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 クライクライム

東堂ファンクラブ会長の言っていた意味ってこれか…!

「…へ、え…え?」
「聞こえなかったか?」
「い、いや…聞こえ、ました…はい」
「返事は」
「は、はい」
「いいのか?」
「あ、そっちの返事?」
「他に何がある」
「反射的な、あれです…」

どうしよう、凄くドキドキというか動揺してます私…。えー、えー…。
買ってもらったペットボトルを握ってどうしようかと目が泳ぐ。
東堂くんは嫌いじゃなくなった、最初から嫌いじゃないけど、前よりは。
一緒にいると楽しい。たまにちょっとウザいけど。

「ファンクラブには言ってあるから安心してくれ」
「……それ、いつから言ってある?」
「結構前からだな」
「………」
「どうした?」
「会長が、言っていた意味を、今、知りました」

そうか、だからか。今まで温かい目で見られていたのね。そして知らなかったのは私だけ?いや、多分寿一も知らないだろう…いや、知らないでいてほしい。

「…もし、これ私がNOだった場合は」
「それもファンクラブには報告する」

それはなんだ、私に対する風当たりが強くなるってことか。それか。
これ受けるも地獄断るも地獄なのでは?と思う。いや、この場合受けて後で振ってもらうのが得策?いや、でもそれは…とうんうん唸っていると東堂くんが心配そうな顔で私を見ている。

「具合が悪いのか」
「あ、いや、違う…急に言われて、どうしたらいいのか、わからなくて…」
「迷惑か」
「…わ、わかんない………」
「オレだって、どうしていいかわからん」

東堂くんは今は苦手じゃない。たぶんそれは私が猫被りをやめて、好きな自転車を乗れるし、それに付き合ってもくれるし誘ってもくれるから。
自転車部の人も前より嫌いじゃない。また寿一とも話すようになれたし、荒北くんだって恐いと思うことは少なくなった。

「こんなことを人に言うのは初めてだからな」
「……そ、そっか…でも、ファンクラブの人には言ってあったんだね」
「それはあまりにも奏が…、朱堂が言うからだな」

え、ええー…。ちょっと待って、本当ちょっと待って。それってあれですよね、告白する前に外堀固めてるってやつよね。
幸いな事に東堂ファンクラブには本当のファンしかいないのか会長がしっかりしているのかで、私には何もない。もしかしたら影で何かしらのテストみたいなものがあって知らず知らずの内に私は合格していたとか?
そんなことが私の頭の中でグルグルしていると、東堂くんは「朱堂!」と声を荒げる。

「は、はい!!」
「どうなんだ、こっちだって気が気がではないのだ…」
「と、東堂くんは、私なんかの何がいいの」
「そ、それはだな…転校初日というか、その姿が美しいなと思ってだな…」
「う、美しい…?」

東堂くん曰く、実に女性らしい女子だと。
義父の趣味に合わせた母が私に言っていたからその影響だと思う。髪を伸ばしなさい、口調は柔らかく、華道、茶道、マナー。義理の父のイメージでロードは泥臭いと言う事で母は嫌がっていた。

「それ、幻想だよ。今こうやっているのが私だから」
「そうみたいだな。でも、そうやって生き生きしている朱堂もいいと思う。あのころよりもずっと」
「………、幻滅するかもよ?」
「なら朱堂はオレ知れば幻滅するかもしれんぞ?」
「東堂くんよりもスイスイ山登っちゃうかもよ?」
「望むところだ、それが出来るならやってもらおうではないか。オレと対等にできるのは巻ちゃんくらいだがな」

確かに。と笑うと一緒に笑ってくれる。
ビックリしたけど、そうか。こうして声をかけてくれていたのはそういう事か。

「じゃ、学校に戻って私がジュース奢るから、それ飲んだら返事するよ」
「…ここじゃないのか?」
「もうちょっとだけ整理するから、少しだけ待ってよ。答えはだいたい出てるから」
「……ああ、わかった」

学校に戻って、自販機でコールを買ってボトルに返事を書いて、それを東堂くんに渡す。コールを見て嫌な顔をしたけど、そんなことは無視して「部屋で飲んでね、それから電話ちょうだい」と言って逃げてきた。そろそろ飲み終わる頃だと思う。
ほら、私の携帯が東堂くんの名前を出して鳴っている。



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