TIGER&BUNNY | ナノ
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打ち明ける≒信頼≒付き合いの長さ

「おーい、琉伽…な、どうした」

「やあロペス…私の平穏返せよヒーロー」

「…弟、か?」

「うふ、うふふふふ…」


泣いてもいいかな。と遠い目をする白衣を着、眼鏡を掛けた琉伽。

先日渡された報告書と要望の件で開発部にきたアントニオ。
その開発部では少しやつれた琉伽を中心に仕事をしている。


「…眼鏡?」

「ああ、ちょっと視力がね。あ、報告書の件?」

「おう」

「はいはい、じゃこっちね。みんな、ちょっと席外すけど続けて」


はい。と声を揃える琉伽の部下達。
琉伽も優秀なら部下も優秀である。簡単な指示を出すと各々作業に取りかかり始めた。


「優秀だな」

「私の部下だからね」

「弟に悩まされる上司だけどな」

「黙れ牛」



急に声が零度に変わる琉伽だが、それはいつもの事なのでアントニオをはじめ誰も気にしてはいない。
研究室の一室に通されて向かい合うように座るとパソコンの画面に現在のロックバイソンのスーツの図解が現れた。
それは渡された報告書と同じであり、要望書までもセットにされているものである。


「えーと、で、どうでした」

「そうだな、報告書は問題ない。不調もないしな」

「でてからじゃ困るのよ、不調。仕事してないみたいじゃない」

「確かにな」

「要望はないの?」

「今のままで問題ない。不自由も不便もない」

「動きにくくない?」

「大丈夫だ」

「実は膝の稼動部ちょっとキツくし過ぎたけど問題なしか」

「なにっそれ本当か?」

「嘘」

「……」


平然と何の特にもならない嘘をついてはその反応を見る琉伽にも慣れたものだ。
確か最初の頃は真面目な顔をしてサラリと嘘をつき、その直後にバラす変な女だと思っていたのも確かだが、今は素晴らしい技術者でありヒーロー・ロックバイソンの影の相棒である。


「…そういえば、琉伽と一緒に仕事してどのくらいだ?」

「さあ?考えたことないから分からない」

「10年までは…ならないか」

「どうだろうね。あ、電流の事も要望に入れなきゃ」

「入れるな、んなもんいらねえよ」


ムッとしか顔で、しかも本人を目の前に舌打ちをする琉伽。
正直、こんな人間が自分のスーツ開発のチーフでいいのかと思うことは何度もある。
しかし琉伽は優秀であり、人格に問題があるというわけでもないので信頼がある。
実際部下に慕われているし、仕事の態度も真面目、ヒーロー事業部の上司からもウケはいい。
長い間つき合いがあるから出来る態度であり、それだけ琉伽はアントニオを信頼しているのだ。


「なあ、バーナビーの事…聞いていいか?」

「嫌だって言ってもどうせ聞くんでしょ。聞いてもいいけど、私上に出す報告書の作業しながらでもいいなら」


小さく聞こえるキーボードを叩く音、向かう目線は画面。画面には文字が流れるように打ち込まれていく。
そういえば琉伽と話をするときは大抵琉伽は「ながら作業」をしている。

恐らく彼女は自分以上に忙しいのかもしれない。


「なんで会ってなかった」

「言ったとおり。それに私を守るため。周りには遺産目当てとか言われるのが嫌だった」

「べつに突き放すようにしなくても良かったんじゃないか?」

「そればあの子を守るため。あの子がよくても周りは良くないでしょう」

「仕事の事は」

「…私、ロボットが好きで勉強して成績よくて。それがブルックスさんの目に留まったのよ。私の家貧乏だったから勉強したくても良い学校行けなくて、それで養子の話きてさ、乗ったわけ」

「本当の家族は」

「血縁関係がある方は知らない。元々好きじゃなかったし。私にしたらブルックス家が本当かもね」

「本当の家族だったらそんな突き放すなよ、弟可哀想だろ…」

「…大切だから、大好きだから離れた」


ピタリと止まったキーを叩く音。
見ると少し悲しそうにして手元を見る琉伽がいる。


「あの子がね、大きくなるにつれて私がいたらいけないと思った。私がこの仕事してるのも教えたら、自分もヒーローになるって言いそうで怖かった。実際ヒーローになっちゃったけど。私がいようがいまいがヒーローになって、再会しちゃった」

「…ヒーローになって欲しくなかったのか?」


小さく左右に揺れる頭。
そして暫くの沈黙にアントニオは戸惑った。
もしや触れてはいけない話題だったのか、心の傷というやつか。


「あの子、正義に憧れてるんじゃない。復讐の為にヒーローになってる」

「…は?」

「これ以上は言わない。これ以上は、あの子の問題でもあるから」


これ以上は言わないで、お願い。と小さな声で琉伽は黙った。
琉伽にどんな過去があるかはアントニオは知らないし、聞いたとしても琉伽は教えてくれないだろう。
今の話の雰囲気を感じるに良いものではなさそうだ。
それにそこまで首を突っ込む程アントニオも子供ではないし、琉伽も全てを拒絶するほど子供でもない。

その沈黙の中、いつの間にやらまたキーを叩く音が復活している。
どうやら琉伽はそれだけ大人なようだ。


「よし、完成」

「お疲れさん」

「プリントアウトするから、直筆サインで本当の完成。………はい、サインサイン」

「ああ…ん?おい、電流いらないって言っただろ!」

「…ちっ」


体に良い電流なのに!
と吐いて捨てるように言った琉伽の目が怖いほど本気だったのは言うまでもない。