TIGER&BUNNY | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


知らない角度

「あれ、その人さっき…」

「え?」

「ねえちょっと、これさっき折紙と一緒に居た人だよね」


ジェイクの事件から数日。
入院中の私が見ていた携帯の画像を覗き込んだローズくんが見舞いに来てくれた他の二人を呼ぶと、その二人も「本当、なに?キングあの子の知り合いと知り合い?」とか「折紙さんと仲良さそうにしてたよ」と教えてくれた。


「折紙の友達かな」

「キングはその子とどういう知り合い?」

「あ…い、一応、恋人…なんだ」

「「…え?」」

「でも、彼女は私がヒーローだとは知らないし…入院してることも知らないから、うん」

「じゃあ…他人の空似ね」


そうさ、そうに決まっている。
琉伽が、彼女が居るはずはない。私は彼女に自分の仕事を教えてないし、折紙くんの知り合いだとしても世間はそんなに狭くはないはずだ。


「見に行ってみたら?スカイハイ」

「え、ちょっとキッド…」

「だって気になるんでしょ?なら行けばいいのに。遠くから見て、違えば違ったでいいでしょ?そうだったら折紙さんも合わせて知らない他人のフリしてくれるよ」

「…しかし」

「そうね、行ったら?ロビーに居たわよキング」



少し迷って、皆が進めてくれたように行こうと決心した。
「ありがとう、行ってみるよ」と笑ってみたが、しっかりと笑えていただろうか。

そして、もし折紙くんの知り合いらしき女性が琉伽であったならどうすべきだろうか。





「…あ」


折紙くんとならんでいるのは見間違えようもなく琉伽だ。
あの日いらい久しいが見間違えることは出来ない。琉伽だ。


「良かった、テレビじゃワーニャの事言わないから」

「良くなったから。…ごめん」

「なんで謝るの?」

「…だって、琉伽、いつも応援してくれてるのに…何も出来ないから。だから今回も、僕がもっと…」

「どうしてそうネガティブかな。エドワードが怒るよ、またネガティブになって!って」

「………」

「…誰か、ワーニャ責める?」

「ううん」

「怒る?」

「…ううん」

「なら、いいじゃない。ワーニャは褒められても責められる落ち度はない」


ワーニャ…?折紙くんの愛称、だろうか。
それにしても久しぶりで、琉伽の声色が懐かしい。
折紙くんも彼女を琉伽と呼ぶあたり親しいの間違いないらしい。
しかし、ここで出て行ってどうごまかそうか。
折紙くんが私をキース・グッドマンではなくスカイハイと呼んでしまえばバレてしまう。
そんな事を隠れて悩んで唸っていると、楽しそうな声は途絶える事もなく続いている。


「そうだ、これ」

「?…あ、これクッキー?琉伽が作ったやつ?」

「うん、ヒーロー仲間さんにも良かったから。私一般人だからそこに行けないし」

「僕琉伽の作ったお菓子好きだから嬉しい」

「ありがとう。ここにくる前にエドワードのところに寄ってきたんだ」


食べてもらえるか解らないけどね。と声が小さくなる琉伽の声。
琉伽と折紙くんと共通の友人だろうか…。しかし何故そのエドワードくんは来ないのだろうか。


「あれ、琉伽ちゃん?」

「鏑木さん…ブルックスさんもこの度はお疲れ様でした。そして、ありがとうございます」

「いえ、そんなことは…それより早乙女さんは何故ここに?」

「ワー…イワンのお見舞いに」


ワイルドくんと、バーナビーくんとも琉伽は友人なの、か。
いったいどういう関係なんだろうか…。
そういえば私は琉伽のことを何一つ知らないのかもしれない。彼女の経歴も、友人関係も、職場も、好きなもの嫌いなもの、あまり知らない。


「今アカデミー大変でしょう?」

「はい、皆さんの活躍でヒーロー志望の方が多くて。おかげで私も事務だけじゃなくて講師役までやらされてます」

「ほー、そりゃすげえな」

「琉伽が先生してるんだ、凄い」

「僕の時も何度か講師されてますよね」

「自習監督でしたけどね」


ヒーロー?アカデミー?講師?何のことだろうか。
隠れて混乱していてる私を余所に、琉伽が「そろそろ失礼します、イワン無理しないで早く治してね」と立ち上がっている。
…琉伽、帰るのか。私がここにいるのに、会わないで、見舞ってくれないで帰るのか。
会いたい、でも私がここから出て行ってどうする?
待ってくれ。と声をあげる?そしてどうする。琉伽が待ってくれるだろうか。琉伽の事だから待ってくれない。
いや、琉伽はいつも待ってくれていた、それに甘えていた。
琉伽は優しい。


「あ、そうだ」

「忘れ物?」

「ううん、あのね…」

「………え?」

「よろしくね。それでは失礼します、イワンにクッキー渡してあるので、よろしかったら」

「おう、気をつけてな」

「ご馳走になります」


折紙くんに耳打ちをしてから一礼して行ってしまった琉伽。
…結局、なにもアクションを起こせないで終わってしまった。
そもそも琉伽に私が入院していることも、ヒーローの私もいない。それが極自然なのだ。
ああ…。そうだ、そうなんだ。
だから、私が今、ここにいるのを知らずに折紙くんと仲良くしていても誰も責めない…責められるのは私だ。琉伽に隠れて友人と会っているのを影でコソコソと見ていた。


「え、なんでスカイハイさんが…」

「え、あ、なん…だい?折紙くん」

「今、友達が『そこに居る人にもクッキーあげてね。あと犬の世話ちゃんと誰かに頼んでるか聞いて』って…え、なんで?」


キョトンとしている折紙くんを筆頭に、ワイルドくんとバーナビーくんも驚いた顔をしている。
確かにここにいたら驚かれるだろうが、でも、何故?何故琉伽がそんな事を。
その三人だって私に気付いていなかった。
それに私は二人の背後にいた、分かるなら後から現れた二人だ。


「お友達が、居たのか、な?」

「え、あ、はい」

「琉伽ちゃんなー、可愛いよな。なんで折紙付き合ってねえの?」

「なんでって…そんな、琉伽は友達だし…」

「そういうことは言わない方がいいですよ、それは当人達のスピードがありますから」

「違いますってば!」

「ちょっと…聞いていいかな。その、お友達はどういう関係…なのかな」


私が、他人のハズの私がそんな事を聞くのはオカシイ。分かっている。
この中で私と琉伽の関係を知っているのは居ない。しかし私以外は私の知らない琉伽を知っている。
ごめんよ琉伽、私は君にズルをする。


「琉伽ちゃん?琉伽ちゃんは折紙と同級生で今アカデミーで事務してんだよ。たまに講師もしてるみたいだけど」

「アカ、デミー?アカデミーって、あの、ヒーロー育成の?」

「はい、早乙女さんと折紙先輩は同級生でして。虎徹さんが言ったように講師と事務的な事で何度か御世話になりまして」

「琉伽、この前のキャンペーンで久しぶりに会って。僕よりも才能あるのにヒーローにならないで…」

「…そ、の、彼女は…NEXT、なのかい?」


そうですよ。と答える折紙くんに私はどうしたらいいかわからなくなった。


「なー、琉伽ちゃん可愛いから変な男付く前に折紙守ってやれよー」

「早乙女さんはしっかりしてますけど、そういうところは危ないかも知れませんね…折紙先輩」

「ちょっと待ってください、琉伽は確か…恋人います、よ」

「え、それ本当か!?会ったことある?」

「あ、いや…会ったことは、ない…です」

「変な男だったらどうすんだよ、琉伽ちゃん純情そうなのに」


…恋人、か。
琉伽は私を恋人と認識してくれているだろうか。私の思い込みではないだろうか。
彼らが言う琉伽の恋人は、私だろうか。
私は琉伽の恋人という場所を貰えているのだろうか。


「…い、…おい、キング?」

「え、ああ…すまない。少しぼーっとしていたみたいだ」

「そろそろ病室に戻りませんか」


ああ、そうだね。
と答えた私だが、しっかりいつも通りに笑えていたかは分からない。