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 少しだけずれている

「………?」
「おお、気が付いたか朱堂。気分はどうだ」
「頭が、ちょっと、痛いです…」
「ぶつけた名残だな。気分は悪くないか?」
「…はい」
「では先生を呼ぼうではないか。皆心配していたぞ」

それから東堂は席を外していた保健医を呼び、奏と会話をした後に「意識もはっきりしているし、気分も悪くないなら大丈夫でしょう。心配なら病院へ、気分が悪くなったら必ず行くこと」と言われて保健室をでる。
朱堂は部室にレースのポスターを貼ろうとしていたところ、バランスを崩して頭を打ったのだと東堂はいまいちはっきりとしていない奏に話す。奏も「そうなんですか…」とまだ少しぼーっとしている。

「本当に大丈夫なのか?気分が優れないなら…」
「それは、大丈夫…です。あの、質問しても、いいですか?」
「どうした、畏まって」
「…あ、あの、どちらさま、ですか?」
「………は?」
「え、あ…す、すみません。えっと、助けていただいて、えっと…ありがとうございま…す?した?」
「いやいやいやいや」

一緒に歩いていた東堂は歩くことを忘れて立ち止まる。今なんと言った?頭の処理が進まず、それに対して奏は検討外れの事を言って礼を言う。
違うぞ、そこじゃない。と言葉にすべきなのだろう。しかし目の前の奏の様子が明らかに違うのはわかる。先ほどからの違和感はそれらしい。

「……、自分の名前はわかるのか」
「え、はい。朱堂奏です」
「齢は」
「15歳です、中三です」
「ちゅうさん…?18の、高3では、ないのか?」
「15歳です…」
「オ、オレは…東堂、尽八だ…高3」
「とうどうさん…」

東堂はまずどうすべきか考える。今すぐ保健室に戻って奏の症状を伝えるべきか、その場合保健室に奏を連れて行った方がいいのか、ここで待たせた方がいいのか。いや、いったん部室に行って奏の無事を知らせるべきか。でもこの症状では部活は混乱するだろうし、自称15歳の奏があの男の集団で恐がらないはずがない。
東堂が一人で悩んでいると奏も心配したのか、「あの、具合、悪いんですか?」と聞いてくる。

「ここは箱学だ」
「はこがく?」
「そして朱堂は自転車競技部のマネージャーをしている」
「自転車、競技?競輪ですか?」
「違う!ああ、もう…いったん部室に戻ろう話はそれからだ」

こっちだ。と歩くと奏は黙って言われるままについてくる。
そのまま部室に行くと心配していた部員が次々と奏を見つけて「朱堂さん、よかった」とか「もう大丈夫なんですか?」とか「帰った方が…」とかの心配する声ばかり。奏はどうしていいのかわからず曖昧に笑ってそれをやり過ごしているものの、表情は硬い。
奏が作業している部室の端っこに奏を座らせ、とりあえず奏と仲の良い3年を集める。

「あ、朱堂ちゃんもう戻って平気なのォ?」
「顔色が優れんが…いいのか?」
「尽八?どうしたそんな怖い顔して」

奏が不安そうにうつむきながらもキョロキョロとしている。自称15歳の奏にとってはあらゆるものが初対面。警戒していてもおかしくはないし、入部当初の奏を思えばごく自然だ。そう思うと東堂はそれが自称ではなく、本当ではないかと思う。それに奏がそんなことを言う様な性格でもない事を知っている。

「オレも…さっき気づいたんだが」
「?」
「朱堂の様子がおかしい」
「頭打ったから痛んじゃないのか?朱堂今日は無理しないで帰った方がいいぞ」
「そうじゃない…朱堂、ちょっと自己紹介してみろ」
「え、あ…はい…えっと、朱堂奏です、15歳です…」
「…何を言っている、朱堂。同じクラスなんだから15なはずないだろう」

福富に見つめられながら言われ、奏は縮こまる。
長身の男にすごまれているのと同じだ、奏は怯えている。

「これは一種の記憶喪失なのだろうか」
「んなこと言ってる前に病院だろ!保健のセンセと顧問と担任に連絡してから保護者!」
「靖友頭良いな!じゃあオレ先生のところ行ってくる」
「ではオレは朱堂の荷物を纏める」
「ほら、朱堂ちゃんは制服に着替えておいで」
「は、はい…あ、あの」
「どうした?」
「その、着替えって、どこです、か?」

とても居心地の悪そうな奏が聞く。その質問が場所なのか、服の在処かのは別として。

「東堂、朱堂ちゃん更衣室に連れてってやれ」
「そ、そうだな…しかし中までは…」
「じゃ、先に先生だな」

それからすぐに先生が来て、奏は保護者に連れられて帰る。
帰り際に奏が色々してくれた友人に軽く頭を下げてから姿を消した。いつもであれば奏は元気に「じゃあね、また明日」と笑っていたのに。



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