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 私は含みません

「どうしよう、凄く総北が羨ましい…!」

そういって奏はしゃがみ込む。
合宿先の手違いで総北と箱学が一緒の宿になり、なぜが成り行きで合同合宿になってしまった。

「どうしたの朱堂ちゃん」
「総北に、すごく、すごくかわいい女の子がいるの…う、羨ましい…!」
「朱堂ちゃんも可愛いヨ」
「違うの、そういうの求めてるんじゃないの。私はね、可愛い女の子がね」
「うんうん、朱堂ちゃん超可愛い」
「荒北くん、違うんだってば。私はね、こう…ね、なんていうかね」

いまいち奏の言いたいこと、伝えたいことが荒北には伝わらずに奏はジレンマを露わにする。それは荒北に対してではなく、自分の語彙が少ないのと表現力が乏しいものであり、その思いのたけをさらしてわかってもらえていないからだ。

「どうした?」
「朱堂ちゃん、総北のマネが可愛いってさ」
「あー、うん。朱堂だって可愛いぞ」
「違うの、新開くん…私はね、可愛いのが羨ましいじゃないの。女の子が…」
「朱堂ちゃん超可愛いよ」
「うん、朱堂は可愛い」
「だからね、違うんだって。私はあっちに女の子がいて羨ましいって」
「朱堂ちゃんだって女子じゃん」

違う、違うんだ…。と加わってきた新開にも同じことを言う。
奏は何が羨ましいかと言えば、女子がいると言う事。箱学にも女子はいる、それは奏自身であって他に女子部員はいない。それは総北も同じなのだが、ただ女子がいるというだけで羨ましいのだ。同じ女子のはずなのに。

「寿一、朱堂が変」
「具合が悪いのか?」
「悪くないよ、私はね、女子が居るのが羨ましいの…」
「………そうか」
「そう、それだけなんだ…いいな、女の子」
「女子は居ないがオレが居るぞ、この美形が」
「私はね、美形よりも女の子が嬉しい…東堂くんは巻島くんのところにでも行けばいいじゃない…」
「朱堂が冷たい…オレの力が及ばなかったばかりに…」

忙しく部活をしていた奏を思ってファンクラブでマネージャーの募集をかけたことがある東堂。しかしそのファンクラブの人間は確かにマネージャーの仕事をしてくれたが、どうにもハードで最終的には「私東堂さまを応援していたいの」という謎の言葉を残して辞めていった。そんな仕事をしながらテストでの成績で常に上位にいる朱堂は何者なんだと同学年の間に不穏な空気が漂ったことがある。

「朱堂ちゃん、どうしたの。言ってみ?」
「女子部員が羨ましいです荒北さん…」
「女子部員の何が羨ましいの?」
「だって癒しじゃないですか…女子部員…」
「朱堂だって女子だろ?」
「…!」
「何かに気付いたな、この顔」
「そうだ、私も女子だった…!って違うの、そうじゃないの」

朱堂がノリ突っ込み珍しいな。と新開は笑うが、当の本人である奏は面白そうではまったくない。
いつもの奏の唐突なものかと思っていた福富も奏の変な羨ましそうなその行動が一体何なのかと少し心配になってきた。もしかしたらここまでの3年間のうっぷんが今爆発しそうなのではないかとか、部員に不満があるとか、もしかしたら自分に対して何か思うところがあるのかもしれないと。

「私も女の子と一緒に部活したい」
「………ん?」
「私も女の子と一緒に部活したい」
「何故2回言った」
「大切な事なので」
「………オレ達女子と部活してるぞ?」
「女子が朱堂ちゃんしかいないって言ってんの」

要は女子が自分だけで奏はぶっちゃけずっと寂しかった。と言いたいらしい。
ついでに言えば総北の女子はそのマネージャーしか見えない。箱学と何ら変わりない、というか一緒なのだ。それでも自分以外に女子がいるというだけでなぜか羨ましいらしい。
その女子を見ては「いいなーいいなー」と呟いている。

「中学の頃はさ、部活って女子ばっかだったからさ…」
「急な環境の変化だったな」
「もう慣れてるからいいんだけど…男子と女子って違うし…」
「………」
「すまん、女子は好きだが女子にはなれんのだ…」
「ぱちこさん…いや、ぱちみ?」
「やめろ」

奏の気がそれたというか、はれたのか。
今度は東堂で遊び始める。
奏自身は女子一人でさびしいとは思っていたが、最近はツラいと思うことはなくなった。しかし総北に女子が居るのを見て少しだけ思った。でもこうやって構ってくれるというか、心配してくれる友人がいるので、多分奏はそれほど重要とは思っていないのだろう。ただ、自分が引退したら今度は兼用部員が出てくるのが少しだけ申し訳ない。

「でも、可愛い女の子が居るとテンションあがるよね」
「うん、朱堂ちゃん可愛いから上がるよ」
「だからそういうの求めてないんだってば」



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