TIGER&BUNNY | ナノ
不安な事は
「昨日はご迷惑をおかけしまして、すみませんでした…」
「体調悪かったなら救急車のお世話になればよかったのを、もしかして謝ってるんですか?」
「…はい」
トーレーニングルームでバーナビーの姿を見つけると琉伽は小走りに近づき、迷惑をかけたことを詫びると案の定の嫌み。
正直バーナビーは苦手だが、迷惑をかけた自覚と申し訳なかった思いがある琉伽は礼を述べた。
「体調、もういいんですか?昨日の今日ですし」
「あ、はい。ちょっと精神的にあの変態につつかれまして」
「…精神的に?」
「両親の、事故、の事とか。あと、私の本名…英雄名ではなく琉伽・早乙女の名前を知ってました…」
「!」
「もう、あの時軽いパニックで…どうして私の名前知ってるのかとか、どうして…私の両親の事…どんな仕事してた、とか、事件に巻き込まれたとか……」
段々と小さくなる琉伽の声。
そして最後には「すみません、私的な事…余計でしたね」と足元を睨んでいるかのように俯いてしまった。
「…ご両親の、何を言ったんですか?奴は」
「え…と、私の母親、女優だったこととか…父親は、普通の人だった、とか…両親は……友人夫婦の事件に巻き込まれた…と、か…」
パタパタと何かが落ちたのをバーナビーは目にした。
それは空から落ちる雨粒のようで、しかしここは室内だから雨は降らない。
ならば琉伽の顔から汗が流れたのか。答えは否。
琉伽は目から小さな涙を流し続けて言葉を繋げていたのだ。
「どうして…なんで、アイツ、そんな事知って…の?両親、事…」
「………」
「私…ずっと、ずっと…思い出さないように…して、たのに」
ここかトーレーニングルームだということを思い出したのか琉伽は必死に涙を止めようとしている。
しかし一度堰を切ってしまった涙は思うように止まりそうにない。
ただ琉伽の中にあった不安と混乱が今吹き出しているかのように止めどない。
「ごめん、なさい…すみません」
「僕も、両親をある事件で亡くしました」
「……」
「そして、両親は友人夫婦を巻き込んでしまった」
「……」
「その時、その友人夫婦には僕と同じくらいの娘さんがいました」
「…?」
「わかりませんか?」
「…同じ境遇?」
溜め息をついて、呆れたように琉伽を見るバーナビー。
それに琉伽は益々頭を傾げる。もう泣いていたことは忘れたが、嗚咽はまだ少し出ている。
「ブルックスの名前に覚えは?」
「バーナビーさんのファミリーネーム。それ以外には…」
「貴女ねえ…ご両親泣きますよ」
「両親関係ないと思いますけど」
「ありますよ。自分の娘が事件の事知らないのは」
ぐっ、と縮こまる琉伽。
確かに自身の事件を知らないのは娘としてどうだろうか。
そこには理由はある。
琉伽自身が幼すぎたこと。
事件後直ぐに日本に戻り、日本での報道では両親の名前は出たが、友人夫婦の名前は大きな報道は無かったこと。
そして事件も娘である琉伽がnextであり、事件を起こしたのが琉伽ではないかとまくし立てられたこと。
実際に事件には犯人がおり、琉伽も被害者ではある。
ただ異端を良しとしない風潮によって流れたデマ。
「確か…その女の子、僕の名前言えなくてパニィって呼んでました。流石にもうお分かりでしょう」
そして琉伽は見た夢といい、タイミングが良すぎて目が点になってしまった。