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髪留め


髪留めだ。
確か、あのアジア系の女子が付けてた。遠目だけど、妙にその髪留めが綺麗だったから覚えてる。


その髪留めを拾ってまじまじと見ているイワン。
なんとなく、その髪留めがアジアンな雰囲気があるな。という印象だったが、こうして見ると日本風か中華風というのが分かった。
どちらかと言えば日本風なのかな。と眺めて、その髪留めを上に上げてみる。


「なんだイワン。そんな女物の髪留めなんか持って」

「あ、エドワード。これ、落ちてて」

「それ、アイツのじゃないか?ほら、えーっと、アジア系の」

「多分。こんなの付けてたの見たことある」

「届けてやれよ、拾ったんなら」


うん。と小さく頷くイワンにエドワードは眉を顰めた。
声が小さい、そして背中を丸めた。これは大抵イワンがどうするか迷っている時の仕草だからだ。
イワンはどうも内向的で、だいたいエドワードの後ろを歩いてはビクビクしている。
一緒にヒーローを目指してはいるが、どうにもヒーローに向かない性格をしていて、しかも臆病。


「ぼ、ボクが話しかけて…迷惑じゃないかな」

「なんで?」

「だって、ボク地味だし…」

「落としたの届けんのに地味とか関係あるのか?」

「ボクに話しかけられて嫌な思いとか…」

「大丈夫だろ。見たところいつも一人だし」


まだグダグダと無駄ないいわけをしているイワンにしびれを切らしたエドワード。
ならこうしよう。と提案をひとつ出してきた。
まず俺が話し掛ける。で、イワンが拾ったって差し出してお仕舞い。
簡単に説明してイワンが返事をする前にエドワードは「いくぞ」とその女子を探しにでてしまった。






「なあ、えーっと、なんだっけ名前」

「……」

「おい、君、君だよ!」


肩をパンと軽く叩いてなんとか呼び止めたアジア系の女子。
少し、いや、かなり警戒した雰囲気で「…なんですか?」と振り向いた。
確かに同じアカデミー、同じクラスたが面識があまりない相手に話しかけられたら警戒してもおかしくはない。

エドワードは簡単に自己紹介、そしてイワンのことも名前程度に紹介して「で、君は?」と切り出した。


「…早乙女琉伽、です。何かご用ですか?」

「イワンが琉伽に用事だってよ、ほら」

「あ、あの、これ。貴女の、ですよね」

「…?あ、ええ、はい。どうもありがとうごさいます」

「なあ、琉伽はどこ出身?アジア系だよな」

「日本です。早乙女がファミリーネーム、琉伽がファーストネーム」

「へー。あ、ファーストネームで呼んで悪かったな」

「いえ、気にしてません。よくその様に言われますし」

「なら俺のことはエドワード。で、こっちはイワンって呼んでくれ」


すこし怪訝そうにしてから「はあ…」とこぼした。
そうだ、いきなりこんなに親しげにされたら誰でも正直不快だと思う。彼女がおかしいわけじゃない。


「で、琉伽」

「…はい」

「今日暇?」

「は?」

「ちょ、エドワード…」

「せっかく知り合いになったんだ、仲良くしようぜ」


そのエドワードの神経の図太さに、彼女だけじゃなくて僕も開いた口が塞がりそうもなかった。