TIGER&BUNNY | ナノ
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結局は何事もない。

「率直に聞きます。姉…琉伽とはどのような関係でしょうか」

「……仕事仲間、だが」

「本当に?」

「それ以外、なにがあるんだ?」


バーナビーに呼び出され、真面目な顔で言われた言葉にアントニオは一瞬何事かと自分の耳を疑った。
琉伽本人にも聞いたバーナビーと琉伽の関係も知っていたから、バーナビーの「姉」という単語にも違和感は大きくはない。
それに琉伽とバーナビーの再会に偶然にも立ち会って、彼の琉伽に対する愛情も知っていた。所謂シスコンの気が有ることも。


「では、貴方と姉はただの仕事上でしか関係はないんですね」

「あ、ああ…」

「嘘はないですよね」

「…いったい何だ?何が聞きたいんだ」

「貴方と姉は恋人という関係ではないんですね」


あまりに単刀直入に言われて吹き出したアントニオ。
何を言い出すかと思えば、そんな事。アントニオは琉伽の事は仕事のパートナーであり、信頼のおけるエンジニアだと思っている。
そもそもそういう目で琉伽を見たことが無かった。
確かに一応は女性ではあるが、事ある事に口が悪くなり、しかも手や足がでることのある琉伽を異性として意識しろと言う方が無理があるだろう。確かに普段は人当たりのいい柔和な性格で、愛想笑いも含め笑顔はそれなりに好感がもてる。だが、やはり好感がもてる程度である。


「何を勘違いしているか知らんが、それは無い。絶対と言い切れる」

「…では、貴方は姉の思いに応えられない。と?」

「……は?」

「姉は昨日、言ったんですよ。ロックバイソンを愛している。とね」

「……」

「……」

「は?あ、あい?」

「愛してるそうですよ、どういうことか説明して欲しいのですが」

愛してる?俺を?
一瞬にして頭を駆け巡ったバーナビーの言葉。
アイしてる
Iしてる
あいしてる
アイシテル
愛してる

最後の変換にたどり着き、決定されてしまった言葉に一気に顔が赤くなるアントニオ。

それに対してバーナビーは冷静。ただアントニオを睨むように見つめで出方を伺っている。

琉伽が自分を愛してる?
そんな素振りはまったく感じたことはない。
いったい何時の間に…?
一瞬でもしおらしさを見せたことがあったか?記憶の中の琉伽はそんな素振りはない。
ならば差し入れか何かをくれたことは?ないが何時もスーツの調子を気にしてくれ、体調もよく気にしてくれていた。


「…え…えっ!?」

「姉は言ったんですよ、ロックバイソンを愛しているから会社を辞めて僕のメカニックになるのは出来ないって」

「…!」

「貴方にその意志がないのなら姉にそう言っていただけますよね。それなら姉も少しは考えてくれるでしょうから」

「…なっ、しかし、琉伽は…俺のスーツのエンジニアだから、」


どう答えたらいいのだろうか。
今は本人からではないが告白を聞いてしまったし、その琉伽がライバル会社に引き抜かれそうだ。
自分の一言で琉伽はアポロンメディアに転職してしうかもしれない。自社に大きな損害、引いては自分の活躍に影響が大きくでてしまう。
…ちがう、そうじゃない。
会社も、スーツも関係ない。
琉伽が好きとか嫌いという観点で見たことがなかった。
好きか嫌いかと聞かれたら、嫌いではなく好きだろう。
気兼ねなく色々な話ができる。
魅力も、なくはない。
小柄でも大柄でもない、程よい体つきでスタイルも悪くはない。
この前みた眼鏡姿も良かった。

そんな事が頭を巡ってグルグルとしていると、その話の中心人物の声がした気がした。


「お、またお仕事か琉伽。熱心だなぁ、おい」

「休み時間余計に取れるから出てきただけー。いやー、最近運動不足でさ」

「若いんだから動けよ」

「動く時間がないの。あ、いたいた、ロックバイソーン」

「!!!」

「姉さん…どうして」

「あれ、一緒?私は仕事の関係でロックバイソンに用事がね」


カツンカツンとヒールのある靴音が近づくが、その方向を見ることが出来ない。
そんなアントニオをバーナビーは横目でチラリとみるが至って平然としている。彼は策士なのかもしれない。こうして意識させて、それとなく拒絶をさせようとしているのかもしれないのだ。


「なんでバニーと二人?」

「バーナビーです。別にオジサンには関係ないでしょう」

「おーい、ロックバイソン?ちょっとちょっと…仕事の話があるんだけど」

「え、あ、いや…あ、あとじゃ、駄目か?」

「昼休み以内でサイン欲しいから今がいいんだけど…?なんでこっち向かないの。私も暇じゃないの知ってるでしょ?」


向かないんじゃくて、向けないんだ。心の中で叫んだが、それは琉伽に届く事はない。
どんな顔をして今琉伽と話をしたらいいのか解らない。

振り向かずにいると、それに対してイラついている琉伽の雰囲気をヒシヒシと感じる。
流石に振り向かないと不味い。
琉伽だけではく、焚き付けたバーナビーと何も知らない虎徹。
ただ自分だけが意識してまっているのが非常に浮いているのが、とても恥ずかしい。
意を決して振り向くが、その瞬間に琉伽の顔が目に入り、意識しすぎてしまい今以上に赤面してしまった。


「え、ちょ…顔赤いよ、大丈夫?風邪?自己管理ちゃんとしてよ、ヒーローでしょう」

「あ…いや、」

「おいおい、さっきまで何ともなかったのに大丈夫かよ」

「大丈夫ですよ、別に彼は体調が悪いわけじゃありませんから。そうですよね」

「…あ、ああ」

「ならいいけど。じゃあこれに目を通してサインして」


出された琉伽の手にある書類を受けようと手を伸ばすと不意に手が触れ合ってしまい、思わず手を上げてしまったアントニオ。
それを見た三人は目を丸くした。
本来ならばなんて事のない接触であり、手をあげて吃驚するほどのことは無いはずだ。
それが静電気が発生して、かなり痛かったというならある程度はわかるが静電気が発生したわけではない。


「…意識しすぎじゃありませんか?」

「う、うるさい!元はお前が…」

「?」

「なんだ?」

「ああ、この前の姉さんの言葉を伝えたんですよ」

「私なんか言った?」

「ロックバイソンを愛してる」

「なっ!マジでっ!?」

「!」

「あー、言った言った。で、なんで固まるの二人は」


あはは。と軽く笑うように答える琉伽。
それに対してアントニオは更に赤面して口をパクパクとし、虎徹は愛の告白かっ!と目を輝かせている。
しかし不満なのはバーナビーである。
やっと姉と再会して、同じ職場で働けるかもしれなかったチャンス。しかしそれを目の前の男の存在によって無にされているのだ。彼にその気がないのならば、いっそのこと姉を突き放して欲しかった。それは一般的におかしいことだとしても、だ。


「な、おま、アントニオの事そんなに…?」

「は?ロペスがどうしたの」

「え、だから、アントニオの事愛してるんだろ」

「いや、まったく」

「「「え…?」」

「だから、私はロックバイソンを愛してるの。だってロックバイソンは私の技術の結晶、我が子当然!可愛いに決まってるじゃない?」

「…俺、じゃ、な…い?」

「冗談でしょ」


まあ、もしロックバイソンの中身がもっと若くて細身の良い男だったら好きになっちゃうかもね。
と悪びれる様子もなく明るく笑う琉伽に、なら僕が中に入りますよ、むしろ姉さんが僕のエンジニアになってくれたらいいんですけどね。とこれまで以上の笑顔のバーナビー。
一方被害者のアントニオは頭が混乱しているのは言うまでもない。
琉伽は別に自分の事など愛していないどころか好きでもない?むしろどうでもいいのか?大切なのはロックバイソンというキャラクターとスーツ?中身は二の次…?なら今までの自分の行動はいったい…?


「ああ、もしかしてそれで無駄に私を意識し過ぎた行動?」

「意外と若いですね」

「若いねー」

「いや、お前ら二人がアントニオを若いとか言うなよ…」

「いやーもう私若くないよ」

「おま…琉伽いったい何歳だよ」

「30越えたら数えるのやめたからわからん」


女に歳聞かないでよね。と自虐的に笑う琉伽にベテラン二人は固まった。
元々アントニオは違う意味で固まっていたが、今回は琉伽の発言で二重に固まってしまっている。
30?越えたら?ということは30歳以上?それに数えるのを辞めたということは、それから何年か経っているということだ。

今目の前にいる女はどう見ても20代、それにバーナビーと並んでみても少し上?という位にしか見えない。
しかし、よくよく考えてみれば付き合いは10年にも満たないが、それに近い。
16で就職、もしくはアルバイトで入ったとしても20代。しかし、アルバイトがそう易々とエンジニア職につけるものだろうか。


「…え、さ、30過ぎてんの?」

「まあね。最近徹夜がキツくてさ、若い頃は3日くらい寝なくてもなんとかイケたんだけど今は無理だね」

「どんだけハードな生活してたんですか…やっぱり一緒に」

「それだけ苦労したロックバイソンというキャラクターを手放せないから無理。私の血と涙の結晶!」

「…ところで、バニーと琉伽、何歳差?」

「デリカシーがありませんねオジサン。女性に歳を聞くのは本来タブーのはずですが?」

「まー、恥じらうような間柄じゃないからヒント。13歳。もろに正解だからヒントじゃないけど」


単純計算である。バーナビーの誕生日だと、ついこの前大騒ぎをしたのは記憶に新しい。
よくよく考え、バーナビーにその数字を足して考える。

そして目の前の女性を見るが、見た目年齢と実年齢と思わしき年齢が全くと言って良いほど結び付かない。
目の前の琉伽はどこからどう見ても20代。よっぽと大きく歳をいわなければ30代だとは思えないし、40代に近いなどとは誰が思えようか。
むしろ自分達より年上なんて有り得ない。騙しているんだよな?と声をあげて笑ったら「実は冗談なんだ!」とタネあかしをしてくれるのではと思ってしまう。


「う、嘘だぁ…なあ、アントニオ?」

「年上をからかうなよ…琉伽。どう見てもお前20代だろ…」

「本当?まだ20代に見える?嬉しいなー、もう」

「姉さんはいつでも若々しいですよ、それこそ昔と変わらないですし」

「オバサンで彼氏も居ない仕事だけが生きがいだけどね。もう仕事が恋人でいいよ」


…どうやら嘘ではなく本当らしい。
本当なのか?本当に同世代なのか?
確かに何度か説教された記憶はある。あの時は年下の癖に腹が立ったが正論で反論出来なかった。
また違う時もまるで年上の様な態度で接された事もあった。
琉伽の歳を聞いたことはなかったが、琉伽はアントニオの歳は知っている。何故なら琉伽はスーツのエンジニアでありアントニオのプロフィールも仕事の上で重要になってくるからだ。
だから琉伽が一方的に年齢を知っていても不思議ではないし、それを知った上での対応だとというのも納得できる。


「ま、マジで同世代かよ…」

「日本人て若く見られるから得だよねー。これなら若くて良い男と結婚できるかな」

「まず僕が認めないと」

「それバニー関係ないだろ…」


もう全てにおいて回路が停止寸前のアントニオには何が真実で何が嘘かが解らなくなっていた。
言ってしまえば全てが真実で事実、何も嘘はないのだが、一回上がってしまった感情と勘違いは何処にぶつけることも発散できずにくすぶり続けるのは明白である。


「あ、早くサインしてね。仕事詰まってんだから」

「……ああ、サインしたらいいんだよな。サインな」

「なんで涙目?」


もう傷えぐるなよ。と虎徹が呟いた言葉は琉伽の耳に入ることなくジムの雑音に消えた。