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 そこからここまでの距離

「荒北くん」
「あ、朱堂ちゃん」

大学のレースも何回目だろう。その度に東京に進学した福ちゃんと新開と朱堂ちゃんとは顔を合わせているから、あまり久しぶりという気持ちにはならない。高校の時にくらべたら久しぶりになるんだけど。

「福ちゃんの優勝だったネ」
「うちのエースですからね!」

レースの表彰の準備の時間。それは基本的に自由だ。表彰に上がらない選手は着替えたり、自転車を車に積み込んだり。
朱堂ちゃんの大学は洋南よりも自転車競技に力を入れているからか、マネージャーは朱堂ちゃん以外にも何人かいるらしい。というか、新開と福ちゃんの彼女もマネージャーだと朱堂ちゃんが電話で言っていた。
色々やりにくくない?と聞いたら「そんなことないよ、楽しい」と言っていたのでそれ以上言う事はない。高校時代は男子ばっかりだったから嬉しいんだと思う。

「靖友!」
「よう新開。お前彼女出来たんだってェ?」
「おう、朱堂から聞いたのか?」
「逐一荒北くんに報告してるよ!福富くんだって報告したし」
「仲良いな、おめさんたち」
「オレと朱堂ちゃん仲良しだもんねぇ」
「超仲良しですからねぇ」

オレの口調のマネをして朱堂ちゃんの肩を抱き寄せると、朱堂ちゃんも朱堂ちゃんでオレの腰に手をまわす。高校の頃じゃできなかったし、しようとも思わなかった行動だ。現に新開が驚いている。
高校の時から朱堂ちゃんとは仲良かったけど、言っちゃあアレだが、こういう関係じゃなかった。

「荒北くん腰細い…」
「そお?」
「荒北…どうしたんだ?」
「あ、福ちゃん優勝オメデト」
「ねえ福富くん、荒北くんの腰が驚くほど細い」

こんなだよ。と朱堂ちゃんがオレの腰の細さを自分の手で表現する。すると福ちゃんは福ちゃんで「確かに細いな、飯はちゃんと食べているのか荒北」といらない心配してくる。福ちゃんは真面目だけど、過ぎるのが玉にキズだと思う。

「そういえば福ちゃんも彼女出来たんだってネ」
「ああ、よく知っているな」
「朱堂が報告してるんだってさ。オレのも知ってた」
「そうか。朱堂は相変わらず荒北と仲が良いな」
「それがね、そうでもないんだよ」
「え、さっき仲良しって言ってたのに?」

新開が頭を傾げるが、言っておくと可愛くはない。女から見れば「可愛い」と言われるのかもしれないが、オレから見てもまったくもって可愛くなんて微塵もない。
まあ、今そんなことは関係ないからいいんだけど。
朱堂ちゃんがちょっと伺う様にオレを見るので、「んじゃ」とこっちも返事をする。返事と言っても、まあ簡単に言えばこっちも報告ってやつだ。

「オレと朱堂ちゃん、付き合ってんの」
「………え?」
「…冗談か?」
「え、酷いな二人とも…」

まさかオレと朱堂ちゃんが付き合うとか思ってなかったんだろうな。オレだって今でもビックリしてるくらいだし。
朱堂ちゃんは贔屓目なしに可愛いとかキレイっていう部類の子、それに対してオレはまあブサイクって言われる部類の顔つき。それは自分だってわかってるし、それに対してもうあきらめているわけだ。別にモテる顔になりたいってわけでもないから、諦めるってのも変な話だけどよ。

「朱堂と靖友も冗談言うんだな」
「冗談じゃないよ、本当だよ」
「ほぼ同時期に付き合ったというのが面白くなかったのか?朱堂…」
「人の恋路をどうこういう趣味はないから安心して」
「むしろ朱堂ちゃん喜んでたヨ…福ちゃん」
「というかね、どうして私と荒北くんが付き合ってるのが冗談なの」

どうして嘘言わないとなの。と朱堂ちゃんはムッとしている。
朱堂ちゃんは今まで、多分そういう関係の冗談言った事ないし、オレもない。
それなのにどうしてそんな言われようなのか。思い当たるところはない。
確かに立て続け…って言っていいのかわからないけど二人は付き合い始めて、朱堂ちゃんは「おめでたいけど、なんか寂しい気もする」と言っていた。だからってそんな悪趣味な事は……しないよ、ね?
というか朱堂ちゃんは、んな事しない。

「…こうなったら、荒北くん」
「ん?なによ朱堂ちゃん」

手招きして耳を貸せと言わんばかりのポーズをする。
少し屈んで朱堂ちゃんの口がオレの耳付近になる様にする。肩に朱堂ちゃんの手が乗ると、朱堂ちゃんの体温がそのまま感じることになって、なんだかくすぐったいような、どうもソワソワするというか。
朱堂ちゃんは何を言うのかと思っていると、頬にフニっとした感触。ついでに軽い音がした。

「…え?」
「こ、これでどうだ!」
「……ヒュウ、朱堂、大胆だな…」
「……。」
「………朱堂チャン?」
「い、今の…なし…に、されても…こまる……」

あまりの恥ずかしさにしゃがみこんで、ここから見える朱堂ちゃんの耳は真っ赤で、なんとか今朱堂ちゃんにされた事を思い出してこっちまで赤くなった。



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