といっていいでしょう」
「…それでね、セイバー、士郎くん。お願いがあるんだけど」
ランサーの態度に素晴らしいと称えている二人に、少し遠慮がちに聞いてくる名前。
それに二人は何かと互いに顔を見合わせて頭を傾げる。もともと頼み事をあまりしない名前の頼みとはいったいなにかと。
セイバーも名前から頼み事をされた覚えはなく、むしろいつも頼み事をしている立場。これは恩返しができると笑顔で返す。
「実はね、ランサーと戦って欲しいの。私10年前にセイバーと正々堂々と戦いたいって言ってて…そのお願いを叶えてあげたいの」
「え…?」
「あ、主…?」
「あ、別に命かけてってわけじゃなくてね。ただ、純粋に戦ってほしいだけだから…駄目、かな…?」
「な、なあ名前姉ちゃん?別にそんな勝負なんかしなくても…いいんじゃ、ない、か?」
「10年前の再戦…勝負がつくまでさせてあげたいと思うの、変…?」
頭を小さく傾げる名前に、どう突っ込んでいいかと悩む士郎。
セイバーは「戦いよりも、既にランサーの願いは叶っていますよ」というわけにもいかずに苦笑い。
ランサーは少しズレてはいるが、自分を思う名前に感激している。
この際、何故や、理由は考えない方がいいのだ。考えたところでわからない、知って後悔することもある。
知らずに幸せでいられるならば、気付かないで続く幸せがあるのならば。
今はこの幸せに感謝すべきなのだ。
誰もが幸せに憧れ、笑むことができるなら。
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