TIGER&BUNNY | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


向き合おう、私も君も

「…どうも、初めまして。アカデミーで折紙サイクロンと同級生でした琉伽・早乙女と申します。この度はお招きに預かりまして、ありがとうございます」


これよろしかったら。と差し出したお菓子の詰め合わせ。
それをホァンは嬉しそうに受け取り、ニコニコしている。


「琉伽、堅苦しいよ」

「一応アカデミー関係者として対応したつもりなんだけど、駄目だった?」

「ボク、ホァン・パオリン!カリーナと、ネイサンでしょ」

「俺とバニーちゃんは知ってるから、あれがアントニオ。で、知ってると思うけどキース・グッドマンな」


これはご丁寧に。と挨拶する琉伽。
それに対して琉伽に初めて会った者達は何ともいえない表情をしている。
てっきりキースの恋人だというからには、ホワホワしておっとりしている女性だと思っていた。
しかしどうだろう、目の前にいる女性はクールで真面目というのが第一印象だ。


「それで、どうして私は病室に招待していただいたんでしょうか」

「いきなりきたか…」

「何か問題ありましたか?」

「いや…」


琉伽の問いに皆が目線をそらした。
それはある意味の好奇心から琉伽を呼んだに近いのだ。
あのキングの恋人だ、どんな女性か。折紙と同じアカデミー出身?見ていたい。ただその一心だった。
それとは違うが琉伽を知っている人間にしたら、琉伽がキングの恋人とはどういうことか。

ようは全員が単純な好奇心だったのだ。


「琉伽、私が…いや、琉伽に謝りたいことがあったんだ」

「……」

「ずいぶん、私は君に甘えていたようで…すまない、そして申し訳ない」

「それ言うためだけに、こんなところに呼んだの?」

「あ、いや…」

「そんなのいちいちこんな所で言う必要あるの?ないでしょう。だいたい一般人呼んでいい所じゃないのわからない?」


ここ何処だと思ってるの、病院。しかも、有名ヒーローが入院しててるフロア。
とてもごもっともな事をマシンガンの様に言っている琉伽。
それを聞いてシュンとするキースとイワン。
キースにしてみたら、周りに背中を押されて頑張って琉伽を呼び出して打ち明けようとしていた矢先に説教。
イワンは琉伽を呼ぶ手伝いをしたが、まさかの琉伽による正論の説教。最もすぎて反省するほかない。


「もう少しリスクを知った方がいいんじゃないの」

「ま、まあ落ち着いて下さい早乙女さん。何も悪気があったわけじゃないんですし」

「悪気がないからいけないんです、危機管理が出来ていません」

「え」

「いいですか、まずこの病院このフロアにあのヒーロー達が入院してるんです」


それがファンに情報が漏れない保証はありません。私が本当に琉伽・早乙女という保証はありますか?もし私が折紙サイクロンの様に擬態ができるNEXTだったらどうしますか?とりあえず私は本物ですが。それに犯罪に巻き込まれる可能性も無きにしも有らずですよ。ヒーローに恨みのある人も居るんです、もう少し、いや、もっと用心すべきだと思いますが。

これにはバーナビーだけではなく全員が面食らった。
まさかそんな事を言われるとは思っていなかったからである。

周りはヘコんでいるキースを元気づけようとしただけである。
確かに気軽な気持ちはあり、軽率なのは認めるが、そこまで言われる必要はない。


「そんな風に言わなくても…」

「プライベートに支障をきたすことになってもよろしいんですか?えーと、カリーナさん」

「……」

「言わばヒーローは匿名での芸能活動といってもいい昨今、悪質なファンが何らかの手段でプライベート生活を犯す可能性さえも出てしまいます。それだけの危険性を知っていてほしいだけです」


変な男にストーリーされても良いというなら話は別ですが。
落ち着いた声色で説教されると、カリーナだけではなく全員が黙ってしまった。

そうだ、琉伽はこういう性格だったと思い出したイワン。
琉伽は元より物腰が堅いのだ。そして物言いが良くない。本人はとても良い人間で、よく気に掛けてくれるのだが言い方がキツい。
よく学生の時もそうだった。
何かあればいち早く駆けつけてくれ、フォローもしてくれたが…やはり今同様になることがしばしばだ。
頭ごなしに叱りつけられないが、これはこれでツラいのも知っている。


「琉伽…そんな言い方しなくても、ね?」

「…ああ、そうね、すみませんでした。少し感情的になってしまいました」

「いや、琉伽の言うのがもっともだ…私の我が儘に付き合わせて申し訳ない、そしてすまなかった」

「まったくもってそうね」


最後の琉伽の一言に沈むキース。それに対して琉伽は涼しい顔をしている。
この二人の温度差というか、態度の差に誰もが疑問に思った。
「本当に恋人か?」と。
下手をしたら琉伽が上司にさえ見えてくる。ミスをした部下を叱る姿に。
イワンはキースを元気づけようと自分に出来ることとして琉伽を招いたが思っていた以上に溝が深い様で焦っている。
彼にしてみたら琉伽が甘えたりとか、甘い雰囲気が想像できないな。という微笑ましい何かがあると思っていたが全く持って違っていた。


「…すみません、折紙サイクロンが彼の為にプライベートな事で私を呼んだんですよね。皆様にこれ以上御迷惑は掛けられませんので二人で話させていただいてもよろしいでしょうか」

「え、ええ…いい、わよ、ね」

「あ、ああ。いいと…思うぞ」

「…そう、だね。私の我が儘で来てもらったんだ。席をはずそう」


キースが了承すると手際良く車椅子の用意と、大柄なそのキースを車椅子に移動させる。その手慣れた様子は誰もが目を疑った。
え、今まであの冷たい言い方してた人が少し甲斐甲斐しい。と。
後でイワンに聞いた事だが、琉伽はあれで怪我の手当や介護は得意なのだという。なぜそうなったかはイワンも知らないがイワンもアカデミー時代に何度も世話になったとのこと。





「…ジョン連れてきてるから、あう?」

「ジョン…どうして琉伽が」

「…ジョンが気になって家に行ったらちょうど…キースの会社の人が連れて行く時で。私に気付いたジョンが私の所に来たから、私が預かってる」


キースの車椅子を押す琉伽。
無言で何処まで行くのだろうと思っていたが、聞くに聞けず、沈黙していた。
そして不意に言われた愛犬の居場所。そういえば、あの時もジョンを気に掛けてくれていた。


「…ありがとう。そして、ありがとう」

「別にキースのためじゃない」

「そうだね、でも、ありがとう」


そうか、琉伽は優しいんだね。知っていたはずなのに、改めて知った気がした。
きっと、今までなにも言わなかったのも琉伽の優しさだったんだ。


「…私は君に、琉伽に隠し事をしていた」

「…」

「それを君に、打ち明けようと思う。聞いてくれるかい?」

「…キースが、聞いてほしいなら」

「琉伽に、聞いてほしい」


私の背後で琉伽が柔らかく笑った気配がして、小さく「いいよ」という声が聞こえた。