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 どっちも妹と弟

※荒北妹


「すごいそっくり!」

オレ達が最高学年になり、新入部員が入ってきた。
奏は去年末くらいから怪我の調子が良くなくて、マネージャーというより手伝いという形で部活に参加してしている。その事情は荒北さんが話していたので誰も奏にどうしたんだと聞くこともないし、調子が悪そうにしていると気にしたりしていた。
奏は新入部員に一応顔くらいは見せておいた方がいいと塔一郎に言われ、それもそうだと思って挨拶にきている。そこで先輩である新開さんの弟を見ての一言だ。

「………」
「新開さんにそっくりだね、えっと…」
「奏さん、悠人だよ。新開悠人」
「どうも、新開悠人です」
「いきなりごめんね、私荒北奏。よろしくね」

少し変な顔というか、警戒した感じて悠人は軽く頭を下げる。奏は初対面で馴れ馴れしいんだと思う、特に新開さんの弟でそっくりだから。可愛がってもらった記憶がある分、親しいつもりになってしまうんだろう。

「悠人、奏さんはマネージャーをしてるんだけど最近体調が悪くて」
「さっき聞きました」
「おい悠人、一応先輩なんだからもう少し愛想よくしろよ」
「それ黒田に言われたら終わりだよね」
「なんだよ!」
「だってお兄ちゃんに凄い愛想悪かったじゃない」
「お兄さんいるんですか?」
「うん、一つ上で、新開さんと同い年の」

ちょっと待っててね。と奏は部室に保管してあるアルバムを引っ張り出す。それは去年の追出し式の写真が入っているアルバムで、去年の思い出が入っている。
それで奏は集合写真をだして悠人を呼ぶ。

「ここに私のお兄ちゃんが居ます、どーこだ」
「………」
「ここでわかったらすげえな」
「奏さんと荒北さんはね…」
「…ここに本当にいるんですか?」
「いますよ」

あ、これ隼人くん。と悠人が指をさす。本当に似ていると思う、これこそ兄弟だろう。それに対して奏と荒北さんの似ていない事。二人で歩けばまず兄妹とは思われない。

「…この人?」
「残念、その人は東堂さん」
「……本当にいるの?」
「正解は、この人です」
「………嘘だぁ」

そうだろ、そうだろ。悠人のリアクションはごくごく普通のリアクションだ。オレだってわからなかった。本当似ていない。荒北さん曰く、奏とは似てないけど下の妹とはまだ似ているらしい。荒北さんと下の妹さんは「奏が良い所全部持って行った」らしい。
それにまだ東堂さんの方が似ているっていうの気持ちもわからないではない。似てはいないが、顔立ちは同じ部類だろうし、荒北さんを除外しているから福富さんというのも、まあうん。

「嘘じゃないよ。荒北靖友は私の兄です」
「だって似てない」
「悠人、奏さんはその人の妹だよ。嘘を言っても仕方ないだろ?」
「性格とか似てるところあるんだぜ、コイツ」
「悠人くんはお兄ちゃん知らないからそれは言ってもわかんなと思うけど」

まじまじと荒北さんの写真を見てから奏の顔を見る。髪の色が違うのと体型くらいしか違わないんじゃないかと思うほど新開兄弟が似ているのに比べ、荒北兄妹はどうしてそこまで似ていないんだと言いたい。荒北さんの女版はそれはそれで嫌だけどな。

「荒北先輩、似てないんだ」
「うん、私とお兄ちゃん似てないんだ。前に一緒に歩いてたら彼女と間違われて、ケンカ吹っかけられたんだよね」
「え、それ大丈夫だったの?」
「正当防衛」

その話は凄く記憶にある。
相手が女に負けたというプライドを折られる行為を受け、逃げて行ったからいいものの、そうならなかったら大変だろ!と福富さんが凄く心配して二人を叱っていた。
後から聞いた話だけど、奏は以前にひったくりとかを捕まえた功績があるので警察には信用があるとかであまり問題にはならないらしい。本当のうわさでしかないから本当かどうかは知らないけど。

「銅橋でさえ奏には口答えしないからな」
「一回叩きのめしちゃったからね…あれは反省してるよ」
「あれはあれで奏さんの手伝いに積極的にしてるから、いいと思うよ」
「あの銅橋さんが…へー」
「それから私だって気を使ってるんだからね、これでも!」
「嘘つけ、いいように使ってるだろ」
「使ってないよ!お願いしてるんだから」
「物は言い様だな」
「…そんなに私と勝負したいの、黒田」

急に声が低くなる奏にオレだけじゃなく悠斗と塔一郎がビビる。
やばいぞ、これスイッチ入るぞ。
奏は「そうかそうか」と言いながら首を回し、手首をまわす。そして距離を見極めるように目測をはかりはじめる。

「わるい、オレが悪かった!調子乗った、ごめん!」
「奏さん、ほら、ユキもこうして謝っているわけだし、ちょっと度が過ぎただけだし、ね?」
「………そ。」
「荒北先輩カッケー…」
「…体調の方は今どう?最近部活来てなかったし」
「今週末病院に行ってからかな。だいぶいいから大丈夫だと思うよ」

オレと塔一郎が奏の機嫌をうかがっていると、悠人がキラキラとした目で奏を見ている。
そもそも奏は些細な事では暴力事件を起こしたりはしないが、牽制の為に威嚇する程度だ。ただそれがめちゃくっちゃ恐い、恐ろしい。部活内で荒北さんと言い合って荒北さんに威嚇した時の周りのドン引き具合というか、あの時部員全員が奏を怒らせてはいけないと心に刻んだ。その時は福富さんが二人の頭を叩いて場は収まり、福富さんの尊敬値がうなぎ上りだ。

「荒北先輩、王子様…」
「ん?」
「すごい、奏さんて呼んでいい?奏さん格好良い!!オレの王子様!」
「え、なに?今部活でそういう感じの遊び流行ってんの?」

戸惑っている奏なんて初めて見る。
急に奏に懐き始めた悠人に奏は本気で戸惑っている。
塔一郎とオレを交互に見て目で助けを求めているけど、あえて気づかないふりをする。

「……わ、私そろそろ寮に帰るね。病院の検査で、悪い結果出たら大変だから」
「えー、もう帰るんですか?送ります」
「いや、悠人くん練習あるでしょ?一人で大丈夫だし、ね」
「検査があるならなおさらです、と言う事でオレ奏さん送ってきます」
「ええええ」
「奏、いい後輩が出来て良かったな」
「新開さんに悠人をよろしくって言われているから、奏さんもよろしく」

う、裏切者!と奏の顔に書いてあるが、それをあえて無視する。
奏は荒北さんの妹で、悠人は新開さんの弟。どっちも大切な先輩の妹と弟だ。

仲良くしろ。



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