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 くるりとまわる

「…あ、これ」

記憶が飛んで少し。人間関係にもなれ、生活にも慣れてきたものの、まだ少しだけぎこちない。後輩にも敬語を使うし、同じ学年でも敬語を使っている。
そんな時、部活中の部室で奏は丸くなっているポスターを見つけた。見れば日付はまだのレースの告知案内。そういえばと思って部室に貼ってあるポスターのところまで行って、そのポスターを見ると、そのポスターの日付はすでに終わっている。

「貼りなおした方が、いいよね」

一応マネージャーだし。と独り言を言いながら作業にうつす。
手が届かないから踏み台の代わりになるように椅子を配置して、まずはそれをはがす。椅子がなんだか頼りないが、どうせすぐ終わる作業。不安だけど気にしない事にして、その作業を続ける。ポスターが破けてしまわないのようにはがそうとすると、下がけがもうはがれている。劣化するような日付じゃないし…と奏は不思議に思いながら上をはがそうと手を上げる。

「朱堂、その椅子…」
「え、あ…っ!?」

奏の視界がグラリと揺れて体に痛みが走る。特に頭が痛い。頭だけでなく、肩や腕も痛い。

「…い、」
「朱堂、大丈夫か!?」
「ん…」
「起きれるか、打ったのは何処だ、頭か?」
「だい、じょう…ぶ…」

心配している東堂に一応の無事を知らせる。奏はゆっくりと起き上り、保冷剤や氷が保管してある冷凍庫に近寄ってビニール袋に氷を詰め、そして水を注いで即席氷嚢を作って頭を冷やす。

「……朱堂、本当に大丈夫なのか?保健室に…」
「大丈夫……あ、でも腕と肩…」
「おい東堂、お前…って、朱堂ちゃん、どうしたの?」
「どうもこうもまた朱堂が椅子から落ちたんだ!気分は悪くないんだな、朱堂」
「え!ちょ、マジか!?」

痛みで丸まりながら頭を冷やしている奏に話しかけ、本当に大丈夫かと確認する。本当なら保健室に行かせた方がいいのだろうと二人はどうにか奏に保健室に行くように進めるが、奏は「行く」とはいかない。

「頭痛いんでしょ?保健室行ってさ」
「そうざ、荒北の言うとおりに行くべきだ。なにせ朱堂は前回も頭を打っているんだぞ」
「……ダイジョブ…」
「なら、他打ったところは?」
「腕、肩…」
「痛いんでしょ、そこの湿布貰いに行こうヨ」
「備品…もらうから…平気…」
「一人で貼れるの?」
「……たぶん、できる…」

ホントにィ?と氷嚢を持っている手をつつく荒北。ただ東堂は痛みに耐えている奏を心配してオロオロをしているだけ。

「じゃあオレ貼ってあげるから、打ったところ出して」
「なんと!厭らしい事をする気ではないのか!!」
「んなことしねえよ!」
「これ、ここと、ここ…」

備品の中から湿布を取り出して打ったところを素直に出す。見た目は何もなっていないが、万が一のために貼りたかったらしい。
言われた通りに荒北が貼り、東堂がほんとに下心がないのかを見張る様にその様子をじっと見つめる。時折荒北に「うぜぇ」と言われてもそれはやめなかった。

「はい、オシマイ」
「ありがと、荒北くん」
「いいヨー…え?」
「どうした荒北」
「今、朱堂ちゃん、なんつった?」
「礼を述べていたが?」
「違ぇよ、その後!その後、ね、朱堂ちゃん!」
「もうちょっと静かにして…声が響いて痛いから…」
「あ、ごめん…」

荒北のジャージをひっぱり、東堂がどういう事かと小さい声で聞いている。
今までの奏であれば、誰にでも敬語で「さん」付けで呼んでいた。しかし今はタメ口で自分を前の様に「荒北くん」と呼んだと言う事。
それを聞いた東堂はだんだんと理解し、表情が明るくなる。
今までの奏に不満がったわけではないが、やはり一緒にやってきたのに突然壁が出来たのは寂しい。前の様に一緒に笑ったりしたいと思っていたのは、部員全員が思っていた。

「朱堂?オ、オレの名前、わかるか?」
「………東堂尽八」
「おお!では主将は?」
「…福富寿一」
「では、隼人の苗字は」
「新開!」
「なに?」

え、なんで朱堂丸くなってるの二人で囲ってんの!?と驚いている新開に、荒北は小さな声で「朱堂ちゃん記憶戻ってきたかもしんねぇ」と呟く。

「朱堂、前みたいに隼人くんって」
「そんな風に呼んだことないじゃん…」
「お、おかえり朱堂!!!寿一、おい!!あー!!皆!」
「私ずっといたでしょ…」

がばっと奏に抱き着いた新開に荒北と東堂が蹴りを入れ、新開と奏はその力で床に倒れこんだ。



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