弱虫 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

 電話から耳までの距離

『新開くんに彼女ができた』

正直ふーんて程度の話だ。相手は朱堂ちゃんで、高校時代に新開が好きだとか、好きな様子はない。だからオレも「生意気な」と返すと朱堂ちゃんは「え、おめでたいんじゃないの?」と返ってくる。同じ大学に行った同じ部活をしていた存在としては朱堂ちゃんは寂しいらしい。女は面倒だってよく聞くから、今までみたいに話がし辛くなるんだろうな。

『福富くんも彼女できたし寂しい』

それには驚いてアパートで一人声を上げてしまった。
何それ、オレ聞いてないんだけど。
文面を書き起こすのが面倒になって、そのまま朱堂ちゃんに電話をかける。こうやってメールが来るってことは今暇なんだって事だろ。

『はいはーい』
「朱堂ちゃん、ちょっとそれど言う事!?」
『え?どっちの話?』
「福ちゃんの方!」
『福富くんの彼女の話?』

聞けば今日の話らしい。新開の方は知らないが、福ちゃんにも彼女が今日できた。その彼女は朱堂ちゃんの友達でもあるらしく、何かと探りを入れられていたとか。それでちょっとしたタイミングというか、キッカケを作ってあげたんだと。

「ちょ、どうして!」
『どうしてって?』
「なんでそんなの協力したのって言ってんの!」
『だって、好きだから協力してって、言われたから?』
「はあ!?」
『な、なんでそんなに怒っているの…?』

朱堂ちゃんにはオレが怒っているように聞こえるらしい。別に怒ってなんか…いるか。
福ちゃんに彼女が出来たっていいじゃねえか。そう思う、新開にできて福ちゃんにできない理由がない。祝福すべきところなんだとは思う。でも、なんていうか、朱堂ちゃんの反応が気に食わないっていうか、イライラする。
オレが知る限り朱堂ちゃんと福ちゃんは仲が良い、でも付き合っていたわけじゃない。福ちゃんが朱堂ちゃんが好きだとか、朱堂ちゃんが福ちゃんを好きだっていう恋愛感情みたいなやつを感じたことはない。ただ普通に仲が良かった。

「朱堂ちゃんはさ、それでいいワケェ?」
『何か不都合な事ある?』
「…な、なんていうか、ほら」
『一緒にご飯は食べにくくなっちゃったかな』
「そうじゃなくて!」
『…うーん、なんだろう』

大学にだって友達はいるんだから別に新開とか福ちゃんと一緒にご飯食べなくたっていいでしょ!と言いたくなった。
違う、そうじゃない。
朱堂ちゃんはごく普通に友達に恋人が出来て、今まではちょっと線引きが必要だよねとしか思っていない。普通はそうだ、朱堂ちゃんは普通だ。そう、朱堂ちゃんは何も間違ってないし、オレがその朱堂ちゃんを困らせているだけだ。

『わかんないよ、荒北くん』
「朱堂ちゃんは、さ…なんていうか、焦らない?」
『何を?』
「周りが付き合うとか、そういうの」
『……難しい事をいうなー荒北くん』
「朱堂ちゃんもいつかそう言って、誰かと付き合っちゃうんでショ」
『そうかもね。でもそれは今じゃない、かな』
「でもいつか来ると思うとなァ…」
『それなら荒北くんだって。私より早いかもよ?』

それはないでしょ。とオレが返せば朱堂ちゃんも『私だって』と変に張り合ってくる。もう少し自分に自信持てばいいのに。
朱堂ちゃん可愛いんだし、オレみたいなやつにだってよくしてくれた。誰かと付き合うことになったらまず相手がどんな奴か調べないといけない。福ちゃん並みの男なら許すけど。

『荒北くんに彼女出来たらこんな風にメールも電話もできないね』
「安心しなよ、できないから」
『そんなことないよ、荒北くんがどんなにいい人か私知ってるもん』
「それならオレだって朱堂ちゃんがどんなにイイ子か知ってるし」

いつもと変わらない調子になって、朱堂ちゃんもオレも落ち着き始める。
朱堂ちゃんは最近できた猫カフェに行ったとか、新開が勝手にカバンを探るとか、送られてきたリンゴを福ちゃんにあげたらすごく喜んだとか、メールにするほどでもないけど、それでも話したかったんだよね。と言う。
ああ、いいなこういうの。でもこれがずっとなんて続かないことも知っている。
新開に彼女ができ、福ちゃんにもできた。きっと同じ洋南の金城にだっていつか彼女はできるし、あの待宮にさえいる。東堂だってファンクラブがあるくらいに人気はあるから時間の問題、かもしれない。

「なー、朱堂ちゃん」
『なに?』
「オレ達付き合ってみるゥ?」
『………へ!?』
「言ってみただけ」
『え、…えー、そうなの?びっくりした』
「だって朱堂ちゃんだってオレとなんて嫌でしょ」
『…そんなことないよ』

え。という一言さえ出ないでオレはただ息をのんだ。



prevnext