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 お隣のお姉さん

※名前変換なし
 not箱学マネ



「おはよう、元気?」

いつもの、平日の日課になっている野良猫への挨拶。
いつもの時間に、まるで待ち合わせをしているように近所の野良猫が私の部屋の前で鎮座しているのだ。模様はない、綺麗なほどの黒い猫で、目は金色。美猫というには、少しだけ崩れている顔も愛嬌があってすごく好きだ。
その猫は私がエサをあげるわけでもないけど、見かけるたびに声を掛けていたら仲良くなった。

「毎朝来てくれるけどご飯はないんだよ?わかってる?」

ぐりぐりと手のひらを押し付けるようにして猫の頭を撫でる。これも挨拶で、前なんて一歩踏み出すと逃げていたんだから凄い進歩、これはもう友達と言っても過言ではない。
さて、こんなことをしている暇はない。なぜなら私はいわば社畜なのだ。いい意味でも悪い意味でも。交通費節約のために買った自転車をアパートの玄関から引っ張り出して、ドアを閉める。

「さて野良くん、私は今日も元気に社畜生活を……」
「……はよっす」
「おおおおおおおはようございます…」

最近越してきた、多分大学生の荒北さんが私を見ている。
まさかまさか。いつも一人だったので油断していた。しかも私の部屋からするとドアで死角になっていたとかね!
急激に私の顔の温度が上昇するのがわかる。

「猫、飼ってるんですか」
「い、いえ?野良猫ですよ」

声が上擦った。
引っ越しの挨拶で顔を合わせたくらいの、正直かかわりのない青年に恥ずかしい姿を見られて焦っている。猫もそれがわかるのか、いやたぶんわかってない。なんとなく笑っているような気がする。

「こ、これから学校ですか?」
「まあ…そんなとこっすね」
「わ、わあ。いいな、私も学生に戻りたいなー…なんて」

じゃ、お互い頑張りましょうね!なんて心にも思っていない私は鍵をかけて自転車を担いでアパートの階段を急いで降りる。私の部屋は2階で、一応女の子だからと借りてもう何年だろう。大学の頃からだら…いや、考えるのはやめよう。
急いで担いでいた自転車を降ろしてそれに跨る。友人の勧めでいい自転車を買ったので、ママチャリの様に重くないのがこの自転車の良い所。友人なんて10万以上の自転車を買っていたので、試に持たせてもらったら軽かった。値段は比例するのか…と思った。

私の職場は洋南大学の事務だ。毎年多くの人が受験して、卒業して。人の出入りがまあ多いこと。それは学校だからそんなものだし、私も仕事だからそんなもんだろうという感覚だ。学生なんと院生にならなければ4年でサヨナラだし、それよりも職場の人間関係が重要なわけだ。

「先にお昼失礼します」

一気に事務員が事務所からいなくなっては業務に支障がでる、特に電話とか。そのためバラバラで昼や休憩をとる。
今日は朝の一件でコンビニに寄ったついでに何か買おうと思っていたけどすっかり忘れてしまったので食堂に行く。学食の方が安いので、毎回そうしてもいいのだけど、さすが学生向けなだけあってボリュームが多い。普通盛りもあるけど、それでもちょっと多い。

「あ」
「…あっ」

オムライスにして、空いているところに座って食べていると上から声が聞こえ、なんだと見上げるとお隣の部屋の荒北さんではないか。と言う事は貴方ここの学生なのか!!

「荒北、知り合いか?」
「ああ、まあな」
「ど、どうも……荒北さん、ここの学生だったんですねー…」

世間狭くて恐ろしいわ!
そして臆することもなく男子学生二人は私の正面に座るとか。なんだお前ら!

「金城、ノート貸してくんねぇ?」
「また居眠りか?」
「違げぇよ、オレの位置から見えなかったんだよ」
「まあそういうことにしておくか。借りだな」
「じゃあこの前のアシストでチャラな」

学生らしい会話だと思う。大盛りの昼食は見る見る間に減っていくし、これは見てて面白い。さすが男の子、いい食べっぷりだ。
私は急いで、この私が一方的に居づらい場所から逃げるようにオムライスを食べてさっさと逃げよう。

「…知り合いじゃないのか?」
「あ?」
「知り合いだからここに座ったと思ったのに、全然喋らないから…違うのか?」
「え、あ…知り合いだけど知り合いじゃないというか…」
「挨拶する程度の知り合いだよ。んだよ、お前それでここ座ったのかヨ」
「荒北、お前挨拶するのか…」
「どういう意味だ金城…」

まあ彼は見た目が恐い。喋り方もヤンキーみたいだから、その感想は私も同感。
引っ越しの挨拶に来た時もそれはそれはビビったのは秘密だ。

「まあ、ビアンキ乗ってるから勝手に親近感わいてたけどネェ」
「ロード乗られてるんですか?」
「ロード?」
「クロスバイクの方」
「そうなんですか」
「そ、そうらしいです…」
「え?」
「あ、いや…通勤費を安く上げるのとダイエットに自転車買ったので、詳しい事わからなくて…あ、でも友人に相談してので騙されたとはないですよ」

わー、なんだこのアウェイ感。この雰囲気からして二人は自転車競技サークルだな、多分。一応はこの大学も強いことになっているらしいけど、詳しいことは知らない。
これは逃げるに限る、というか逃げよう。

「じゃ、じゃあ授業がんばってくださいねー…」
「あ、はい」
「失礼しますー…」

そしてこの後事務室に来た彼らとまた顔を合わせることになるとは薄ら予感してたけど、本当にそうなるとは思っていませんでした!



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