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 鬼使いと言われそう

「姉さん!」

いつもとは違う新開さんの声色に少しだけ驚いた。
ちょっとだけ甘えた様な、でも凛々しい。だけど少し恰好を付けたような、そんな声色。
新開さんが見ている方向を同じく見てみると、こちらを見て小さく手を振っている人がいる。それが今新開さんが言った「姉さん」なんだと思った。

「ちょっとごめんな、泉田」
「え、ああ…はい」

IH前のミーティングは終わっているし、ただ新開さんと同じスプリンターとしての話をしていた。尊敬している新開さんと走れる最後のIH、今年は地元開催と言う事で優勝は譲れない。
新開さんは僕に謝ってからその人にところまで走って行って、そして見た事のないような笑顔で話している。
そんな親しそうに、そして嬉しそうに話している姿をなんとなく見ていると、新開さんが僕に来るようにと手招きをしている。

「…はい、なんでしょうか」
「泉田、オレの姉さん」
「こんにちは、新開奏です」
「泉田塔一郎です、新開さんにはお世話になってます」
「隼人もちゃんと先輩できてるのね、安心した」

泉田くん、隼人の後輩大変でしょ?
逆にお世話になってるんじゃないの?
と、新開さんのお姉さん、奏さんは酷く心配している。むしろお世話になっているのは僕の方です、凄くお世話になっていて…と焦ると奏さんは優しく笑って「ありがとう」とお礼を言われた。

「姉さんが来てくれるとは思ってなかったら凄く嬉しいよ」
「だって隼人の最後のIHだもの。頑張ってバイト休んできちゃった」
「姉さん大好き」
「隼人、泉田くんが困ってるからやめようね」
「あ、いえ…仲が良いんですね」
「あともう一人弟がいるけど、こんな感じでちょっと困ってるの」

もう小さい子供じゃないんだから止めてほしいのよ。と笑う奏さんに対して、新開さんは凄くショックを受けた顔をしている。
ここまで来ると、もう聞かなくてもわかるけど。
新開さんはどうやら重度のシスコンらしい。
姉と弟という関係を知らなければ普通に付き合っている人同士。新開さんからのスキンシップが結構激しいようにも見える。奏さんの腰に手をまわしたり、ハグ、手を繋ぐをひっきりなしに繰り返すようにしている。

「姉さんは…オレが嫌い?」
「大人になってほしいだけだよ」
「オレより悠人が好きなの?」
「同じくらい好き」
「オレは姉さんが一番なのに」
「あ、寿一くん。おーい」

まるっと新開さんを無視し始めた奏さん。福富さんとも知り合いらしく、福富さんの姿を見つけて声をかけている。それに気づいた福富さんは新開さんの姿を見て少しギョッとしながらもこちらに来てくれた。

「お久しぶりです、奏さん」
「うん、久しぶりだね寿一くん。元気だった?」
「はい」
「寿一、オレは姉さんが一番なのに姉さんはそうじゃないっていうんだ…」
「………大学の生活はどうですか?」
「うーん、大変かな。でも少しなれて、今はバイトも始めたよ」

奏さんを後ろから抱きしめて、メソメソとしている新開さん。福富さんは少し考えて奏さんと同じで無視を決め込んだらしい。
後ろから「姉さん、姉さん…」と呟いているけど、二人はまるで聞こえていないかのようにしている。というか聞いていない。

「今日はね、地元開催だからバイト休んで帰ってきたの。応援してるからね、寿一くん」
「オレは!?」
「隼人も応援してるよ。泉田くんも」
「…ありがとございます」
「新開、そろそろ離れろ。部員が困惑している」
「だって久しぶりの姉さんなんだぞ!」
「隼人、暑いよ。お姉ちゃん熱中症になっちゃうよ」
「熱中症ゆっくり言ってくれたら」
「ね、つ、ち、ゆ、う、し、よ、う」
「違う!そうじゃなくて、」

隼人の考えなんてお見通しじゃ。と奏さんが新開さんの額をペチっと叩く。
もう仲が良いとかいうレベルじゃない。と思う。
新開さんは渋々奏さんから離れたけど、面白くなさそう…というか、不満そうにしている。
どれだけ好きなんだろう…。

「ごめんね、泉田くん。変な所見せちゃって」
「…あ、いえ……」
「もう、隼人の先輩ぶりも見たかったのに。これじゃ後輩を困らせるだけになったじゃない。本当に隼人は先輩しいるの?」
「新開さんは素晴らしい人です!僕の憧れです!」
「泉田…おめさん、いい奴だな…!」

キラキラとした顔になった新開さん。
自慢の先輩で尊敬しているのは間違いない。だからしその先輩の好きな人…の前でその先輩をいかに良くアピールするかも僕の役目かもしれない。それに嘘言っていないんだからいいはずだ。
それからいかに新開さんが凄い人かを話すと、奏さんはしっかり聞いてくれ、新開さんを褒めてくれた。
それから奏さんは見たいポイントに行くためにスタートは見ないから、そろそろ行くね。と行ってしまう。

「泉田、ありがとうな。おめさんのおかげで姉さんに褒めてもらえた」
「いえ、そんな…新開さんは奏さんが好きなんですね」
「ああ、大好きだ」
「質問なんですが、熱中症の、アレはなんですか?」
「あれはゆっくり言うと『ね、チュウしよう』に聞こえるってやつ」
「………」
「姉さんのオネダリ聞けると思ったんだけどな」

新開さん…あなたって人は…。



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