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 リライト

最後のIHの最終日ゴール。
福富と私で競りに競り合って私が勝った。福富は絶対に手を抜いたりしない、そういう人だからこれは私が全身全霊で勝ちをもぎ取って、私たちはステージに上がった。きっと箱学は去年の私たちの様に陰で泣いている。それは過去に私がかつて味わったあの時の様に。3年というものには色々付きまとうのも知っている。最後だから、最後だからこそ。箱学の3年マネージャーをしているときどんなに悔しくて、どんなに泣いたか。

夏休みなどは今まで部活の関係で帰っていなかったけど、今年はもうIHが終わればほぼ自由。IHが終わって、自分が出たいレースが終わると私は早々に静岡の実家に帰ってきた。
久しぶりの帰宅。最後に帰ってきたのはお正月で、春休みは帰っていない。自分の部屋は出た時のままで、たまにお父さんが空気の入れ替えをしてくれているくらいで何も変わっていない。リビングはたまに荒北くんが来たりしているのか、お父さんのモノではないモノがあったりする。

「今日帰りだったか、すまん忘れていた」
「いいよ別に。どうせ電気がついているの見て消し忘れたって思って走って帰ってきたんでしょ」
「…当たりだ」
「鳥の唐揚げ作ったよ、食べようお父さん」

一緒にご飯を食べるのも久しぶり。IHの時はあったけど一緒にいる時間は少なく、私もそれどころじゃなかった。主将としての仕事もあったし、レースに集中しなくちゃいけない。

「なあ奏…お前進路どうするつもりなんだ」
「就職しようかなって思ってるよ、それ前も話した」
「大学、行かなくていいのか?」
「……うーん、」
「お前なら部活でいいところに行けるだろうし、学力も申し分ない」
「…うん」
「金なら心配しなくていいぞ、だから」

まだ間に合うだろう。と進学を進めてくる。それは監督も先生も同じで、「金城さんはどうして大学に行かないの?」とか「お前の成績なら引く手数多だろう」と言われる。
ついでに最後のIHで福富とアドレス交換をしたら「どこの大学に行くんだ?オレは早明」と来てから返信していない。実際に早明からも推薦は来ているし、お父さんの出身の洋南からも来ている。でも大学に行ってやりたいこともないし、自転車を続けたいから強い学校という気持ちもあまりない。

「………旅行に行こうか」
「旅行?」
「箱根。東堂の家が旅館をやっていてな、そこ有名なんだ」
「どうしたの、急に。あ、もしかして彼女出来たの?」
「違う。もう何年も行っていないだろう、家族旅行」
「前は荒北さんと行ったよね」
「今回は二人で行こう。優勝祝いだ」


「よくきたな金城親子!この東堂庵でIHの疲れを癒すがいい!!」
「お世話になります東堂さん」
「ついでにフクと甥っ子も来ているぞ」

へー。と言って私とお父さんは案内された部屋に入る。部屋は広くていい眺め。これは高かったんじゃないかと邪推して唸ると「友人価格というものを知っているか?」と笑われた。それから温泉に入る前に自転車であたりを周ることにしていたので準備をして外にでる。お父さんは留守番というか、さすがに運転直後に動けるほど若くないと言っていた。いやいやまだ若いぞ、父よ。でも運転の疲れは私にはまだわからないから「先に行ってくる」と一言おいてきた。

「東堂さん、箱学ってどっちの方向ですか?」
「ここから箱学は遠いぞ、方角的には…あっちだな」
「遠いとなると偵察は無理か…残念」
「さすが主将、他校が気になるか」

当たり前じゃないですか。と笑う。でも本当は違う、私は私の墓参りがしたい、そこで私は前の私と決着をそろそろつけないといけない。墓の場所なんてわからないけど、家がある、それだけを見るだけでいい。
自転車を始めて私は過去の私とは違うんだと思った、今までサポートだったのが選手になった。小さくて大きな違い。だから、昔の事は切り離したい。でも、それも私だからって思う。

「東堂…と、奏?」
「福富さんこんにちは、あれ?一人ですか」
「アレは運転疲れで寝てる。免許があっても使わなければ意味がないからな、運転練習がてら運転させた」
「フクはどうしたのだ?ロードをもって」
「久しぶりに朱堂の墓参りに行こうと思ってな、これでいけない距離でもない」
「あ、あの!私も行きたいです!!というか、行かせてください!」

渡りに船とはこの事。不審がられてもいい、というか不審だけどいい。正直学校の位置が分かったところで墓なんて場所知らないし、ここに墓なんてあったっけ?と思っている。おそらく両親が立ててくれてのだろう、私の為に。

「どうして奏が行きたがるのだ」
「…だ、だって小さいころよくその朱堂さんの話聞いてたし…?」
「フク、これはお前の責任だぞ」
「どんな人か、会ってみないなーなんて」
「朱堂は死んだ、会えないぞ」
「言葉の彩ですよ」
「…ついてこれるのか」
「…はい!」



整然と並んでいる墓石に日の光が反射している。花が点々と備えているあたり、人がたまに来ているらしい。その並びを福富くんは迷うことなく進んで一つの墓石の前でぴたりと止まる。見れば「朱堂家之墓」と刻まれている。
そう、ここがかつての私が眠っている墓なのだ。

「朱堂はマネージャーで、いつも支えてくれた」
「…」
「いつも、いつまでも一緒だと思っていた。でも違ったんだな、朱堂はもういない」
「…」
「10年ほど前か、奏にあった時朱堂と同じ名前で、しかも似ていたから朱堂が生まれ変わったのかと思った」

わー、福富くん鋭い。そうです私生まれ変わって金城くんの娘してます。
というか、鋭すぎるよ。内心心臓バックバクになりながら「そ、そうなんですか?」と相槌をうつ。

「今もそう思っている。甥と話している姿が高校時代の写真と重なってな…」
「…お墓の前でそんな話、しちゃダメですよ。きっと、朱堂さんも困ってます」
「墓参りをしたいと言った時、本当に朱堂じゃないかと思った」
「………」
「荒北に言われるんだ、いい加減に朱堂を過去にしてやれと」
「まったく、本当だよ福富くん」
「……奏?」

ごめんね、今だけ昔に戻る。今だけ金城奏じゃなくて、朱堂奏にもどって話す、今回だけだから。
福富くんがツラそうだから、私に縛られているから。

「話聞いてればずーっとそれ、奏ちゃんが可哀想」
「朱堂、なのか?」
「そうだよ、あ、でも今は金城奏ちゃんの体を借りて喋ってるんだけどね。確かに奏ちゃんは私の生まれ変わりだよ、ずっと今まで奏ちゃんの中から見てきた。でも私じゃない。この子は金城奏ちゃん」
「……」
「あんまりにも女々しいから借りちゃったよ。もう、いつまで死んだ人間の話をしてるの?私はもう死んだんだよ、福富くん。もういないの、戻ってこない。いない人間は思い出にして前に行かなきゃ、いい?」
「…朱堂」
「奏ちゃんを困らせないで。私が死んだのは寿命だったの。嘘ついて大学辞めたのは謝るけど…私はちゃんと生きたよ、生きていた。福富くんが覚えててくれて嬉しいよ。でも私を思い出にしてほしい。今の福富くん全然強くない。オレは強い、でしょ?
よし、言いたいことは言ったぞ。いい?奏ちゃんに今後一切その話はしない事。じゃあね!」

と一方的に話を切る。ごめんね、福富くん。君の前にいる私はずっと私なんだ。

「朱堂!!」
「…え、あ、あの、金城です、けど……」
「いないのか?」
「な、何がですか?」
「……いや、なんでもない。そうだ、そうだな…朱堂、すまん。死んでもまだ心配かけるとは情けないな」
「思うことは悪くないと思います。だってまだお父さんお母さんの事好きで彼女作らないんですよ」
「………」
「でも、私の事育ててくれました。思うって、それだけじゃ悪くないけど、思ったままはいけないと思います」

それから二人で黙って宿に戻ると、復活したお父さんは福富と卓球をしていた。
どうやら温泉で会って暇つぶしにやっていたら白熱したらしい。汗が酷い。
そしてまた温泉には3人で入って、夕食は4人で取った。保護者は保護者でライバルだし、子供も子供同士でライバル。でも今はただの友達同士で、たまたま出会った偶然に感謝しながらその日は寝た。
次の日はどうせなら一緒にと言うことで4人で観光をした。福富同士は地元なので観光というより案内なのだが、あまりこの辺りは詳しくないらしくガイドを片手に一緒にめぐる。そういえば前にこの辺りは家族で旅行にきていた、前世の話だけど。今来ると当時と変わっているところが多々ある。

「金城、お前就職するのか?」
「お父さんから聞いたの?」
「まあな。おじさん…金城のお父さんは大学行ってほしいみたいだぞ」
「大学か…」
「金城、一緒に早明に行こう。そして今度はライバルじゃなくて一緒に走らないか」

なんという青春。
ああ、そうか。私はまた青春をしていいんだ。まだ青春をしても、いいんだ。
そう思ったら俄然大学に行きたくなり、福富くんと話している金城くんに抱き着く。

「な、ど、どうした」
「私大学に行きたい、奨学金まだ間に合うかな!」
「あ、ああ。間に合うさ、きっと大丈夫だ」
「どこの大学に行くんだ」
「あ…決めてない。どうしよう、お父さんと同じ高校だから大学も同じにしようかな」
「誘ったオレの立場は!?早明は!?」
「早明はな…」

行くの2回目になるし。とは言わないけど。
とりあえず進路の先生と相談してみよう、それと監督と。
そうだ、私は金城奏なんだから、それでいいんだよね。



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