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対峙は突然に


「逃げてばかりは得策じゃあ、ないよね、私」

「大きな独り言ですね」

「うおぅ!出たなバーナビー・ブルックスJr!今日はお前に一言物申す!」


心の準備中、不意に後ろから声をかけられ、しかも当人だったのだ。
その事に驚いた琉伽は勢いのみでバーナビーを指差し、啖呵を切ってしまった。


「…ここで?」

「え、あ…ここ以外で」

「では夕食を一緒にいかがです?」

「奢りなら」

「……いいですよ、こっちからそう話をふりましたから」


では。と思っていた以上にすんなりと了承、しかも想定外に夕食にタダでありつける運びになった。
しかしもっと重い運びになると思っていたので、なんだか脱力感してしまった。






















「か、金持ち…め」

「文句あるなら食べなければいいでしょ」

「いや、いただきます」


庶民派の琉伽はこんな有名レストラン、しかも個室だなんて入ったことは…あったにはあっが、それは英雄名としてであり、琉伽個人ではない。

しかもバーナビーは紳士らしくエスコートまでしてくれた。
最初に普段着の自分が入って良いものかと心配したが、すんなりと通してくれた。
どうやらバーナビーが店側に交渉してくれた様で、琉伽はなんだか申し訳なくなってしまった。
自分から話があると言ったのに。


「で、話とは」

「……私、今まであの事件の事忘れてたフリしてきた」

「僕はずっと覚えてました」

「どうしてかわかる?」

「いいえ」

「母さん女優で、私はnext。あの日の原因は私じゃないかって、日本で話題になったんだよね」

「な!」


コンコンとノックがタイミングよく響き、料理が運ばれてきた。
それを無言に見詰める琉伽と、その琉伽をなんとも泣きそうな顔で見詰めるバーナビー。
綺麗な料理が並べられ、暫くの沈黙。
二人は料理に手を付けようとはしない。


「……何故?あれは、犯人が、男が」

「うん、そう。でもね、そもそも日本はここみたいにnextに柔軟じゃないんだ。異端なんだよ、nextって。それに世界的な女優の娘がnext、いいネタだと思わない?」

「思いません!なんで…?どうして…」

「…いいネタだったんじゃないかな、ちゃんとあっちの警察の調査報告は日本でも報告あったよ。でも」

「でもじゃありません!それじゃあ…貴女、琉伽が!!」


ガチャンと食器が音を立てる。
震えるバーナビーの拳がテーブルを叩いたのだ。
憤るバーナビーとは対照的に琉伽は落ち着いている。


「三流の、ゴシップがねー。人の不幸は密の味ってやつよ。嫌になるわー。お陰で私は失語症」

「…っ、琉伽」

「そんな泣きそうな顔しないでよ、お兄さんでしょバーナビーは」


そう笑う琉伽はいつもの明るい顔ではない。
笑顔と恐怖とほんの少しの不安が入り混じって、目には涙が見えた。