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「#エロ」のBL小説を読む
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|||許してくれとは烏滸がましい


名前は正座をし、深々と目の前にいる男に頭を下げる。
それは言うなれば土下座だ。まごう事なき土下座。


「あ、主…?」

「この度は大変申し訳ない事をしてしまい、謝罪の言葉もございません」

「どうか頭を上げてください、頭を下げられては私の立場がございません」


なにとぞ、
そういうランサーに名前は頭を上げることは出来なかった。

衛宮邸のとある一室。
そこを名前とサーヴァントは話をする場として借りた。そして名前は深く頭を下げ、謝罪し、サーヴァントは困惑している。
サーヴァントは何故己の主が頭を下げ、詫びるのかがわからない。まして主に頭を下げられる理由に思い当たらないのだ。
一方で頭を下げる名前には理由がある。
10年前という自分が子供であった時に犯した罪。それを再び犯してしまった。それは繰り返してはいけない行為であり、繰り返したとしてもあの時と同じ様には決してならない。


「…まず、貴方に記憶が残っていないものとして話をします。私は10年前、聖杯戦争の折りにサーヴァント、ランサーを召還しました」

「…はい」

「そのサーヴァントは私の師が召還するはずだったサーヴァントで、私はそれをイタズラで喚び出し、師の妨害をしました」

「……」

「そしてそのサーヴァントにも、申し訳ない事をし続けました。……最終的に彼を裏切り、自分だけ助かった。それに私は彼がどんな最後をむかえたか知りません。そんな私がまた、サーヴァントを喚び出してしまった」

「……」

「お察しの通り、貴方です。私が10年前、そして今召還した貴方なんです。許してくれとは言いません。私は許されるべきではありません」


止まる名前の言葉。
許して欲しいわけじゃない。罵ってそれで彼の気が晴れるのならば、それでいい。サーヴァントに殴られたらひとたまりもないが、それも甘んじて受ける覚悟がある。


「…お変わりになりませんね」

「…、」

「あの時と同じに、また違うと仰るし。なにより、すぐお謝りになる。私は貴女様に謝っていただくことも、まして頭を下げられることもございません」


おずおずと、ゆっくり頭を上げ、伺うように見上げる名前。
あるはずかない。言峰綺礼が言っていた。
サーヴァントがもし複数回聖杯によって召還されたとして前の記憶は持ち合わせないと。情をかける、まして約束など無意味だ。言っていたではないか。
セイバーだけが特別で、他はそうなのだ。そう、その筈なのだ。


「…随分大きくなられましたね」

「じゅ…10年、だし」

「顔付きも女性らしくなりました」

「……そ、そう…か、な」

「能力も、随分成長されたようですね。あの時とは比べものなりません」

「…よく、わからないけど、そう、なの?」

「でも、やはり伺うようにお聞きになるのは変わられない。あの時の小さな主と同じです。我が主」

「…どう、して?なんで覚えてるの?…セイバー、だけが、特別じゃ、ないの?」

「それは私にも分かりません。お答え出来ず、申し訳ありません」


その言葉に名前は頭わ小さく左右に振った。
記憶が在る。それだけでよかった。それだけが、辛いのかもしれない。
記憶があるのは確かに嬉しい。あの時から10年の月日が流れたがら昔の様に遊ぶ事はないが、昔の話が出来る。あの時できなかった事をする事ができるかもしれない。
しかし記憶があるならば怨まれて当然だ。名前は怖いと途中で放棄して裏切った。いや、そもそも最初から名前は彼を裏切っていた。彼だけではない、師も、その婚約者も、叔父も。全てを裏切っていた。
誰からも許されず、許されることは決してないのだ。


「我が主よ、お泣きになるな」

「…え?」

「あの時の様に、また泣いておられる。最後までお護り出来なかった事を心よりお詫び申し上げる」

「な、なんで…謝るの…?あ、あれは…あれは私が、」

「私の力量がありませんでした。主を危険な目にあわせ、ケイネス殿もあの様に…あれでは主が脅えるのも仕方がありませんでした」


違う。あれは…

名前が言葉にする前に嗚咽がもれた。いつぶりだろうか、嗚咽がでるなんて。
ケイネスが死んだと言われた時?それとも叔父が大火災で亡くなったと知った時?ランサーと別れた時?
共通しているのは10年前、聖杯。
そうだ、あの時。あの時は色々ありすぎて名前は涙が枯れるほど泣いた。様々な事がありすぎて胸が痛くて痛くて、名前では受け止めきれなくて泣いていたのは覚えている。


「シロウ、事件です!名前がランサーによって泣かされています!」

「…え?」

「セイバー、誤解だ。別に主を泣かせては…」

「言い訳は結構!騎士たる者が婦女子を泣かせたるは言語道断、まして名前はシロウの姉と同様。許すことはまかりとりません!」


突如開かれた障子戸。そこには仁王立ちのセイバーの姿。しかもしっかりと武装しているではないか。
これにはランサーだけではなく名前も呆気にとられた。確かに端から見れば男が女を泣かしている様に見えるかもしれない。しかし真実は違うのだ。
しかし名前は嗚咽を漏らしてまで泣いていたので弁解が思うように出来ないし、ランサーがセイバーに何を言っても言い訳にしかならない。


「あの時叶わなかった勝負の決着です!よもや邪魔される心配はない、名前を泣かせた罪、償ってもらうぞラン痛い!!」

「落ち着けセイバー。悪い二人とも、セイバーが“名前の危機です!”て飛び出して…ほら、戻るぞ」

「ですがシロウ!名前が…!!」

「これは当人同士の問題なんだ。口を挟むな。暴れると飯無しだからな!」


悪い。と軽く頭を下げてセイバーを引き摺る士郎を見送る二人。
その姿がなんだがとても面白くて名前が少し笑うと、ランサーもつられて笑った。




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