TIGER&BUNNY | ナノ
変化する関係
「……」
「……」
「お花、どうも」
「目に余っただけです」
本当に彼はいったい何がしたいのか。
琉伽が礼を言えば「別に」と言われ、腹立たしいというよりも呆れる他ない。
何か話があるのかと思って黙っていれば、それに便乗するように沈黙を守る。
「あの、」
「…なんです」
「御用件は」
「……」
「用事があるから、来たんじゃないんですか?それとも私に気を使わせるだけ使わせて満足なんですか?」
「気、使ってるんですか?」
「それなりに」
目をそらしたままいたバーナビーはやっと琉伽と目線を合わせた。
その事で琉伽は少し息を止めてしまう。
いつも…といってもバーナビーがヒーローをやり始めてからだが、こんな不甲斐ない顔をしているのを見たことがないからだ。
いつも自信があって、軽く見下したような事を言っていた印象があった彼に、琉伽は何故か萎縮してしまったのだ。
それはとても、申し訳なさそうに。そして深く後悔しているように見えたからだ。
「…な、なんて顔してるんですか。実名と素顔晒してヒーローしてるくせに」
「実名と素顔晒してたら、こんな顔していけませんか…?」
「だ、駄目ですよ。ヒーローはいつでも、ヒーローじゃないと。それが実名も、顔も晒したヒーローの務め、だと、私思うので」
「じゃあ、僕にそんな顔をさせるヒーローはどうなんです」
「私はそんな顔をさせる要因に思い当たりません」
「……っ」
「だ、か、ら。そんな顔しないでよ、お兄ちゃんなんでしょっ」
“お兄ちゃん”という言葉に反応したのか、目を見開くバーナビー。
そして溜め息をもらす琉伽。
そうか。と琉伽はなんとなく理解したのだ。
バーナビーはただ単に琉伽の事が心配なだけなのだ。と。
しかし彼はどうしたらいいのかも解らず、ただ“居る”のだ。
琉伽を気遣うにも、どうしたらいいか解らない。
優しい言葉は掛けたらいいのか、優しい言葉とは何か。
そんな事を悩み、そしてどう表現したらいいのか解らず、そばにいるだけ。しかも要らない言葉を琉伽に返すしか出来なかった。
「あーあー、馬っ鹿みたい私」
「…なにが」
「思い出さないようにとか、忘れたフリしてた事。違う形だったら良かったんだけどなあ」
「違う、かたち?」
「そ、どっちかがヒーローでどっちかが一般人。それならもっと、もっと嬉しかった」
そう思わない?パニャ。と昔と変わらず、そしていつもバーナビーに向ける一線を置く仕草がない琉伽。
敬語も、拒絶の空気も。