TIGER&BUNNY | ナノ
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不意に視線を感じた。
別にここは公園のベンチで読書をしているだけだ、それにマナーが悪いというわけでもない。
極普通に読書をしているだけだ。
何かマナー違反をしてしまったのか。
どうも耐えきれなくなり、目線を上げると大型犬がこちらをジッと見つめていた。
周りに飼い主らしき人物はいない。
勿論その犬は自分の犬ではい。

その犬は少し困惑している琉伽などお構い無しに尾を大きく振り、一声鳴いた。


「こんにちは」

「ねえ、アナタのご主人は?」

「そうね、喋れないよね」

「散歩でこの公園にくるの?」

「…どうしてアナタは一匹なの?」


どんなに聞いても犬は答えてはくれない。ただ犬は優しい目でこちらをじっと見つめたままで、頭を傾げたりして、まるで琉伽の問いかけに反応しているようだ。
埒があかない。
浅く溜め息をついて、読んでいた本をバッグにしまう。
元より動物に好かれる体質ではなく、好きだが動物からは寄ってきてくれた試しはない。
それが今、なぜか目の前の犬に気に入られたようだ。
その犬は琉伽の手が空いたのを確認したかの様に、軽やかに琉伽の側に近付いて琉伽の足に顎をヒョイと乗せて上目遣いに見つめてきた。


「……早くご主人が見つけてくれるといいね」

「あ………」

「?」


少し離れたところに背が高く、優しい金色の髪をした男性が少し肩で息をして、驚いた様子で琉伽と犬を見ていた。
それに琉伽は誰だろうと当然の疑問を持ち、犬はその男性を見ると大きく一声吠えた。
威嚇する様子でもなく、嬉しそうにしているところを見ると、どうやら彼が飼い主のようである。


「す、すまない。その、犬が迷惑をかけただろうか…」

「いえ、いい犬ですね」

「あ、ありがとう…そして、ありがとう」

「スカイハイがお好きですか?」

「…え?」

「同じ言葉を繰り返すの、スカイハイの癖でしょう?」

「あ、ああ…そ、うか、癖…」


たどたどしく笑う男性に、琉伽も一緒に笑うと何故か男性は赤くなり、直立したままになってしまった。
犬は犬で飼い主の元に戻ろうとはしないで琉伽の側に貼り付くように座り、尾を振るばかり。


「お散歩してて、脱走ですか?」

「え、ああ、はい。ちょっとの、隙に走り出して、色んな道じゃない所に、走って…」

「駄目ですよ、こんな大型犬脱走させちゃ。温和しいといっても人を襲わないとは限りませんよ」

「き、君は!大、丈夫だった…か、な」

「はい、何故か気に入られてしまいましたが」


ね。と犬の頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細め、もっとしてくれと頭がずいと近寄ってきた。
どうやら本格的に気に入られてしまったらしく、男性もどうしたものかと固まっているようにも見える。
もしや勝手に触ってしまったのが不味かっただろうか、気難しい犬で自分にしか懐かない犬だったのかもしれない。しかし犬種としては人懐っこいもので、懐きにくいという印象はない。現に懐かれたわけである。


「ああ、すみません。勝手に撫でて」

「あ、いや、羨ましいなと思って…」

「え?頭撫でさせてくれないんですか?この子」

「あ!いや…違うんだ、そして、違うんだ」

「ほら、早く飼い主さんの所に戻って。すごく心配してたみたいだよ、脱走しちゃ駄目、ね」


地面に落ちたままになっていたリードを持ち、手渡そうと近付くと肩をふるわせて驚かれてしまった。
もしや彼は女性恐怖症なのかもしれない。だから犬を見つけた自分にドモっていた可能性はある。
手渡すのは辞めた方がよかったかもしれない…。


「これ、リード…、私、近づかない方がいいですか?」

「い、いや!そんなことはない!近づいてくれて構わない、そして構わないさ!!」

「無理なさらなくていいですよ、人間苦手なモノや怖いものありますから」

「むしろ来て欲しい!…あ、変な意味じゃなくて、き、君も、犬好きなら安心だと思って、嬉しい、そして嬉しいなと、ね」


そうか、多分女性との会話になれていないのか。と妙に納得した琉伽。
これは早々に立ち去った方が彼もありがたいだろう。それならばリードを渡して自分が去れば彼はやっと一息落ち着けるに違いない。自分も正直人間関係は苦手で、会社での電話の対応が苦手だ。
そうと分かれば何時までも世間話をしたら悪い。そう思うと琉伽はリードを手渡してベンチに置いていた荷物を持った。


「それでは失礼します。犬、気をつけてくださいね」

「え、ああ…そうだ、お礼を…」

「いいえ、別に私が捕まえたわけではないので」

「それじゃあ私の気が…済まないんだ、そう、済まないんだ」

「気にしないでください。犬に触れたので、それがお礼という事にしてください」


失礼します。と一歩踏みだそうとした瞬間だ。上着の裾と腕を掴まれた。
見れば腕は青年、裾は犬がくわえている。
犬の方はまるで「行かないで」と言わんばかりに甘えた目で見つめてくるし、青年はハッとした表情で素早く掴んでいた手を離した。


「す、すまない…。この子もまだ君と一緒にいたいみたいだから…どうだろう、犬も入れるカフェがあるんだ。そこで、お茶をご馳走させて貰えないか?」

「…え、あの」

「私はキース・グッドマンよろしく、そしてよろしく!君の名前を教えてくれないか」


犬以上に必死なそのキース・グッドマンに琉伽は思わず名乗ってしまい、カフェまで一緒に行く運びとなってしまった。