TIGER&BUNNY | ナノ
それでも君に会いたい
「遅い」
「すまない…これでも急いだんだ」
カフェのテラスで一人読書をしていた女性に青年が急いだ様子で姿を現した。
青年は時間に遅れたことを詫びるが、その詫びられている方は目線を上げることもなく読書をしながら言葉を返しす。
「良いご身分ね、自分から誘っておいて堂々遅刻なんて」
「…前回の埋め合わせをしたかったんだ」
「前回も前々回も、もうかなり前からドタキャンが続いてたからね。まだ付き合って貰ってるだけ有り難く思ってよね」
「…すまない、そしてすまない」
「スカイハイの真似?やめてよキース」
未だに目も合わせてくれない琉伽にキースはどうしてみようもなくて、ただ肩を落とした。
琉伽はキースがキング・オブ・ヒーローのスカイハイだとは知らない。
それ故にキースが約束に遅れる理由は急な仕事となり、琉伽が納得してはくれない。
最初の1、2回程度であれば「仕事だもの、仕方ない」と笑っていてくれたが、それがもう数え切れない程。
琉伽に寂しい思いをさせているという負い目もあって、キース自ら誘ったのだ。
「いつまで突っ立ってるつもり?さっさと座ったら」
「あ、ああ…」
「……」
「怒っている…よな」
「怒らない人がいるなら会ってみたいものね。小一時間は待ちぼうけだもの。お陰で二杯目のコーヒーが冷めた」
「注文しよう、か?」
「結構です」
「…そうか」
元より柔和で温厚とは言えない琉伽の性格で、お世辞にも可愛い性格とはいえない。
誰かに甘える事もなければ、優しい言葉をかけることも少ない。
それに対してキース・グッドマンは性格も温厚で優しく、好青年である。
何故そんな二人が一緒の席にいるかと言えば簡単である。
彼キースが琉伽に好意を持ち、琉伽が受け入れたという簡単な事。
最初琉伽にしてみたら馬鹿にされているか、何かの罰ゲームでこんな事をやらされているのかと思ったがどうやら違うらしい。
何故なら二人に共通の友人らしい友人はいないのだ。
「…遅れてすまない」
「いつもの事でしょ」
「どこか、出掛けない…か?」
「もう外でしょ」
「…ここから」
「気が散るから静かにして」
「あ…」
目さえも合わせて貰えない。
しゅんと肩を落とし、体格の良い筋肉質な身体が見る見る間に小さくなってしまった。
俯いた顔から本に視線を落とす琉伽をチラリと伺い見るが、琉伽の表情は何一つ変わらない。
いつもの様に、冷静で、まるで自分の存在なんて気にも留めてくれない顔。そんな顔で手元の本を読んでいる。
「…幻滅した、かい?」
「…何に対して」
「約束を、守れないところ…とか」
「別に」
「…本当、かい?」
「最初から期待してないから」
「……そうか」
でも、君は待っていてくれたじゃないか。
そう言葉を出せたらいいのに。
キースは思うが言葉に出来ない。
何故なら、その言葉で琉伽との関係が壊れてしまいそうだから。
その些細な言葉で琉伽は多分、「さようなら」といってしまいそうな気がしてしまうのだ。
しばらくの沈黙。
周りにはカフェでの時間を各々で楽しむ人々の音と、キースには琉伽のめくるページの音、そして時折聞こえるカップとソーサーとの接触音。
それを切り裂いたのはキースの腕にあるブレスレットが、やっと作れた時間に終わりを告げてしまった。
「…あ、」
「お呼びね、行かないの?」
「しかし、いや…」
「行きなさいよ、仕事でしょ」
「……じゃあ、これはお詫びに私が持つよ」
「どーも」
伝票を持ち上げて、一言「この埋め合わせは、必ず。約束しょう、そして、約束だ」と悲しそうに精一杯笑って店から姿を消したキース。
その彼が居なくなったのを確認した琉伽はようやく本から目線をあげて、彼が出て行った店のドアを見た。
「…ばーか。そんないつ実行できるか分からない約束するな」
それでも君に会いたい
(頑張れよヒーロー)
(隠しててもバレてるんだよ、)
(ごめんね、そして、ごめんなさい)