TIGER&BUNNY | ナノ
触ってほしくないモノ
「気分が悪いので帰ります。皆さん、さようなら」
そう琉伽は言い放つと、タオルを掴んで足早にその場を後にした。
「あら?琉伽どうしたの?」
「いや…気分が悪いとか言ってたけど…ありゃあバニーちゃんが悪そうだな」
「やだ、なにしたの?」
たまたま近くにいたネイサンが何事かと近づき、去っていく琉伽の後ろ姿を眺めて聞いてきた。
琉伽は基本的に明るい女性であり、とりわけカリーナとネイサンとは気が合うのか仲がいい。
チョッカイを出されるが、お互いに楽しんでいて嫌がる素振りもなく楽しそうにしている光景は見慣れている。
「琉伽にちょっとチョッカイだしたのがマズったんじゃねえ?」
「チョッカイ出してません。オジサンじゃあるまいし。純粋に心配しただけです」
「心配?ああ、琉伽倒れちゃったんだっけ…無理してたのかしらね」
「いや、いきなり兄貴面したのが駄目なんじゃねえか?」
「いきなりじゃないですよ」
「え?何?兄貴?」
どういう経緯があったのかを簡単に説明するとネイサンは「ああ」と納得した様子だ。
ネイサンは先日虎徹からの依頼というわけではないが、バーナビーの過去について調べた。
そのとき出てきた友人夫婦が思い当たったのだ。
「早乙女夫婦の娘の琉伽と貴方が此処で出逢った奇跡。というところかしら」
「あ?」
「ほら、この前の。イケメンの過去バナよ。あの時には関係なかったから言わなかったけど…早乙女って女優知ってるでしょ?」
「ああ、有名だった、あの。俺もファンだったからな!」
「…僕の、両親の友人だったんですよ」
「琉伽の両親とイケメンの両親は友人で、親交がよくあったみたいでね。事件の日も一緒だったの」
「…!」
「言わば彼女の両親は巻き込まれたんですよ」
もちろん両親が親交があれば必然的に子供であったバーナビーと琉伽も関係はあったはずだ。
理解できないのは琉伽の態度。
まるで関わって欲しくないかのようにバーナビーを遠ざけていた。
「琉伽は…それ、知ってんだよ、な?」
「ええ、この前話しましたから」
「…琉伽、イケメンの事覚えてなかったの?」
「なんせ20年も前のことです。子供が大人になるまで十分過ぎます、顔が変わって解らなくなっていて当然でしょう?僕は解りましたけど」
普段の琉伽からしたら、昔の知り合いだったバーナビーを知ったら喜ぶのだろうが、現に琉伽はそうではなかった。
寧ろ関わってほしくないかのような態度。
恐怖、不安、拒絶。どの言葉も当てはまるような態度。
まるで昔の思い出が恐ろしいかのように。