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 スパルタ式訓練

「なー朱堂チャアン」

数学教えてくんねぇ?と化学の教科書が私の目の前に置かれる。

「荒北くん、これ化学の教科書だよ」
「…あ」
「私のでいい?どこがわからないの」


恥ずかしそうに化学の教科書を抱え込み、私が数学の教科書を渡すとパラパラとページをめくって探す。
今はテスト期間ということもあって部活は休み。寮生は寮の自室などの好きなところで勉強をしたりしなかったりしている。ちなみに私は学校の図書室にいる。ここなら空調が効いていて調度いいし、先生も学校にいるから解らないところはすぐ聞きに行ける。
テスト前はいつもそうしているけど、こうして声をかけられたのは初めてだ。まあちょっと前に荒北くんから「今どこ?」と短いメールがきていたわけだが。

「ここなんだけど」
「まあまあ座りたまえ荒北くん」
「隣でもいい?」
「隣がいいよ、二人で教科書みるんだから」
「嫌じゃない?」
「荒北くんが嫌ならいいけど」

ちょっと考えた荒北くんは「んじゃ、隣失礼しまーす」と恥ずかしそうに座る。
荒北くんが「ここ」と出したページを見れば、なんてことのない公式のページ。何が解らないのかをきけば、面倒臭そうに解らないところを教えてくれる。

「ああ、それはここの公式を使うんだよ」
「げ、これ前回のページじゃん」
「大体数学とかは繋がっているからね、前のがわからないと次もわからないんだよ」
「げー」
「これならこの公式覚えておくだけでいいよ、その応用だから」
「nってナニ」
「そこは数字が入ってくるから、何者でもないよ」
「nは公式じゃないの?」
「公式ですよ。nは変幻自在の忍者です」
「そういうとちょっと面白いかも」

というか、これ一年の最初でしょ?と言いそうになったけど思い出した。そうだ、荒北くんは当時不良だった。

「んじゃ、xってのは?」
「それも忍者xだね。y忍者もいるよ」
「忍者多すぎ」
「数学は推理小説だよ。犯人のxやyを探すの」

朱堂ちゃんロマンチストだねぇ。なんて荒北くんが茶化すので「荒北くんのレベルに合わせているんだよ」と言ったら黙った。
先生に聞けばいいものを私に聞くんだから。

「まあなんとなく解った」
「いや待とうか荒北くん。ちょっとこの問題解いていこう。それがいい」
「はぁ?」
「教えた身としてはちゃんと理解しているかを確かめねばならん」
「東堂の真似すんなし」
「問題集あるからそれやって。出来るまで付き合うから、ううん、出来るまで帰さない」
「……」
「座る」
「……」
「す、わ、る」
「……ハイ。」

立ち上がった荒北くんの手を掴み、座るのを強制する。聞くだけなら誰にでもできる。重要なのは荒北くんがちゃんと理解してくれたかどうかだ。
適当に範囲である問題を選び、ちゃんと簡単なものを取り合えず出してみる。どこで間違えるか、それとも正解して終わるのか。
うげぇ。と言いたげな荒北くんは渋々私から問題を受け取って持っていたノートを開いて問題を解く。

「朱堂ちゃん、この次は?」
「そこは前回の範囲の公式を思い出してみよう」
「………」
「この公式」
「なんで例題がこうなんのヨ」
「よし、じゃあ色を分けてみましょうか」

ペンケースから複数の色が入ったボールペンを出して「この数字がここにきて、この数字がこっちね。それで…」と分けると荒北くんも解ったのか問題をやり始める。

「こんな感じィ?」
「んーと、お!正解」
「おっしゃ」
「次はこれね」
「次もあんの!?」
「一問できたくらいで…自転車でいえば自転車にのってペダルに足置いたくらいだよ。漕ごうよ回そうよ」
「……朱堂ちゃん、キツいよね」
「愛の鞭だよ荒北くん」

問題集からそれよりちょっと難しいけど、結局は公式を捻っただけの問題をしてする。
くそー。なんて良いながらも荒北くんは問題を解く。さっきのを覚えていればなんてことのない問題で、プラスとマイナスがあるくらいの簡単な問題のはず。

「朱堂ちゃん、マイナスついてんだけどぉ」
「中学の範囲だよー」
「…マジ?」

それから徹底的に荒北くんに数学を教え、時計を見ると下校時刻まであと少しになっていた。

「よし、続きは明日」
「明日もすんの!?」
「するの」
「いいヨ…もう十分…」
「やっと基礎が終わったんだよ、明日は応用!応用点取ろうよ」
「朱堂ちゃん勉強できねぇじゃん…」
「大丈夫、帰ってするから」
「成績落ちるヨ…」
「荒北くん教える程度の時間で成績は落ちないから安心して」
「………」

それからテストまでみっちりと勉強を教え、ついでにと他の教科を教えたら見事に荒北くんの成績は上昇した。

「すげぇ朱堂ちゃん…」
「先生と呼んでもよくってよ」
「東堂っぽい…やめなヨ朱堂ちゃん…」
「ダメかー…でも良かったね」
「で、朱堂ちゃんはどうだったわけぇ?」


成績のかかれた紙を見せると、荒北くんはガラにもなく「ぎゃあ!なにこれ」と驚いていた。



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