TIGER&BUNNY | ナノ
sister complex??
重い重い空気である。
これは誰がどう見ても昼食を取る雰囲気ではない。
四人が座るテーブル席だけが賑やかなお店で浮いている。
「…で、バニーと琉伽は姉弟なわけ?」
「血は繋がってないけど、ね」
「姉さんは養子なんですよ」
「しかしなんで琉伽はバーナビー避けてたんだ?それに琉伽がウチに勤めてるのも知らないのは…オカシイだろ」
アントニオが疑問に思っているのは当然であり、勿論虎徹も同様に思っている。
琉伽がバーナビーを嫌って避けている様には見えないし、バーナビーも琉伽を嫌っている様子でもない。
むしろバーナビーは琉伽を慕っている様にも見えた。
それは琉伽も同様で、ただロックバイソンの所属する会社に勤めているのをバレるのが嫌な様にも見えたが、普段の仕事の様子ではそんなことは見受けられない。
「…で、なんで仕事の事黙ってたんですか」
「あ、いや…うん。黙ってたつもりはないんだけど、結果的に黙ってたっていうか、聞かれなかったから言わなかった…か、な?」
「聞きましたけど」
「あ、あれー?そうだっけ?」
「鬼チーフとハンサムな弟にゃタジタジだな」
「仕事の鬼と異名を持つ琉伽も良い男には弱いんだよ、解ってねえなアントニオ」
いつもの琉伽であれば黙れと言わんばかりにスネに蹴りを一発入れるところではあるが、今はそれどころではない。今はいかにバーナビーの会話を避けるかが優先なのである。
そんな琉伽を見てニヤニヤするベテラン二人。
それとは対照的にバーナビーは問い詰める様に言葉を切らすことはなく、琉伽も元気がない。
「…どうして、10年近く会ってくれなかったんですか」
「養子の私がいつまでもバーナビーと関わってるの周りがさ…」
「養子であっても姉さんはブルックス家の人間でしょう」
「…それはバーナビーからみたらね。世間様はそんな風には見てくれないの」
「……なんか難しい話してるな」
「仕方ないだろ、複雑みたいだしな」
話し込む二人の食事はあまり変化はないが、外野の二人はもうそろそろ終わってしまう。
二人からしたら食事なんだし楽しくしたいところだが、バーナビーにはそんな余裕はないのだろう。
何せ10年振りに再会と言っていたし、勤め先が分かったと言っても言わばライバル会社で会うのも思うようにいかない。
それに忙しい琉伽だ。その忙しさにかこつけて会うのを拒む可能性さえ有る。
「…で、エンジニアしてるそうですね」
「…うん」
「ロボット工学を元に?僕がヒーローやってるのも勿論知ってますよね、連絡しましたから当然」
「……テレビで活躍しているのを見せていただいてます」
「それなのに連絡なしですか」
「誕生日にメールしたし手紙も送ったしプレゼントも贈りました。それ以外にも学生の時は学年あがる度にお祝い贈りました」
「そんなこと言ってるんじゃありません」
こうなってくると、どっちが年上なのかとさえ思えてくる。
虎徹は普段の琉伽の仕事姿を知らないが、アントニオは知っている。
琉伽は鬼と言われる程仕事には厳しく、何度も叱られた経験がある。
その琉伽がどうも言い訳がましくしているのが何から面白い。
「僕がどんな思いでいたかわかりますか…」
「………」
「いきなり姉さんが会ってくれなくなって、電話掛けても留守番電話、会いに行っても会ってくれないし、勤め先も教えてくれない」
「酷えな琉伽。お前ホントに姉貴かよ」
「うっさい鏑木!」
「姉さんの事酷く言うのやめてもらえますかオジサン」
「…えええ」
虎徹としてはバーナビーを哀れんだ一言だったのたが、バーナビーは気に食わなかったようでギロリと睨まれてしまった。
確かに聞いた話では琉伽は酷い姉ではあるがバーナビーにとっては大切な姉なのだろう。
だからこそ再会して罵倒せず、こうも落ち着いて理由を聞いているのだ。
「会わなくなったのはバーナビーが思春期になったから。血の繋がらない姉がコンプレックスにならないように。仕事の事を話さなかったのは…話したくなかったから」
「…ならもういいですよね姉さん。僕は思春期じゃないし、なにより姉さんはコンプレックスなんかじゃない。仕事もわかったわけですし、もう僕を避ける理由はありませんね」
「…なあ、おい。お前の相棒シスコンなのか?」
「知らねえよ」
ベテラン二人とは違う理由で琉伽も大きな溜息をついた。