弱虫 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

 いいんちょとまねさん

「あ、あの…手伝いましょうか…?」

確かこの人は自転車競技部のマネージャーさんの…えっと、先輩。
手にはたくさんの荷物に前が見えないくらい抱えている。頑張って顔を出してふらふらしているのは凄く危ないし、どうしてマネージャーさんだけにそんなことをさせるんだろうと思って、思わず声をかけてしまった。



「あれ?委員長だ」
「さ、山岳!?」
「真波くんの知り合い?荷物運び手伝ってくれたの」

へー。という何とも腑抜けた声にイライラする。

「荷物多くて困ってて。ありがとう、えっと…何さん?」
「み、宮原です」
「ありがとう宮原さん。私3年の朱堂奏、凄く助かった」
「朱堂さんも言ってくれれば手伝いましたよ、オレ」
「これから一斉記録取だからね…」
「あと何あります?」
「機材置くテーブル」
「じゃあそれ取ってきます」

荷物を降ろしていると山岳はそのまま走って行ってしまった。
朱堂…さんは「お願いねー」とそれを見送っている。私も朱堂さんと同じように持っていた荷物を降ろしてあたりを見回してみるとピチッとした服を着た人がたくさんいて、自転車をいじっていたり、乗っていたりしている。確か記録を取るとか言っていたからその準備をしているんだろうという見当はついた。

「そうだ、宮原さん見学していく?」
「…え」
「手伝ってもらったお礼したいけど、部室にあるから。それまで見学。もしかしてこれから予定あった?」
「ない、ですけど…あの、ご迷惑じゃ…」
「そんなことないよ、男子ばっかりで居心地悪いかもしれないけど」

実は私も居心地悪い時あるんだよ。とこっそり教えてくれた。
それから暫くして山岳がテーブルを持って来て朱堂さんがセッティングしていく。何か手伝った方がいいのかとしていると、声がかけられた。

「あれ?もしかしてマネージャー志望の子?」
「残念、それが違うのですよ新開くん」
「こ、こんにちは…」
「こんにちは。なあ予備のパワーバーないか?」
「部室になかった?」
「見てない」
「……私は持ってないよ」

そうか…。と肩を落としてその、シンカイさんは行ってしまった。そのパワーバーというのが欲しかったらしく、奏さんに「ない」と言われて諦めた様だ。
確か…ファンクラブがあったと思う。同じクラスの子が「新開さんかっこいい!」って言っていた。あともう一人…えっと、トウドウ、さん?という人もいたと思う。

「………勧誘が成功したのか」
「違うよ、手伝ってもらったの。宮原さん、主将の福富くん。宮原さんは真波くんとお友達なんだって」
「ど、どうも…山岳がお世話に…」
「山岳…?」
「真波くんの下の名前」
「ああ…宮原は自転車に興味があるのか」
「え」
「福富くん、その顔で勧誘はやめて」
「…怖かったか」
「ちょっとね」

主将さんはちょっと元気なく行ってしまった。悪いことをしてしまったと思って謝ろうかと思っていると朱堂さんは「ごめんね、恐かったよね。福富くん鉄仮面だから」と笑っている。
そんな朱堂さん以外にはマネージャーはいないのか、他に女子の姿が見えない。それに皆自転車に係りきりだし、朱堂さんを手伝う人がいない。
そうか、だから主将さんは勧誘がどうだっていっていたのか。

「これでよしっと。Aグループの人集合してー」

手伝いましょうか。と言いかけて黙る。準備が終わって記録を取るのが始まるらしい。
朱堂さんに呼ばれた人が朱堂さんの指示した何かを持って自転車に乗り始める。
朱堂さんがスタートの声をかけて、持っていたストップウォッチの様なものを押してタイムを計るらしい。持って来ていたパソコンの画面を見ると時間が表示されている。

「今走ってる人の順位とタイムがこれで計測されるの」
「…すごく、早いですね」
「今は出たばかりだからあんまり加速してないけどね。戻ってくるときすごく早いよ」
「……すまん朱堂、委員会で遅れたが大丈夫か」

振り返ると綺麗な男の人がいる。この人が多分東堂さんだ、東堂さんファンの友達が写真を持っていたから多分間違いない。私なんかに気づかないようで、朱堂さんにまだ大丈夫かを確認している。どうやらまだ東堂さんのグループではないそうで、安心している。それで余裕ができたのか、私に気付いた。

「オレのファンか?」
「え」
「真波くんのファンだよ」
「なに!?」
「ち、違います!!なんてこと言うんですか朱堂さん!」
「ごめんごめん、機材運ぶの手伝ってくれた宮原さん。真波くんのお友達だって」
「機材運び…また一人でやったのか!あれほど1年に声をかけろと言っていたではないか!」
「今日はみんなの記録取るから…さ、」
「それで怪我したらどうするつもりだ馬鹿者」
「そ、そうですよ!ふらふらして危ないじゃないですか」
「そうだ、えー、ミヤハラさんからも言ってやってくれ」

前から朱堂さんはよくあの量の機材とかを一人で運んでいたらしく、東堂さんが凄く心配していたらしい。それを今日私が手伝って結果的に報告してしまったらしく、朱堂さんはとっても耳をふさぎたそうな顔をして唸っている。でも言い返さないのはたぶんその心配がわかるからなんだろなと、二人を見る。
説教をしているとアラームが鳴る。なんだろうと思っているとどうやらあのグループが返ってくるらしい。主将さんが居たグループで、朱堂さんが「あっちからくるよ」と言われた方を見ると、主将さんが一番に戻ってきた。

「…凄い」
「ね、ちょっと恐いよね」
「フクが戻ってきたと言う事は、次はオレか」
「次のグループ準備してー、戻ってきた人から次の人に渡して各自スタンバイ」

ではな朱堂、宮原さん。と東堂さんは主将さんのところに行くし、朱堂さんはパソコンで記録のチェックをしている。福富さんは1番でタイムが書かれてる。

「お疲れ様福富くん」
「……ああ、」
「お、お疲れ様です…」
「………」
「無言はやめてよ、宮原さん困ってる!」
「ああ…すまん、朱堂以外に言われるのは慣れていなくてな」

それから各グループの記録を取って、今度はその記録を元に朱堂さんがまとめて、それから監督や主将さんと話し合ってこれからどう練習をするかの会議があるらしい。
意外とマネージャーって仕事が多いんですねと言えば、朱堂さんは「本当だよね」と笑っていた。
記録を取るのが終わると機材の片付けに入るので、またお手伝いをして朱堂さんと話してみる。今度は1年が手伝いに来てくれたので、荷物は少なくてびっくりするほどすぐ終わる。本当どうして朱堂さんは頼まないんだろう。

「宮原さん、今日はありがとう、助かった。これ、お礼にもならないかもだけど」

はい。と渡された飴。
帰る途中にそれを開けて口に入れる。予想していたよりも爽やかな酸味が口に広がって、そのが味は自転車競技部の朱堂さんのようだと思った。



prevnext