TIGER&BUNNY | ナノ
見た事ある子。
今、私の目の前には鏑木虎徹。そして小さな男の子がいる。
鏑木は私から目線をそらして口元をヒクヒクとさせて「あー」とか「いや」だの「その」と切り出し方を伺っている。
そして問題はその男の子だ。
非常に弟に似ている、幼いときの。
正直瓜二つだ。
まさか弟の隠し子?とは思わないが、状況がイマイチ掴めない。
「ここ、どこかわかってる?鏑木虎徹」
「あ、はは…そう、だよな。俺ら居るのオカシイよな」
「自覚はあるようで安心したわ。で、それ」
目線の先の子供。要は彼が何者かで鏑木の用事が判明するのだ。
そうでなければ、なにが楽しくてライバル会社のエンジニアに面会を頼みにくるものか。
用事がある。ではなく、面会をいちいち頼みにきたのだ。
「…コイツに見覚え、ない?」
「ありすぎる。」
「だよなー…はは」
「で、いったい何がどうなってこうなった?」
「いや…信じて貰えないとは思うんだけどよ。バニーなんだわ」
「…やっぱり。原因は?」
「NEXT?」
無言の二人。
NEXT?何故疑問系なんだ。原因がNEXTならばNEXTと言い切ればいいだけのことだ。
溜息をつくと、小さくなった弟と思わしき子供が大きな目と視線がかち合った。
ああ、あの時くらいの歳かな。
「ところで鏑木。その子の精神は」
「そのままです姉さん」
「…ありゃー、この度はもう言葉にならないほどの不幸に見まわれてお見舞い申し上げます」
「お、琉伽が混乱してる」
「とりあえず、お二人とも引き取っていただけます?」
にこやかに、他人行儀、いや、軽く否定的に返す。
現実逃避は好きではないが、これは現実逃避をしないと心が折れてしまう。
しかしここで否定したら困るのが目の前の二人。
「ちょ、待て琉伽!お前の弟だぞ!?」
「姉さん!」
「弟は成人してるから大丈夫!ね、バーナビー。姉さん信じてる」
「何を!?今のバニーの何を信じてんの?」
「すべて」
「姉さん…」
「騙されるなバニー!琉伽は混乱して考えるの放棄したんだ。そんな信頼してもらって嬉しいなんて顔したら負けだ!」
そうね、そういえば3日程寝てないわ。幻覚、そう幻覚。仮眠室に行こうかな…いや、それよりも面倒な書類書いて有給使って寝ようか。
きっと10年振りに弟に会って昔の可愛い頃の幻覚が見えるんだ、そいだ、きっとそう。
疲れてるのね、ああもう無理ができないのねフフフフフ。
「よし、有給取ろう即取ろう。書類用意してくる」
「じゃあバニーの面倒を…」
「幻覚が見えるなんて私相当疲れてるのよ、そうねそうなのよ。ああロペスにも休むからって連絡しないと」
「姉さん!」
ボフン。と脚に衝撃。
見れば小さくなったバーナビーが自分の脚に抱きついているではないか。
ああ、なんて小さいんだろう。
この子があんなに大きくなるなんて、世界の不思議だ。
そんなことを疲れた頭で考えていると、小さな弟はクッと頭を上げて、大きなガラス玉の様な目玉で見上げてくるではないか。
「うっ」
「姉さんは、こんな姿になった僕は…嫌い、ですか?」
「いいぞ、その調子だバニー」
「姉さんが僕を信頼してくれているのは解りました。でも、今の僕にその信頼は重いんです、応えられないんです」
うるうると水分が浮き上がる瞳。
ぐぎぎ…。これは卑怯だ、卑怯すぎる。
小さな子供がうるうるの目線で、しかも脚に抱きついてくるなんて。
「ああもう!わかったよ、わかったよぅ!!とりあえず抱っこさせなさい!!」
「うわぁ!?」
「おちたー!よくやったバニー!」
ああもう小さい!かわいい!
ふにふに柔らかい!何これ!!
ああもう懐かしい懐かしい!何年ぶりの感覚!
両手で収まるサイズ!大人弟とは大違い!
「あーう、可愛い!可愛い!昔はこんな可愛かったんだねぇ。ちゅうしていい?」
「はい」
「拒否しろそこは」
「あ、そうだ鏑木。その事って上に話…」
言葉が終わる前に声を上げた携帯。
こんな時に誰だと思って弟を抱きかかえたまま出ると、あろう事か社長が何故か直々に電話をかけてきた。
さすがに予想していなかったので声が若干上擦り、へんな事を言ったりしないかとドキドキしつつも会話を終えた。
しかし、しかしだ。問題というか、内容だ。
『やあ、こうやって話すのは初めてだね琉伽・ブルックスくん。君がアポロンメディアのバーナビーくんと縁者だとは知らなかったよ、アポロンメディアの社長から聞いてね、それは驚いた。そうそう本題だけど、今その社長から事情は聞いた。で、琉伽くん。君協力しなさい。アポロンメディアに恩を売るいい機会だしね、よろしく』
「…」
「姉さん?」
「今の電話、おたくの社長から?」
「……なんていうか、大人の世界って恐ろしい。」